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キープ ザ シークレット

ご注意。

今回は『解決編』になります。

1話解決ではありません。『続きもの』です。

これまでの『事件編』を未読の方は、お戻りになることをお勧めいたします。



















 友人宅の屋敷にて蹂躙されたような部屋が発見される。

 部屋を荒らした犯人の侵入逃走ルートが判然としない。

 捜索と談議の末、彼が一つ思いついた。




「どういうわけよ正志。寒いんだけど」

「うん。正志くん。どうして外なの?」

「ああ、正志、わかったというのは?」

 一同、4人は屋敷の玄関から外に出ていた。

「ああ。実演した方が伝わりやすいと思ってな。俺も寒いし面倒だし、はやく終わらせよう」

 玄関前の石畳の上で彼はそういって、雪の積もる地面――庭に踏み出す。

 ターン。そのまま戻ってきた。

「は? 正志どうしたわけ? 侵入者の侵入ルートと逃走ルートを実演してくれるんでしょ? なんで帰ってきてんの?」

「いや、全部やるのはしんどいし、一部――トリックだけ明らかにすればいいだろ」

「ええ、そうね。――だから早くやりなさいよ」

「もう終わった」

「は? ナニ言ってんの? あんた、ちょっと歩いて戻ってきただけじゃない」

「だから、これがトリックだ」

「は? なにを言ってんの。わけわかんないんだけど!」

「よく見ろよ。アスカ」

「あっ! そうか」と少年。

「ああっ! なるほど。そっかそうだ!」

 彼女も彼の伝えたいことを理解した。

「ミナもエビヤもどうしたわけ? 見ろってどこを? べつに正志に変なところなんて――」

「俺じゃねえよ」

「は? じゃあなによ」

「足跡だよ」

「あしあとぉ?」

 少女は彼が歩いた雪の上を見る。


 一対の足跡が残っていた。


「別に変なところなんてないじゃない。ん、って、……え、あれ?」

「ああ、わかったか?」

「なんで、1回分の足跡しか残ってないわけ?」

 察しの悪い少女もついに理解した。

「あんた、行って帰ってきたわよね? それなら2回分……行って帰ってきた足跡が残るはずで、二対の足跡が残るはずで……って、あ、ああああっ!」


「ああ、そうだ。――行ったときの足跡の上を歩いて戻ってきたんだ」


「な、なるほどっ!」

ポンコツ少女が完全に理解した。

「俺は、行きの足跡に、帰りは上から重ねて踏んだわけだ。それで1回分の足跡しか残らない。これで、行き帰り――侵入逃走の2回を1つの足跡で済ませることができる」

「そっか。そうやって、この家に入って、逃げ出したわけね」

「ああ、屋敷の東側で足跡を確認したとき皆元が、形状からおそらく逃走のときの足跡だと判断していたが、おそらくこれが理由だろ」

「そーね、なるほど。2回踏めば、当然、あとから踏んだ形の方が強く残るわけだもの」

「ああ、これでどうだ?」

 彼が彼女の様子を窺う。

「なるほど、ね。うん、すごい。これなら侵入と逃走のルートが矛盾なく確保できる。……でもでも」

 彼女は――

「どうした皆元。気になることがあるのか?」

「うん。――でもでも、泥棒は、なんでこんなことしたのかな?」

 ――納得していなかった。

 彼女には、むしろ謎が増えた気すらした。




 彼女が疑問を口にする。

「意味がわからないよ。窓から侵入して、窓から逃げる。――うん。それはいいよ。でもでも、足跡を二重にして、ごまかす意味がわからないんだ。意味ないでしょ?」

「…………」彼は答えない。

「これなら、逃走のときに泥棒は『わざわざ侵入したときの足跡を踏んで』逃げたってことだよね? でも、そんなことしなくても、何もせずに逃げてもいいよね?」

「……」

「むしろ足跡を踏んで逃げる分、手間がかかるよ。物を盗んで、一刻も早く逃げたいはずなのに……。発見されるリスクが増えると思うんだ。それなら走って逃げた方がいい」

「……まあ、そうだな」彼もそれはわかっていた。

「足跡が2つあっても自然なことだよね? 普通のことだよね? 足跡が二つあれば、もう泥棒は逃げてしまったんだ、と思われる。――でも『それだけ』なんだよ。実際にもう逃げているわけだし。捕まるリスクは変わらない」

 彼女は、犯人の考えが理解できなかった。

「どうしてなんで、泥棒はこんなトリックをしかけたんだろう……」

「でもミナ。この正志の思いついた方法でしか、外に出る方法なんてないわけだけど」

「うん、まあ、そうなんだけど……」

「だからこの方法が使われたということで、間違いないわけでしょ」

「でもでも……、この泥棒、意味不明な行動が多すぎるよ」

 もう恐怖はない。

 ただ疑問に思うことが、彼女の思考力を高めていた。




 彼女が不明な点をあげつらう。

「まず、なんで犯人は部屋の窓を閉めなかったのかな。――そもそも私達が荒らされてる部屋を発見できたもの、窓が開いていて風が中に入って扉がガタガタ揺れていておかしいと思ったたからだもん。窓さえ開いていなければ、すくなくとも妹の静佳ちゃんが帰宅するまで、気づかれることもなかったのに」

「……まあ、そうね」

「それから、屋敷の中に人がいるのに侵入したこと。――リスクが高いよね。いくら静佳ちゃんが出かけていることを知っていても、中にはエビヤくんや正志くんがいた。隣の部屋だし。庭の室外機が動いていたんだから、人がいるのはわかる。足跡もエビヤくんの部屋の横――室外機の前を通っているし」

「…………」

「それに、お金になりそうなモノが何も盗まれていなかったのも不自然だよね。――スマホもゲーム機も無事だった。収納の押入れをひっくり返すような勢いで部屋を荒らしていたのに。でも貴重品は手をつけていない。いったい、なにを盗んだのか……」

「……」

「あと、妹さんの部屋の窓の鍵も、謎だよね。――この足跡トリックなら、窓の鍵が開いていることを知っていないと実行できないし。窓は、もともと施錠し忘れていて、偶然に開いていたのか。開いていたことを犯人はどうやって知ったのか? もしくはなにかしらトリックを仕掛けて犯人が開けたのか?」

「……」

「最後に、足跡のトリックを仕掛けた理由がわからない。――足跡を2重にしてごまかすトリックで、侵入ルートと脱出ルートの謎は解けたけど。でもこんなトリックを仕掛ける意味がないもん。さっきも言ったけど、足跡なんて気にせずに、そのまま逃げればいいのに……」

「……」

 少女の顔が曇る。



 ――仕方がないか。

 そのとき、その誰かは、そんな風に思った。



「うん、さすがだね。ミナモトさん。そこまで考えられるなんて」

「いや、そんなことないよ、エビヤくん。――これくらいのことはふつうだよ」

「うん。このままだと、そのうち気づくと思うから、もう言ってしまうね」

「……ん? もう言ってしまう? ――なに、エビヤくん」


「この件、ボクが犯人だよ」


「えっ!」

「なっ!」

 少女と彼が、驚きの声をだした。


「ん。えっと、あ、って、……えぇええええええええええええええぇええぇっ!」

 少し遅れて、ヘッポコ彼女の声が庭を駆け抜けた。







 動揺する彼女が訊ねる。

「ちょっとちょっと、まってよ。エビヤくんが犯人って、どういうこと?」

「だから、ボクがあの部屋を荒らした犯人。――もう気づかれそうだし、もう充分に楽しんだし、息抜きできたから、自首しようと思って。……ごめんね」

「え、まって。意味がわからないんだけど……」

「……おいエビヤ。お前、ざけんなよ」

「いや正志、ふざけてなんていないよ。――ほら、勉強中に1回トイレに立っただろ? そのときに準備したんだよ」

「……」彼が黙った。にらむ。

「じゅ、準備したって、どういうこと。エビヤくん」

「そのままの意味だけど?」

「そ、そのままって……」

「一番重要な足跡のトリックは、正志に解かれちゃったし、もうネタばらしすることにしたんだ」

「え、そんな……」ショックを受ける彼女。

「エビヤ、あんた……」怒ったような少女。

「それで、皆元さんの疑問に思っていたことはすべて解決するだろ?」

「え、ぜんぶ、解決?」

「ああ、確かにそうだな。――さっき皆元があげた不明な点だな」

 にらみつける彼が確認をする。

「エビヤは、皆元とアスカが昼食を作っているときに、トイレに行くといって部屋を出て、この件を仕掛けた。それでいいのか?」

「うん。そういうこと」

 少年が頷いた。

 それで彼はすべて理解した。


「エビヤ、確認するぞ」

 彼が言葉にして確認する。

「おまえは、まず妹の部屋を荒らし、窓を開けて外に出る。そして玄関の石畳まで歩き、また戻ってくる。先程のトリックを使ってな。――侵入して脱出するという順番ではなく、脱出してから侵入する。順番は逆だが、それでも一対の足跡はできる」

「うん。正志の言うとおり。やっぱり謎な部分がないと、興味を持ってもらえないかもしれないしね」

「……え、エビヤくん、興味、って?」

「まあ待てよ、皆元。――ぜんぶ話すだろ。順番に、な」

 彼が会話の主導権をもっていく。

「んで、さっき皆元が言っていた点。――窓の鍵の件だが、内側から自分で開けた、と。それならこの件はもう謎ですらないな」

「うん。そういうことだね」

「だから金目のモノも盗まれていなかった。部屋のスマホもゲーム機も無事だったってわけか。まあ、自分ちの金目のモン盗まねえよな」

「ああ、そうだね。――それに勝手に触ったら怒られるだろうしね」

「……部屋を荒らしてる時点で、怒られると思うわけだけど……?」

 少女がつっこみした。

「あ、……まあ、そうなんだけど。帰ってきたら謝るよ」

 少年が天然を発揮する。


 彼が引き続き不明な点を確認していく。

「家の中に人がいた件だが……この件は確認するまでもねえな。ご当人だ。そりゃもちろんわかってるな」

「うん。まあね。――自分の部屋の前を通るときは緊張したよ。部屋の中には正志がいるから、気づかれないかってヒヤヒヤした」

「……足跡の歩幅が小さかったのは、物音をたてないように注意していたからなんだね? エビヤくん」

「あ、そっか。そうだね」

「それで、部屋の窓が開いたままだった件だが――」

「ああ、うん。発見してもらわないと事件にならないからね。だから、あえて開けたままにして部屋を出たんだ。それでドアが揺れてミナモトさんたちが気づくように」

「……そういえばエビヤくん。私達が部屋を見つけた時、警察に連絡しないで、と言っていたけれど。それは自分が犯人だから? はじめから盗まれている物なんて、ないと知っていたからなの?」

「うん。部屋を見つけてミナモトさんが、警察に連絡しようとした件だね。あれは焦ったよ。そこまで事を大きくするつもりはなかったから。――ふつうは連絡してね。警察に。旧家や名家だからって泥棒に入られて警察を呼ばない方が良い事例なんて、ないから。まあウチはべつに旧家や名家とかじゃないけど。ただ大きいだけで」

「……」

彼女が黙った。――たしかにそうだよね。


 不満げな顔で彼が言う。

「なるほどな。これで全部、不明な点は話したな。……解決だな?」

「うん。そうだね。ごめん、みんな。お騒がせしました」

「ちょっ! ちょっとまった」

 彼女が引き止めた。

「動機! 動いた理由。なんでこんなことしたのか、聞いていないよ!」

「皆元。わかってなかったのか……? てかもう、どうでもよくないか?」

「わからないよ! どうでもよくないよ! 1番大事なことじゃん。正志くんが待てっていったんじゃん。ぜんぶ話すだろうって。――それでエビヤくん、何でこんなことしたの?」

 少年が申し訳なさそうに話す。

「えっと、まあ、なんというか。……息抜きしたかったんだよ」

「息抜き? さっきも言っていたけれど……。それに興味を持ってもらうって……」

彼女が、先の少年の発言を繰り返した。

「ほら、ボク、明日、再追試だからって、ずっと勉強漬けだったからさぁ……。だからすこし休憩したかったんだよ」

「え、休憩って?」

「ほら、正志はスパルタじゃん。ふつうに休憩しようと言っても却下されるだろう?」

「……だから事件を起こして、サボろうとしたってことなの?」

「そういうことだね」

「……興味を持ってもらうっていうのは、そういうことだったんだね。ただの泥棒だったら、なにも考えることなく、事件が発生してそれだけで終わってしまう。けれど、あえて足跡を細工することで侵入ルートがわからないという謎を作り出して、私たちを考えさせて時間を稼いだ、そういうこと?」

「うん。そうだね」

「……なるほどね。うんうん」

 彼女が納得した。

 彼女が少年の方に歩いてゆく。

「エビヤくん、ちょっと歯を食いしばりなさい!」

 彼女が振りかぶって。


 ずどん!

「どバラっ!」

 彼のストレート(強)が、少年にクリティカルヒットした。


「ぐあぁ……。平手打ちかと思ってたけど、お腹か……。くぅうう。ボク、もっと腹筋がんばった方がいいかな……」

「ちょっ、あれ、え?」

 彼女が振りかぶったまま混乱していた。

「はあ、……ったく。おまえは……。どんだけ腹筋してんだよ。手ぇめっちゃ痛えぜ」

 溜息をついて、あきれた彼が言った。

「ちょっと、え、ええっ、おいおい。正志くん」

「んだよ皆元」

「いや、なんで……エビヤくんを殴ってるの?」

「なんでって、理由なんて明白だろ。俺の方が皆元よりもエビヤを殴りたかった。いい加減イライラも限界だった」

「いや、そんなことでお友達を殴るなんて……」

「皆元おまえ、ぜってーヒトのこと言えねえだろ?」

「私は手加減するもん」

「その発言はちょっと疑わしいぞ……」

 

「まったく正志は……おもいっきりだったなあ……」

「ちょっ、ちょっと、エビヤ? あんた大丈夫なわけ?」

 腹を押さえてうずくまる少年を少女が心配している。

「ねえ、……アスカちゃんがボクの心配とか珍しい光景だよね?」

「いやアンタ、ふざけてる場合じゃないわけでしょ?」

「大丈夫だよ。へーきへーき。たぶんお昼の《ミナモトフィンガーブレイク》よりもマシだと思うよ」

「エビヤくん、私の『ガド足ゴン』にそんな名称つけなくていいから……」


「まあ仕方ないさ。ボク、殴られるだけのことをしたと思ってるし」

「……ちっ。まったく。なら、んなことすんなよ」

「でもさ、キミだって、同じことするだろ?」

「……するわけねーだろ」

「はは、」少年は痛む腹を押さえて薄く笑った。


 彼が伝えた。

「……俺、帰るわ」

 少年が返した。

「……うん。悪かったね」

 彼が背を向けて、敷地外に歩きはじめる。

「おい、皆元。いくぞ」

「え、あの、正志くん?」

 彼は、彼女の手をとった。

 そのまま、彼は彼女をひきつれて敷地の外に出て、歩いていった。

お読みいただき

ありがとうございました。

お疲れ様です。


はい、前々回から続いた話の『解決編』でした。

ええ、これで解決ですね。


でも、これって『正解』なんでしょうか?

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