ジンジャエール事件
鎧という物には魔性の魅力がある。
例えば私がそれを着て、屋台の看板を見ているだけで人が集まって来るのだった。『何を見ているんだろう』って誰もがチラチラみてくる。
魔性の力などないように見えることが、最も魔性なのだった。
私は誰かに腰に下げた日本刀を抜かないよう常に柄に手をかけている。だからそれも怖い。目だって睨んでいるようだったし、顔はドクロだ。でも話したい。特に鎧を見た男性たちの夢中っぷりはすさまじかった。
私を見て景気良く呼び込みをしている屋台の兄ちゃんが黙ってしまう。それでちょっとお茶しませんかという話になる。一言二言話して終わりかと思って了承すると予想以上に長く拘束され、大変であった。私は、普通の人間と話すのが苦手だ。向こうはなにか、時代劇的な言動を求めている感じがする。もしかしたら、心のどこかではタイムスリップした武士だと思っているのではないか。と思うほどに。
これが私の着ている鎧という物である。時々、これが鎧の力でなくて、自分の魅力だと思いそうになって怖い。でも勿論、そんなことない。
私を見たお店のあんちゃんが機嫌をよくして商品を安くしてくれることなど良くあった。
ヤバいよ鎧。皆マジじゃん!!!
ちなみに私についてきた人が、そのまま同じ物を買うので結構な宣伝効果があったのではないかと思われる。
そこで手にして飲んだジンジャエールがまた、旨くて旨くて!
250mlにも満たないカップの口いっぱいに、なみなみと味の濃いショウガ味のじんじゃえーる。砂糖水と炭酸であるが、勿論、鎧を着たまま飲むと、喉にジワーッと広がるのだった。声にならんて。酒なんてめじゃねえって。めちゃくちゃ旨いのだった。
自販機で売っているのと全然違う。こ、これが都会のおしゃれ屋台の味か!と心の中の武士が騒ぐ。
が、問題が起きた。鎧は鉄製で、熱がこもった。お天道様に温められて、頭が暑いを通り越して痛くなった。
関が原で、桶狭間で、名も無き戦場で戦った武士たちはこんなつらい環境で戦ったのか。実は頭を守る兜のてっぺんには穴がある。これは湿気を逃がすための穴だと思っていたが、恐らくこれは水を入れるための穴なのではないか。そう思ったくらいである。
人間の体を構成するのはほぼ水だ。水は100度までしか上がらないが、鉄はその十倍以上まで加熱される。太陽の熱と人体が放つ熱量がプラスされていた。ううう。頭がゆだる。
私は鎧にまだ慣れておらず、日陰に逃げるほかはなかった。
自販機でコーラを買い、一息に飲むなどする。
それくらい喉が渇いていた。
一息つくと、そこが巨大商業施設の入り口であると気が付いた。
外国人入国時の規制緩和で大量の外国人が日本観光に来るようになっていた。コスプレの物珍しさに集まった外国人たちが、透明な自動ドアの前で立ち止まっていた。そこからは丁度立ち並んだ自販機と、その前に立つ不気味な鎧に身を包んだ日本人の姿が見えたのだった。
外国人は、入り口で止まればあとがつかえることなど分かっていただろうに、何度も何度も見てくるのだった。二度見どころではない。
その外国人は、見て分かるくらい震えた腕でカメラを構える。早く動けと後ろから押した外国人さえ、鎧姿を見て止まるのだった。




