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男爵令嬢エリザベス・インテバンは、皆に「不幸だ」と指差されている  作者: 喜楽直人
第一章 突然背負った借金と契約としての婚約
15/136

1-15.契約の申し出

15.




「俺としては結婚の申し入れについて、もう少し説明をさせて欲しいところだが。まずは受け入れて貰い易い所からにしよう。どうだ?」


 会話のエッセンスとして、軽い冗談として会話に付けたされた言葉には眉を顰めたいものがあったが、表情自体は真摯なものだった。

 そうして差し出された手は、先ほどベスの涙をぬぐってくれたものと全く同じ筈なのに。

 なぜだか悪魔からの誘いのようにベスには思えた。


「詳しい説明を聞く気はないか? 簡単で肉体労働でもなく違法な行為でもなく時間の拘束もほとんどない貴族令嬢にふさわしい仕事の斡旋と、男爵夫人のお気に召すかは分からないが、国が用意してくれた綺麗な屋敷が提供できる」


 立て板に水を流すような言葉で畳みかけられて、ベスの喉奥が、ごくりと音を立てた。



「……着いてきて」


 ベスは覚悟を決めて、説明を受けることに同意した。

 どちらにしろ、ここを出ていくしかないのだ。

 母にはぼかしてしか伝えられなかったが、空き家というのは完全に放棄されてから7,8年経った廃屋寸前のあばら家であり、相談をした元侍従がある程度までは手を加えて修理してくれると申し出てくれてはいたが、実際には元侍従も生活がぎりぎりであり、完璧な補修は望むべきもない。


 バード医師がベスに対してどんなペテンを仕掛けようとしていたとして、今より悪くなることがあるだろうか?


 ましてや、今日のところは話を聞くだけだ。

 手に入るカードの種類くらい知っていてもいいだろうと、ベスは自分を納得させた。



 再び屋敷内へと招き入れると、今度は応接室へと案内する。


 先日、あの大叔父と対峙した場所であり、縁起が良くない気はしたが父テイトの書斎へ招き入れる訳にもいかない。

 勿論、先ほどの様に台所でするような話でもない。


 

「どうぞ」

 扉を開けて、椅子を勧める。


「お茶を淹れてきますので、少々お待ちを」

「お構いなく。俺の提案はシンプルだ。そして説明を受けたからといって、その場ですぐ返事をしなくてもいい。ひと晩考えてから……いや、期日だという3日後ギリギリまで悩んだって構わない」


 ベスは少し悩んだ。本当は、台所で茶を淹れることで心を仕切り直して立て直すつもりだったのだが、仕方がない。

 バード医師に向き合う前に一度大きく息を吐くと、ベスは扉を大きく開いて、自分も対面になるよう席に着いた。

 その慎み深い様子に、バード医師が笑顔を浮かべる。


 自室から出てくることのない母シーラ以外は屋敷にいない。

 何も無かったと証明してくれる人もいなければ、何かあったのではと勘繰る人もいないということだ。けれど、ベスには貴族令嬢として男性とふたりきりで個室である応接室へ入るからには、扉は必ず開けたままにしておくこと、それだけは譲ることはできなかったのだった。




「では。お話を、お伺いさせて下さい」


 ベスの開始の言葉に、バードはそれまで浮かべていた笑顔を消して真面目な面持ちで説明を開始した。


「俺が、このインテ地方の王立治療院の担当医師として臨時に派遣されているのは知っているな?」

 真面目な顔をして、何を当然のことを確認しているのだろうと訝しみながら、ベスはバードの言葉に頷いた。


「では、俺が実際にはヴァリ侯爵領で常任医師として任命を受けていることは?」


 前任のエヴァンス医師は、ご高齢なこともありこの地で続いた旱魃の影響もあって体調不良で倒れられ引退を考えたが、僻地にある上に災害続きで貧しいこの地では、常駐医師への募集を掛けても誰の手も上がらなかった。唯一、エヴァンス医師が愛弟子であるバード医師が臨時の医師としてなら、と受け入れてくれたのだと聞いていた。

 その、”臨時でしか受け入れられない理由”として申告されていたのが、侯爵領で常任医師として既に任命されている、というものだった。


「えぇ。報告されていたから。知っているわ」

「つまり、俺はヴァリ侯爵領と、このインテ地方の二か所で、王国から住居の提供を受けているんだ」

「!!」

 王立治療院に配属されると、給料は王国から支払われるだけでなく、生活に必要な住居や使用人の雇用費などといった生活に必要な費用も王宮から支給される。

 バードは、ヴァリ侯爵領の王立治療院とインテ地方の王立治療院の二か所に配属されているので、そのどちらの地区にも住居が用意されているというのだ。勿論、家の管理を任せる使用人を雇う為の費用も出る。


「もしかして、そのインテ地方の住居を、私たちに?」





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