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影虎

 本日は鎧着用3日目。とても嬉しいことがあったため、帰ってきてすぐこれを記す。


 今日私が行ったのは大田区、平和島公園のイベントだった。大田区は情緒あふれる町並みで、街中の移動手段は、車よりも自転車が多いような場所だった。前を見ればどこまでも住宅が並んでいる。マンションも見える。対して畑や田んぼは全く見えない。


 会場となるのは平和島公園、水のエリアという場所である。この場所、普段はボートレースを行っている場所であり、私はここで運命的な出会いを遂げることとなった。


 結構大きめのお祭りのようなイベントで、屋台が沢山出ていた。その真ん中でボートレースの支配人的な人が、レース用のボートを引っ張り出して来て、そこに一般人を乗せて写真を撮らせるというイベントをやっていたのだった。


 当然、鎧姿の私はその撮影に向かう。レース用のボートなんて初めてだったし、鎧武者が現代のレース用のボートに乗っているなんて面白いじゃないですか。だから我慢できなかった。


 自分の番が近づくにつれ、スタッフたちの顔色が変わる。大きく分けて二つ。こっちにこないでと顔で言う者と、早く会話したくてたまらない者。彼はどちらかというと、後者だったようだ。


「今日はどこから来ましたか?」

「関東からです」

「……」


 県まで言わなければいけないのか、面倒だなと思っていると彼はおかしそうに笑って口を開いた。


「何言ってるんだ。そこは『小田原城からきました』とか、『伊勢から来ました』とか言わなきゃだめだろう」


 彼が何を言っているのかというと、お前は武士の格好をしているのだから、どこから来たかを聞かれるということは、お前の武士としての出所を聞きたいのだということである。


 私はハッとした。私の中には武士がいるのだが、彼の言う通り、その出身も名前もまだなかったのである。名前を聞かれた時には、いつも私は小説の筆者名を答えていた。今まで何と夢のないことをやって来たのだろうか。がっくり。皆、求めている答えは、それではなかったのである。


 頭にガツンと来たのだった。おそらく日本刀で切りつけられるよりもガツンと来た。


「お前まだ武士として日が浅いのか?」


 さすがである。その通りだった。さすが夢を売ってお金にしている男は、言う事が違う。私を馬鹿にしているのではない。歩み寄ってくれている。彼が言うように、誰が夢の国に行って現実の話を聞きたいというのだろうか。


 彼が、私の武士としての名付け親となってくれた。こんなに嬉しいことがかつてあっただろうか。


 私は、”駿河国するがのくに 影虎かげとら”という武士になった。


 面白いのはここからで、名前を聞かれたらまず影虎と名乗り、一人称が儂となった私にいたく感動したお祖母ちゃんがいた。


 勿論今まで会ったことも無かったし、彼女もどうやら孫を連れてお祭りに来ただけのようだった。


 しかし彼女は、私の立ち居振る舞い、一人でいるところを見て本当に武士だと思ったらしく、屋台でちぢみを買って持って来てくれるし、焼きそばも安かったからと言って買ってくれた。嬉しくて嬉しくて


「旨い!!これは何だ!お殿様に献上せねば!」


 なんて言った物だからドンドン信じちゃって、終いにはスマホを持ち出し、


「箱根の方に同類がおりまする。一度行って会うのがよろしい」


 と真顔で教えてくれたのだった。影虎は随分人に好かれるタイプのようだった。きっと彼女は、影虎が仲間を探していると思って、他の鎧を着た人を紹介しようとしてくれていたのだ。私がタイムスリップしてきたと本気で信じているのだ。


 私は段々申し訳なくなり、お礼を言って逃げるように人ごみに紛れた。

 今晩寝る所まで面倒を見てもらうことになりそうだったのだ。さすがにそれは申し訳ない。この令和にも随分面倒見がいい人がいたものである。大田区の人、人情深く、ぐいぐい来る感じがこう、日本人の良い所を濃くしたような、そんな感じがした。そういう人が本当にいっぱいいた!また次も書こうと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何処から来た? に、私は──  〇〇から殿の〜とか、浮かんだら  同じ貉なスタッフさんだった(大笑)  声も作り、低く喋るのもいい。 なりきろう!  根氏(ねっし) 座右衛門。…
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