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タイムスリップしちゃってるじゃん


 ステージに上がれるのは選ばれた人間だけだった。


 どう選ばれるかというと、司会のお姉さまが、その美しい手でお引きになられるカードの番号と一致した者だけがステージへと上がれるのだった。整理券は希望者に配られたが、皆が参加できるわけではなかった。


 これがまた呼ばれない。


 喉が渇くような緊張の中、硬い鎧の内側から何とか祈るような気持ちで私はその時を待っていた。


 そしてその瞬間は唐突に訪れた。ふかふかの芝生の上で私の番号は高らかに宣言された。3度見返す。私の番号だった。私の番号だった!!!


 手をあげて当たったことをアピールする私を見て、ステージ上で司会の方がわずかに頬をひきつらせる。そりゃ怖いもの。しかし彼らはプロである。『あそこの甲冑を着た紳士』という言葉でご氏名をしてくださった。


 当てられればもう、こっちの物なのだった。この、現代日本という世界に舞い戻って来た武士は、今この地にて戦場へと立つのだ。この日の一番の目標はこれだった。


 ステージに立つなんて、学生のころ以来だった。大学卒業がかかった最終論文発表会よりも、中学校のお楽しみ誕生会よりも、ずっとずっと緊張したのだった。なぜあんなにも吐きそうで、苦しくて、楽しかったのか……。元来、日本人である私はお祭りが好きなのかもしれないな。


 話は戻って、選ばれた人は、選ばれた人だけが行ける通路と言う物に案内された。このステージはインターネットにて生配信される都合上、常時四台のカメラと、その3倍近いプロの映像制作会社社員によって成り立つお祭りだったのであったため、所狭しと人と機材が波を打つ。


 まず気を付けねばならなかったのは、その場にいたプロデューサも、カメラマンさんも、アシスタントディレクターさんでさえも、鎧姿の人間を見慣れていなかったことであった。

 私が視線を感じて顔をあげれば、必ずと言っていい程スタッフたちが見ていた。そして彼らはびっくりして顔を逸らすのである。


 楽しい。

 

 随分長い間並んで待っていたように思える。

 自分の番が次に迫るとき、舞台袖では司会進行を務める二人が見えていたが、彼らもこっちが見えているようで、もう二人は演技中の前の人よりも、こっちをチラチラと見ているのだった。


 声がかかり、ステージ上に足を踏み入れる。壇上からは、見上げる人々の顔が良く見えた。がいじゃのー。皆、逃げるタイミングというのが分かっていない。

 逃げるなら今ぞ。


 私は脇差を抜き、掲げて思いっきり振り下ろした。


 私が登場した時、インターネット配信されていた動画では、一斉にコメントが流れていた。


 その中で最もうれしかった物を抜粋する。


‟タイムスリップしちゃってるじゃん”


 もう、これ以上無いってくらいの褒め言葉。孫市!!見ておるか!!わしじゃよ!!


‟これ本物ですよ”


 司会の人に本物なんて言われた日には、もう酒が旨くて旨くて。おつまみなんていらないね。いやホント。


 鎧に弱い人というのは老若男女おられまして、わずが一分少々の舞台ではあったが、降りた瞬間から、全く、コスプレなんて興味のなさそうなおばさまに肩を叩かれ、ガラケーにて写真をせがまれるなどする。


 先ほどまで寄り付かなかった人間たちが、私の周りに寄り集まって盗撮するように写真を撮ってくる。


 中には触りたいと言って手を伸ばしてくる大人の男性もいたりした。


 やはり男の子だよ。皆、鎧好きだろう。分かる分かる。


 惜しいかな、この前日には私と同じように本物の鎧に身を包んだ方がいらっしゃったことを今知って歯噛みする。

 しかし、今日は自作の鎧のコスプレで出た人もいて凄く良かったな。なんかもう羨ましそうに私の晴れ姿を見てくるのである。やはり鎧は鉄でなくてはダメだ。と、思ったに違いない。彼はおそらくこれから本物を買うだろう。できればまた再会したい物だ。


 この後さらに、ジンジャエール事件、アメリカさん御一考による写真撮影の列などまだまだ控えております故、どうぞお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[一言] おめでとうございます! まあ……南蛮製の鎧も良くはありますが── 私が選ぶのは大鎧です。 絵として、映えるであろう構えや、得物……どれを選んでも良いと思いますが オーパーツである野太…
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