こんにちは自衛隊
三日目の目玉は何といっても自衛隊との邂逅だった。だが、残念ながら上手くはいかなかった。
彼らは事前の予定通り、公園の青々とした芝生にいた。
本日は残念ながら特殊車両の展示は無かったが、自衛官がそこに立ち、沢山の子供たちに囲まれて記念撮影に応じていた。
それを遠巻きから見つめる自衛官が1人。まるで異常が無いように監視している風だった。
私は彼に目を付けた。
タイムスリップもので一番大事な瞬間とはこの出会いにある。異なる文化が干渉する時、そこには必ずと言っていい程の山場を迎える。有意せねばならなかった。戦国自衛隊では雨のような矢が降っていた。
さすがは自衛官というべきか、彼は私が目を付けてからほんの数秒のうちに決断、行動した。
そっぽを向いたのである。顔だけではなく体ごとどこか違う方向を見たのだ。
どこをおむきになられているのだとその視線を追えば、彼は年配の自衛官の方を見ていたのだった。恐らく彼の上官だろう。
きっとこう思ったのだ。『これは催し物か!? それともガチか!?』と。上官へ視線を送っていたのは自分の判断だけで行動するのがまずいと思ったからに違いなかった。
その時それに気がつければよかったのだが、鎧を着てヒーローと出会えたことに嬉しかった私は、ずんずんと近づいてしまった。
もう手の届く範囲にいたって、陸上自衛隊の迷彩服に身を包んだその自衛官さんは生唾を飲んだ。彼の上官は子供とその親御さんに囲まれており、質疑対応で手いっぱいだった。加えて、他の自衛官は同じく会場にいた自衛隊のマスコットキャラを誘導するのに忙しく、事態の急変に気が付いていなかった。
目の前に本物の鎧を着た武者がいる。誰がそれを信じただろうか。だが、実際彼の前に私はいたのだ。いや、影虎はいたのだった。
人は緊張すると体臭が変わる。緊張した人間の物は独特で、この時嗅いだのはその匂いだった。私は場を和ませようと思って自ら声をかけた。
「こんにちは。今日は特殊車両の展示はないんですか」
さすがに私も現代語を使う。彼は緊張して直立不動だった。
私は181cmだが、彼はそれよりも高く、おそらく190cmはあったのではないだろうか。一方で体の太さは私の2/3ほどしかない。彼は私を見てヤバいと思ったに違いなかった。なにしろ、ここ二カ月ほどで胸周りは10cm、腕の太さは3cmも太くなっていたのだ。これは25キロの鉄の塊を着て練り歩いた結果である。
加えて鉄の鎧は本物だ。近づけば近づくほどにそれが偽物でないと分かってしまう。歩けばガシャガシャと鉄が音を奏でる代物であった。
私の言葉を聞いて、やっとこちらを見た自衛官さんはあからさまに緊張がほぐれていた。これは悪いことをしたなと思った。
この時、会場には他にコスプレイヤーがまだいなかったし、会場にいる多くのスタッフがコスプレ参加をする人がいることを把握していなかった。自転車の停め方を指示していたスタッフなんて私を見て悲鳴を上げたくらいだった。ごめん。
この日、一日を通して参加したコスプレイヤーの数は約十人。それに対して参加した一般人は公式予想で数十万人。恐らく、鎧と出会ったのは私が初めてだったはずである。
最も反応が良かったのは消防士の方だった。




