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二日目!!

お待たせしました!!

 本日、鎧着用二日目を迎えました。


 着替えようと足を踏み込んだ会場には、気だるげなスタッフがいた。

 ちょうど、ゲームのnpcキャラクターみたいに同じことを繰り返し案内する要員です。心を殺して仕事をされています。それも良く晴れた日曜日に、なんということでしょう。よく分からないイベントのスタッフとして働くのですから、それはもう憂鬱な物なのです。私もぞんざいな扱いを受け、鎧着用と相成りました。


 今日は随分混んでいまして、会場に入るだけで1時間も並んでいましたから、トイレに行きたくて例のNPCみたいなスタッフさんに近づきます。


 更衣室を抜け、50mほど先にスタッフさんはいたのですが、もう私をガン見です。スタッフさんは恐怖しておられました。熊に会った時のように全く身動きを取らなくなったのです。私は身長が180センチメートルありますから、それで鎧を着るとそれはもう熊に見えたのでしょう。しかも顔は頭蓋骨剥き出しの不気味な面に覆われていると来た。


 今、目の前にいたって、彼はまだ動こうとしない。

 次の客が来て案内を待っているというのに、息をしなければ死ぬというのに、正に、息を飲んで固まってしまったのだった。


「トイレはありますか?」


 私は出来るだけ丁寧な口調で聞かなければならなかった。下手に古い言葉や方言を使えば、このおじさんは混乱してしまうだろう。そして彼は、縮みあがった声でトイレの説明をしてくれた。


 私の鎧姿を見た人は、二種類に分かれる。気にしない人と取り付かれた様に見てしまう人だ。彼は後者であり、時々そういう酔狂な人間がいる。今日は彼のほかに3人会った。そちらも後で触れることにする。


 今回の会場は巨大な公園を貸し切り、そこにステージやお祭りのような屋台など数店舗が白いテントを突き合わせて設置されていた。

 大きさにして100メートル四方くらいの広さで、切りそろえられた芝生と良く手入れの行き届いた砂利道に数百人が押し寄せていた。


「やべえ。出遅れた」


 巨大なスピーカーから陽気なMCの笑い声が流れ、ステージ上ではコスプレイヤーが自慢の服装を披露しているようだった。

 明らかに金をかけているような人もいれば、赤ん坊を抱いている人もいる。

 私はそれを見ながら、司会進行をする人間を観察した。


 男の方は、白い縁取りのメガネをかけたやせ形で、非常に口が達者だった。ステージを見ているコスプレイヤーはまるで盛り上がっていなかったが、それを何とか盛り上げようとマイクを握っている感じだった。けなしているのではない。褒めている。プロだなぁと思った。


 もう一人は女性で、何か色素の薄い髪の毛をした女性キャラクターだった。残念ながらそのアニメを見ていないため、どんなキャラクターかは全く分からなかった。でも明るくて、若いのにとても話が上手だった。二人の進行は完璧だった。


 それを立ち止まって聞いていると、どういう訳か、時々変な間が生まれているような気がした。私は、あまり人を理解するのが上手い方ではないので、人の目を見て確認する。いつものようにそれをすると、彼らはチラチラと私を見ていることが分かった


 いや、なんで。ステージ上にいるということは、会場を支配するということだ。なのになぜ、下々に気を取られている。なんなら場所を移動しても目が合うのだった。


 試しに私は脇差を抜いてみた。ちょうど左腰に刺した物を抜き出して右手に掲げる形だ。やっぱり見ている。私が怖いか人間よ。その通りだ。


 鎧には二つの意味合いがある。一つは武器による攻撃から着用者を守る事。もう一つは相手を恐怖させ立ちすくませること。


 私の全身包んでいたのは、硬い鋼で出来た鎧である。顔はリアルな髑髏姿。間に合わなかったため、兜飾りは無く、それがまた不気味さを際立たせた。兜には金色の飾りがある。これは誰が着ているのかを示す物でもある。合戦ではこれがしばしば落ち、ついていない武将も多かった。これが有名な武将の物が飾ってあればまだ違っただろうが、それは無かったのである。当然視線は髑髏の方に動く。


 端的に言って怖いのだった。死は誰もが恐れるイメージである。それを連想させる髑髏の面頬はまさに私の望んだ結果をもたらした。本日初お披露目でありながら、見た者に与えたのは恐怖は予想以上だった。映像や画像では感じてもらえないと思うが、きっとそれは猛獣の檻の中に足を踏み入れたような感じだったのではなかろうか。


 私の周りだけ川の中の大石のように人波が割れていた。中には面の内側を覗いて来たりする者もあったが、大抵目が合うとひどく肩を震わせて逃げて行った。動かなかったので人形だと思ったのかもしれない。


 道行くパトカーでさえ、私を見て止まったほどだった。


 この後、あのステージに私は立つこととなる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私はガン見(目の前で) しますキッパリ。 兜の飾りは、なければ無くて構わない、注目度が、それはそれで変わるから。
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