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男爵令嬢エリザベス・インテバンは、皆に「不幸だ」と指差されている  作者: 喜楽直人
第一章 突然背負った借金と契約としての婚約
22/136

1-22.大叔父ゲルス

※チンピラによる、おげふぃんな表現がございます。ご注意ください※

※暴力行為注意※


22.




 そろそろ、母の下に昼食を運んでもいいかもしれない。


 まだ階上からは母の恨み事が聞こえてきていたけれど、その声も疲れてきたのか大分トーンダウンしている。

 今からパンを温めたり準備をしているウチに、もっと落ち着くことだろう。

 スープを持っていったら食べてくれるに違いないと、ベスはペンを置くことにした。



 骨付きのまま半身を使って作った鴨のスープと丸パンという贅沢な昼食を持って母シーラの寝室へと向かう。


 予想通り、ベスが準備をしている間に疲れ切ってしまったのだろう。

 母シーラはぼんやりとベッドの上で座っていた。



「おかあさま、お昼ご飯をお持ち致しました。今日はスープにしてみたんです。この丸パンもですけど、この鴨もいただき」


 ベスが、昼食の内容を母に説明し終える前に、大きな濁声がそれを遮った。


「あっはっはーっ! いい匂いだね、エリザベス。いいねいいね。最後の晩餐かい? 借金だらけのこの家でする、最後の贅沢だね。いいよ、それくらいならゆるしてあげるよ。この家から価値のありそうなものは何も持ち出していなかったようで何よりだ」


「!? お、大叔父様? ゲルス・ザコタ様、ようこそおいでくださいました。期日は明日とお伺いしていたと思うのですが、今日はどのようなご用件でしょう」


 焦ってベッドサイドから離れて、ベスはゲルスと母の間に割って入るように立ち塞がった。


 そもそも、債権者であろうと親族であろうと、男爵夫人の寝室へ男性が勝手に押し掛けるなど言語道断だ。


「おやおや。お言葉だがね、エリザベス。儂はあの日から一週間待つと言ったのであって、次の日から数えていいなんて言った覚えはないぞ」


 ゲルスの声が、女二人で住んでいるインテバン男爵家の屋敷に、不気味に響いた。


「そんな?!」

「契約内容は、きちんと確認しなくちゃ駄目だよ、エリザベス。悪い大人に騙されないように、大叔父としての忠告だ」


 チッチッチッ、と一本だけ立てた人差し指を揺らしながら、ゲルスがそうベスに笑いかけた。

 その笑顔はまるで質量を持っているようで、不快な圧をベスの肩へ掛けた。

 急にずっしりとしたものに、圧し潰されるような感覚を覚え、ベスは自分の膝から力が抜けていくような感覚と必死で戦った。


「わ、わかりました。大叔父様のいう通り、いますぐ私たちは出ていきます。今着ている物までは奪わない、そういう約束でしたよね?」


 ベスはなんとかそう言い切ると、母シーラの下まで歩み寄り、そっとその背に手を寄せた。


「おかあさま。行きましょう? ちゃんと住居も仕事も手に入れることができたの。とても素敵な場所よ。きっとおかあさまも気に入るわ」


 ベスは出来る限りの努力をもって、母シーラの不安を和らげるべく、引き攣る顔に必死で笑顔を貼り付けた。


 そうして何より、ベスにも大叔父への意地があったのだろう。

 みじめに全ての財産を奪われ追い出されるのではなく、自分の足で出ていくのだというなけなしのプライドだけが、ベスを動かしていた。


 座ったままの母親に、ベッドサイドに置いてあったミュールを履かせて、寝間着の上からガウンを巻き付けた。

 これ位は許されるだろう。いや、許されるべきだと心を強くして準備を進める。 


 昨夜、明日にはバード医師が婚約に関する手配を済ませて来てくれると言っていた。つまり、今夜ひと晩だけ、元侍従のお世話になればいい。ひと晩だけやりすごせば、生活を立て直すチャンスが掴めるのだと思うと、ベスは背筋をまっすぐ伸ばして、母を連れてこの屋敷から出ていこう、とゲルスの前を通り過ぎようとした。


 その腕を、横から突然掴まれた。



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