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その足跡は一度だけ

この話は1話完結ではありません。

『続きもの』です。ご注意を。


また舞台は、前回より続いております。

まだご覧になっていない方は、

一度戻られることをお勧めいたします。















「きゃああああああぁ!」

「ああああああああぁ!」

 廊下からの悲鳴。


 彼らは部屋から飛び出した。

 隣の部屋の前に、驚いた様子の彼女達がいた。

「どうしたんだ! 皆元、アスカ」

「どうしたの?! いったいなにが……」

「こ、これ……」

 茫然と立つ彼女が指差した。扉の開いた部屋の中を。

 そして、言った。

 

「部屋の中が、荒らされてるのっ……ほらっ!」

 

 彼は、彼女が指差す室内を見る。

 無惨だった。部屋の中は足場もなく散乱している。洋服、ペットボトル、空き箱、スマホ、ラケット、水着、浴衣、マンガ、下着類、ゲーム機類、ぬいぐるみ、などなど。

 収納棚の戸が開かれている。その中から無理やり引き出したかのようだ。


「これは……」

「うっわ……」

 少年たちは困惑する。

「やっぱり、泥棒? ……でも、誰も、いないよね、部屋の中には。……あ、窓が開いてる。もしかして、いま逃げたところかも!」

 彼女が部屋の中に踏み入った。

 部屋の奥、ベッドの向こう側にあるカーテンが揺れている。

 奥に進みベッドに乗り、恐れつつもカーテンに手を伸ばす。引く。

 窓が大きく開いていた。外を確認する。

「だれも、いない。――あっ! これは」

 窓の外には白い雪が積もっており、そこに一対の足跡が残っていた。

「正志くん! ちょっと来て。見て」

「ん、これは――」彼女の横にやってきた彼が確認する。

「足跡だよ。きっとここから飛びおりて外に逃げたんだよ」窓から雪の積もった地面まで2メートル弱。「けど……1つしかない。1回分の1人分。外に出た足跡しかない。……いや違う、かも。もしかして、これって中に入ったときの足跡……」

「ああ、そうだな。つーことは――」

 彼女がうろたえながらも、覚悟を決めて答えを導き出す。


「うん。泥棒が……まだ家の中にいるかもしれないのっ!」


 一同に、緊張が走った。





 荒れて散らかる部屋で、彼女が説明した。

「私達、カレーのお皿洗いが終わったから、正志くんたちに声をかけて帰ろうとしていたの。ダイニングから出て、廊下を通ってエビヤくんの部屋に向かって。でも部屋に向かう途中、この部屋の扉が――ドアがガタガタって揺れているのを見つけたの」

「ああ」

 いま思えば、扉が揺れていたのは、窓が開いたために風が入ってきていたからだろう。

「それで、私おかしいと思ったの。だからそれで、アスカには止められたんだけど、扉をノックしてみたの」

「なるほど」

「でも、なんの返事もないし……だからもう扉を開けてみたの。そしたら、部屋の中が荒らされていて……おどろいて……」

「それで叫んだわけか」

 コクン、と彼女が頷いた。


「ど、どうしよう……こんなときって、どうしたら……」

「ええ、ほんと、どうしたらいいわけ……」

 女子2人は動揺していた。

「そうだっ! まず警察に連絡して――」

「ちょっとまった! ミナモトさん」

 スマホを取り出す彼女を、少年が止めた。

「どうしたのエビヤくん」

「その、まだ何か盗まれたって決まったわけでもないし、警察への連絡はやめよう」

「そんな、なんで? こんなに部屋が荒らされているのに……」

「いや、それは……その……」

「おい。皆元、エビヤが警察はやめろって言うなら、やめとけよ」

「だからなんで?」

「……ちょっとは察しろよ。こいつの家はでかいだろ? いわゆる旧家やら名家ってやつなんだよ。そういう家柄のとこに警察を呼んだら、厄介なことになるんだろうよ。信用問題とか」

「……ああ、そういうこともあるんだ……」

 彼女が渋々と納得した。



「とりあえず、ボクと正志で家の中を見て回ってみるよ」

「ああ、皆元とアスカは、もう帰っていいだろ。なあエビヤ」

「うん。そうだね」

「嫌だよ」彼女が首を振った。「こんな状況で、帰るなんてできないよ。何もできないかもしれないけど。でも、友達の家が大変なのに無視して帰れないよ」

「そうね。あたしも、ミナを残して帰るわけにはいかないわ」

「……そっか。わかった、ありがと。ミナモトさんたち」

「それなら俺たちが家の中を捜索する間、玄関の前にいろよ。もしも万が一にも侵入者が出てきたら、すぐ敷地外へ逃げて、叫んで助けを呼べ。誰か気が付くだろ。まあ本当にそんな事態になったら、さすがに警察に通報した方が良いだろうけどな」

「でも……家の中を捜索するなんて……あぶないよ。泥棒がいるかもしれないのに……」

「だから居ないかどうか捜すんだろーが」

「それはそうなんだけど……」

「大丈夫だってミナモトさん。ボクと正志で、男が2人もいるし」

「ああ、それに俺たち運動してるテニス男子だぞ。鍛えてるからな」

「でも、その、それでも心配なんだよ……もしも、泥棒が襲ってきたら……」

 曇り顔の彼女。

「はあ」彼のため息。「大丈夫だ。心配すんな。そんなにヤワじゃねえよ。俺もエビヤも」

「そうだよ。大丈夫だよ。武器も――サスマタもあるし」

「そもそも本当に侵入者がいたとしても、もう逃げちゃってるでしょ? 心配ないわよ、ミナ」

「…………」それでも不安のぬぐえない彼女。

 そんな不安を抱える彼女に、彼が照れたように頬を掻きながら、伝える。

「あー。それに、あれだ。――皆元。俺がお前をおいて、死ぬわけねえだろ?」

「…………」

「…………」

「おい。エビヤもアスカも、うわぁっこいつナニ言ってんの、てなかんじの生温かい視線を送ってくるんじゃねえ。無言になるな。せめて無視しろスルーしろ。失笑すんな! 今のはただの冗談で――」

「……うん。」彼女が頷いた。

「ん?」

 そして彼女は、真剣な眼差しを彼に向ける。

「……わかった。気をつけて。少しでも危ないと思ったら、すぐに逃げてね。絶対に帰ってきて。私、待ってるから」

 

「露骨に死亡フラグっぽいんだが!? 俺、本当に大丈夫だよなぁ?」

 彼は、逆に不安になってきた。





 玄関前。

 塀で区切られた敷地の外まで石畳が敷かれている。

 そこで、女子2人は屋敷の捜索が終わるのを待っていた。

 ガラガラと音を立てて引戸が開く。サスマタを持った少年2人が現れた。

「待たせたな。やはり家の中には誰も潜んでいそうにねえな」

「そうだね。これだけ探しても見つからないってことは、やっぱりいないみたいだね」

「ほんとに誰も出てこなかったの? 隠れているなんてことはないかな?」

「うん。絶対ないよ。これでもかという程、入念に捜したし。それにボクは生まれて以来ずっとこの家に住んでいるから、潜伏可能な場所――隠れられる場所は熟知してるよ。自信を持って言えるよ。100%誰もいない」

「そう。それなら安心なわけね。よかったわ」

「……そっか。――ところで、あそこって、エビヤくんの妹さんの部屋なの?」

「え、ああ、うん。まあ、そんなところ」

歯切れが悪く落ち着きのない様子の少年。

彼女は自宅を荒らされたて弱っている精神状態を察した。

「ふーん。そうだったんだ。エビヤくん、妹さんがいたんだね。お名前は? なんていうの」

「ああ、静佳(しずか)、だけど……」

「その静佳ちゃんには連絡したの? 部屋が泥棒に荒らされていたなんて、ショックだろうけれど、やっぱり本人には伝えないと」

「あー、それなんだけど、……わかってると思うけど、あいつ――妹は出かけていて。スマホも家に置いたままみたいなんだ……」

「えっ、そうなの?」

「ちゃんと見ておけよ皆元。さっき部屋に、充電器に繋がったままのスマホが置いてあっただろ?」

「いや正志。あんた、女の子の部屋にある私物をマジマジと見てんじゃないわよ」

「いや、それは、悪いとは思うが、状況が状況だし、仕方ねえだろ」

「まあ、事情があるわけだし、そうだけど……」

「でもでも静佳ちゃんに、どうにかして連絡する手段はないかな……」

「んー。難しいなぁ。あいつ、どこに行くかも何時に帰るかも、何も言わずに出て行っちゃったから」

「そっかそっか、でも帰ったら部屋が荒らされているなんてショックだろうな……。エビヤくん、静佳ちゃんは何年生なの?」

「ああ、3年だけど」

「そっか。小学3年生か。帰ってきて部屋の状況を見たら泣いちゃうかもしれないね……」

 彼女が、その女の子の心中を案じた。


 少年がまとめる。

「まあ、とにかく、もう心配ないよ。2人とも帰ってもいいよ? 窓や裏口の戸締りも確認して、どこも異常はなかったし。もう平気だよ。やれることもないし」

「……えっ」彼女の頭に疑惑が芽生えた。

「どうしたの、ミナ」

「エビヤくん。さっき戸締りに異常がなかったって言っていたけど、どこか鍵を閉め忘れているところ、本当になかったの?」

「え、うん。どこもなかったよ? 戸締り施錠は問題なし。ばっちり。今日明日は親が法事でいないから、その件もあって入念に確認していたし」

「それ、おかしいよ」

 彼女の疑惑は、確信に。

「え、どうして?」少年が問う。

「だって、荒らされた妹さんの部屋の窓から、足跡は1つしかなかったんだよ?」

「え? うん。そうだね。なら、あの足跡は犯人が逃げた時のモノってことなのかな」

「そうなんだけど、そうじゃないよ!」

「え、なにがどういうわけよ? ミナ。べつに不審なところなんてないじゃない」

「――あっ! そうか。ミナモトさんの言いたいこと、わかった……」

 少年が彼女の疑問に気がついた。

「ああ、そうだな。おかしいな……」彼も当然、気づいている。

「ん? なにが、どういうわけよ?」少女は気づいていなかった。

 彼女が説明する。

「アスカあのね。エビヤくんが今、家の中を見回って施錠を確認したけれど、他に鍵の開いている場所は無かったって話しでしょ?」

「ええ、そうね」少女は疑問に気付かない。

「そして、足跡が1つしかないということは、あの窓からのルートは、出るときか入るときか、その1回しか使われていないってことなの」

「ええ、そうだけど……ん?」

 ようやく少女が疑問を理解し始めた。



「なら、出入りに使われた『もう1つのルート』があるはず。それなのに、そのルートが見つからないのは、おかしいの!」



 彼女の説明で、

「………………ああっ! たしかに」

 ポンコツ少女がすこし遅れて理解した。




 彼女が考える。

「……ピッキングかな? 定番の方法としては。それなら、この玄関とか?」

「いや皆元、この玄関の引戸はねえだろ。正面玄関ってのは、基本的に鍵が複数ついているから、どこを解錠すればいいかわからねえだろ。この戸も左右と中央に3か所もある。それに玄関は通りに面しているから、不審者がいたら通行人が気づくだろ。ピッキングって数分――早くても数十秒はかかるだろ?」

「あ、そうだね。さっき、ここで正志くんとエビヤくんを待っているときも、通行している方々から何度か見られたよ。ほんと、声をかけられなかったのが不思議なくらい」

「ええ、玄関先で女子二人が待機しているって、おかしい状況だものね。これだけ人目があれば、侵入者が玄関をこじ開けるのは不可能なわけよ。ピッキングじゃないわ」

「じゃあ、やはりボク、どこか見逃してしまったのかもしれないなぁ……」

「でも一度、見て回ったんだよね? もしかしたら泥棒がいるかもしれないって注意しながら。それで見逃したっていうのは、可能性が低い気がするけど……。やっぱりこの家に、別の進入ルートがあるんじゃないかな?」

「いや皆元。エビヤが――家の住人が気づかない進入ルートなんて、ねーだろ」

「まってよ正志くん、これだけのお屋敷だよ。秘密の地下通路くらいあっても不思議じゃないんじゃないかな?」

「ないよ」住人の少年。

「ないでしょ」少女。

「皆元。おまえ、マンガやアニメの見過ぎじゃねえの?」

「まさかそのツッコミをされると思わなかった。正志くん、あなたのお兄さんほどじゃありませんので大丈夫ですよっ!」

「ともかくボク、もう一度、家の中の施錠を確認してくるよ。もしかしたら、どこか見落としたのかも……」

「あ、まって。エビヤくん。それなら、もっと楽で確実な方法があるから」

「え、どういうこと、ミナモトさん」

「他に足跡がないか確認するんだよ。このまま屋敷の外を1周すればいいの。庭には雪が積もっているから、泥棒が出入りした別のルートには必ず足跡が残るはず」

「あっ、なるほど……」

「だから、みんなで屋敷を1周まわってみましょうよ。足跡があれば、そこから犯人が逃げたってことだから。――あ、エビヤくん。念のために玄関の鍵は閉めておいて」

「わかった」――がちゃり。

「よし。じゃ、いきましょ」

 4人は新雪の上を歩き出す。




 屋敷東側。

 彼女が見たままを報告する。

「妹の静佳ちゃんの部屋から、犯人の足跡がついてるね。そして、足跡は北側――玄関前の石畳まで伸びている、と」

「ああ、そうだな」彼が相槌を打った。

「ということは、泥棒は妹さんの部屋の窓から出て、玄関方面に歩いて、足跡のつかない石畳を通って、敷地の外に出たってことかな。――って、まって。この足跡、よくよく見たらエビヤくんの部屋の窓の前も通ってるんだけど!?」

「あ、そうだね」

「そうみたいだな」

 少年たちが答えた。

「なさけないわね。あんたたち気がつかなかったわけ? 通ったときに」

「ああ、悪いけど気がつかなかった」

「そうだね。それに勉強に集中していたから……。いつ通ったのかもわからないし」

「そう思うと悔しいぜ。そのとき見つけられていたら、話は早かったんだがなぁ……」

「でもでも、仕方ないよ。犯人だって、見つからないようにやっているんだから」

「そりゃあ見つかるように犯行をするヤツはいないだろーけども……」

 彼女は再び足跡を観察する。

「どれどれえーっと、この足跡は、靴の形状的に家を出た後のモノっぽいかな。つま先が玄関側のような気がするし。断言はできないけど。てかてかこの足跡、靴底が平らだ。プロの泥棒なのかな。ほとんどゲソコンがとれないよ」

「ミナモトさん、ゲソコンとか良く知ってるね」

「そもそも、ゲソコンをとる技術がねえけどな」

「え? え? どういうわけ? ゲソコンってなによ? ちょっと」

 少女がしつこく聞いてくるので、説明しながら移動した。




 屋敷南側。

 先ほどと同じく彼女が見たままを報告する。

「屋敷の裏だね。勝手口とか出入りできそうなところはあるけれど、足跡はついていないね」

「ああ、ないな。雪が乱れてねえし、人の出入りした形跡はないな」

「さっきボクらが窓も戸も施錠を確認しているし、ここは大丈夫そうだね」

「ええ、そういうわけなら、あと残るは――」

 全員の視線が西側に向いた。




 屋敷西側。

 西側は庭のスペースが大きくとられていた。

 池があり、犬走りと縁側があり。ある種の風情があった。だが――

「足跡ないんだけど!?」

 彼女が目を凝らして見渡すが、やはり見つからなかった。

「ああ、ないな」

「うん、ここも裏と同じように、すべての窓の鍵を確認したけど、開いているところはなかったよ」

「えええぇ、……いったいどういうわけ……」

 彼女は、再び心が不安に染まってゆくのを感じた。

「いったい、どうして……?」

 ただただ不安だった。




 屋敷正面玄関、北側に戻る。

「いったいなんで。東側と南側、どちらかで見逃しちゃったのかな?」

「そんなことはないと思うぜ。4人もいるんだ。見逃すハズねえよ」

「でもでも、――ないよ、足跡。足跡ないよぉ……」

「お、おう。ネタとかじゃなくて、マジでないな……」

「やっぱりまだ、屋敷のなかに泥棒が……――」

 ――がちゃり。

 少年が玄関引戸の鍵を開けた。

「いやミナモトさん。それは違うみたいだよ。――やっぱり鍵がかかったままだった。もしもボクらの捜索をかいくぐって、侵入者がまだ家の中にいたとしても、さすがにさっきまでの間――ボクらが家を1周している間に、正面玄関から逃げるはずだよ。ボク達は会話しながら家の周囲を回ったから、どこかの部屋にいたら声も聞こえるだろうし。逃げるとしたら絶好の機会だ」

「ああ、そうだな。――そして正面玄関は鍵がかかったままだった。つまり侵入者は逃げたのではない。はじめから中にいなかった、つーことだな」

「なるほどね。あの部屋からの足跡は、やっぱり逃げた時の足跡だったわけね」

 彼女以外の3人は、それで納得という雰囲気だった。

 彼女以外は。


「でもでも、それならどうやって、泥棒は中に侵入したの?」


「「「…………」」」

 その問いに、答える声は無かった。




 彼が提案した。

「なあ、寒いし、はやく家の中に入らねえか? ――てか皆元とアスカはもう帰ってもいいんじゃないか?」

「やだよ。私、第一発見者だもん。最後まで協力するよ。なんの解決もしないのに帰るなんて、絶対に後悔する。――それにさっきも言ったけど、友達の家が大変なときに、無視して帰るなんてできない」

「はあ。……そーかよ」

 彼がいつものため息をついた。

「ミナモトさん、ありがとね。でも、これはうちの問題だから――」

「ううん」頭を横に振った。「問題があるのはエビヤくんの家じゃなくて、泥棒の方だから。気にしないで」

「ミナがこう言ってるわけだし、あたしもミナが納得するまで付き合うわ」


 ガラガラと音を立てて玄関の戸が開く。

 一同は再び家の中に。その前に――

「あ、正志くん、ちょっと来てくれるかな。――エビヤくんとアスカは寒いし、先に家の中に入ってて」

 彼女が呼び止めた。

「あ? んだよ皆元」

「ミナ別にいいわよ。あたしたち、ここで待ってるけど。てか、家の中で話せば?」

「いいよいいよ。ちょっと内緒にしたいことだから、すぐ行く。エビヤくんの部屋でいいかな?」

「いや、4人いるならダイニングの方が良いかな。勉強していてボクの部屋すこし散らかっているし。――ミナモトさん。話が終わったらダイニングの方に来てよ」

「うんうん。わかったよ」





 玄関前で彼と彼女は2人になった。

「んで、なんだよ。皆元」

「うん。私から正志くんへの用件は2つあります」

「ああ、なんだよ。早く言え。寒いだろ」

「まず1つ目、今回の件、なにか気が付いていることがあるんじゃないのかな?」

「…………」何も言わない。

「……なんで無言なのかな?」

「……なんでそう思うんだよ」

「うわっ、質問に質問で返された。――じゃあ、私も答えるから正志くんも答えてよ? そう思う理由は、これまでの経験。いつもいつもキミは事件が起きたり疑問が生じたら、必ずなにか答えてくれた。だから、だよ」

「いつも、必ず、って。そんなに事件なんて起きてねえだろ……。厄介事は多い気がするが」

「細かいことは気にしない。これが私の答え。――さあ、次は正志くんの番だよ。気が付いていることはないの?」

「……気が付いていること、か。ごまかす意味もねえか。――まあ、あるけど」

「え! あ、やっぱりだ。じゃあ、気が付いていることがあるなら、なんでそれを言わないの? エビヤくんの家が大変なのに」

「……これは俺が口を出す問題じゃねえと思ったからだよ。だから言わなかった」

「エビヤくんの妹さんの部屋を荒らした犯人を捕まえたくないの? それとも、この件を暴くと何か不都合があるの?」

「ノーコメント。俺に言えることはない」

「もう! なんなのよ」

「…………」彼はやはり無言だった。

「もー、わかりました。もういいよ。――じゃあ、用件の2つ目」

「ああ」

「…………これは、用件というか、お願い、なんだけど」

 急に妙にしおらしい彼女。

「? ああ」――なんだ? 答えながら彼は少々警戒する。


「……家の中に入ったら、私から、離れない、で」


「…………………………はあ?」

 呆気にとられた。

「だから、家の中に、あの部屋を荒らした犯人がいるかもしれない、でしょ?」

「ああ、もう可能性は低いけどな」

「だから、もしかしたら、襲われることも、あるかもしれないし……その」

「……だから?」

「……怖い、の」

「…………」

「…………」

「……ぷっ」

「あっ!」

「くはははは」

 彼が笑いだした。大笑いだった。

 普段あまり笑わない彼の基準でならば大爆笑かもしれない。

「ああっ! 笑いやがったな、正志くんめ!」

「はは、いや、まあ、……ぇ」

「……あ、ぁ、もう。まった、く。わたし、は、心配、で。って、あ、あれ?」

 彼女の瞳から、ポロポロと滴が落ちていた。

「ちょ、おい。皆元」

「あ、いや、その、大丈夫。へっちゃ、ら。なんだけど、なんだか。ちょっおと、な、涙、おさえられなくて……」

 彼が申し訳なさそうな顔をしていた。

「その、すまん」

「え、な、なにが?」泣きながら問う。

「笑ったりして、悪かった。皆元は、真剣だったのに」

 彼女がボロボロ泣きながら言葉を紡ぐ。

「そ、それは、関係、ないよ。これ、は、ちょっと、安心したって、いうか」

「安心?」

「ああ、もう! た、正志くん、こ、こういうときは、その、女の子が、泣いているときは、……ど、とりあ、えう、何も言わずに、抱きしめろ!」

 嗚咽が混じりながら要求する。

「はぁ?!」困惑する。

「つべ、こべ、ゆーな。はやく! ……ぐずっ」

 彼は指示に従った。

 そっと彼女を包み込んだ。


 すこしして、ぐずる彼女も落ち着いてきた。

「……私、荒らされた部屋を見てから、ずっと怖かったの、ね」

「……」首を動かして相槌だけ打った。

 彼は律義に『何も言わずに』という指示に従っていた。

「部屋を見た瞬間に、衝撃というかインパクトがあって、荒らされた部屋から泥棒が出てきて、襲われるんじゃないかと思って。それで、叫んじゃったの。結局、泥棒とか出てこなかったけど……」

 こくん、と頷く。

「うん。そのときは、それくらいだったんだけど。――でも、正志くんとエビヤくんが、家の中を見て来るということになって、それから怖いのが止まらなくなっちゃったの。もしも泥棒が潜んでいて、正志くんが殴られて、ケガして、打ち所が悪かったら……なんて考えたら、怖いのが止まらなくて」

 ――皆元が怖かったのは、俺が襲われることだったのか?

 言葉にはしない。

 こくん。と、彼はあごを引くだけ。

「泥棒がいても大丈夫。サスマタもある。家の中に犯人なんていないって、みんなの説明や推理で、頭では、わかっているんだけど、理解してるんだけど。なんかダメで」

 こくん。

「でもでも、さっき、正志くんが笑ったでしょ?」

 ………。

「それで、安心しちゃったんだよね」

 ……ん?

「緊張の糸が切れたっていうか、……正志くんは泥棒が侵入して、友達の家が大変な事態で、襲われてケガするかもしれなくて、人の命がかかっているような状況で、あんなに大笑いしないと思うんだ。――だから、それで、正志くんが笑ってるなら、大丈夫かなって、思ったら、安心して、涙出てきて……」

 ……ああ、そういうことな。

「まったくもう、正志くんめ。こんなにも私を泣かせやがって。コレは罰として、もう少しの間、抱きしめて――って、あ。ヤバ。塀の方にご近所さんの影が! 早くはなれて」

「いやおまえがやれっつったんだろがっ」

 2人があわてて3歩ほど距離を取った。


 彼女が額の汗を拭うような動作をしてから言った。

「ふう。あぶない。ご近所のスキャンダルになるところだったぜい」

「いや、どうだろうな……」

「エビヤくんの家、名家とかなんだもんね。変なウワサがたったら迷惑だろうし」

「ああ、まあ、そうだな」

 彼があいまいに返事した。

「まあ、うん。私の用件は以上です。――2つ目の用件はもう大丈夫なので、忘れてもらって――」

「皆元」

「ん? んん? なにかに、正志くん」

「さっき震えていたのは、寒かったからじゃなくて、怖かったからなのか?」

「え? 震えてたって……気づいて……。いやいや、そんなことないよ。寒かっただけだから。いんやー寒いよねぇ。そういえば私ずっと外にいるもんね。さむいさむい」

 彼女がごまかした。――これ以上の失態はさすがにハズイ。

 もうすでに手遅れな感じはあったが、そう思った。

 けれどそこで疑問が浮かぶ。

「ん? ありゃりゃ? 正志くんに気づかれていたってことは、もしかして――」

「どした皆元?」

 ――もしかして、正志くんが家の中に入ろうと提案したのは、私が震えていたから? 寒そうにしていたから?そんなに私のことを気にしていてくれたの? そんなにも私のことを……

 そんな風に彼女は思い至った。なんだか胸が熱くなってきた。

「おい。だから、どうかしたか。皆元」

「はっ! い、いえ、どうもしませんよ? ちょ、ちょっと暑かっただけっす」

「おまえ、つい二言ほど前に寒いっつったばかりだろ!? それにそのネタ前にもやったぞ」

 彼は彼女の精神が心配になった。そこで――

「はあ、しゃーねえ」彼が面倒くさそうに呟いた。

「え?」

「ヒントだ。エビヤの今までの言葉を良く思いだせ。それでわかるかもしれねえ……」

「ん? どゆこと、それって……」

 困惑の彼女。

「それと、家の中にいるときは、皆元から離れねえように、注意しとく」

「……正志くん」

 もう心の中が、くしゃくしゃぐしゃぐしゃぐにゃぐにゃで、なんかわからなかったので。

 取り繕うことにした。

「――うんうん。そうかそうか。それなら心配ない。わかってくれたのならそれでいい。しっかり私についてき――いや……――――――」

 彼女が背を見せた。

 そして、試すように、信じているように。

「――――――ついて来れるか?」

「ついて来れるか、じゃねえ。てめえの方が、離れるなつったんだろうが!」

 パロる彼女に彼がツッコミした。




 話声の聞こえるダイニングに入室した。

「どもども。おまたせー」

「ああっ! なにも浮かばないまま、ミナと正志が来ちゃったじゃないのよ」

「ん? 何も浮かばなかったって、アスカとエビヤくん、事件について話していたの?」

「え、そうだけど」と小型少女

「うん。まあね」と天然少年。

「そうなんだ。よかったよかった。2人とも仲悪いから、あのその、お通夜みたいな空気でシーンと無音状態で待っているかと思って、ちょっと気がかりだったんだよね……」

「心配無用よミナ。たしかにこいつは気にくわないけど、会話くらいするわよ。今は非常事態なわけだし。――ところで思ったより長かったけど問題ないわけ? その、正志と2人きりだったわけだけど……?」

「えっ! ……う、うん、その、な、なにもなかったよ」

「おい皆元、動揺してどもりながら言ってんじゃねえよ! エビヤとアスカになにかあったと思われるだろうが!」

「ああ、なんだ。ミナの演技なわけね。まったく冗談がうまいんだから」

 実際にはいろいろあって、動揺してしどろもどろだった彼女だったが、彼がツッコミをして逆にごまかした。


「話していたのは、例の部屋の件だ。――結局は皆元の勘違いだったから、何かに気づいたとか見つけたとか、そんなのは何もねえけどな。何もわからねえよ」

 ダイニングのテーブル席に腰掛けた彼が、しれっと嘘をついた。

 そういうことにした。

「ふーん。じゃ、別に進展してないわけね。でも、どうしようかしらね……。もう1つのルートを見つけないと、このままじゃ……」

「うんうん。そうだね。アスカの言うとおり。――このままじゃエビヤくんち、また泥棒に入られちゃう」


 少年が発言した。

「うーん。そうだ……やはり侵入者は、玄関から入ったんじゃないかな?」

「エビヤくん。どういうこと?」

「あんた、ナニ言ってんの? 玄関は施錠してたんじゃないの?」

「基本的には鍵を掛けていたけど、掛けていなかった時間もあるんだ」

「ああ、なるほどな。皆元が料理を手伝ってほしいから友達を呼ぶと言ったあの時――皆元がアスカを呼び出した時から、この家にアスカが到着するまでの間だな」

「うん、そう。あの時間だけは、玄関に鍵を掛けていなかった。――侵入者はその数分でウチに忍びこんだんじゃないかな?」

「ああ、なるほど! あたしがこの家に来るまでの間ってことね?」

「そか、なるほど。……ごめん。私がアスカを呼んだばかりに……」

「いや、違うよ。それはミナモトさんのせいじゃないよ。ふつう、そんな短時間で誰かが侵入するなんて考えられないよ」

「そうだな」

「そーね」

「そうだけど……あれ? それは、でも、おかしいよね?」

「ん? なにがだ、皆元」


「この家の玄関扉って、開けたとき音がするよね。ガラガラって。クセがあるっていうか……。だから玄関を開けたら、エビヤくんの部屋なら玄関から近いし、音が聞こえるはずじゃないかな?」


「……なるほど」少年が思案する。

「そうね。そういうわけね。――玄関を開けたら音がするから部屋にいればわかる。そもそも、あたしが来る前提だったわけだし。来客があるって身構えてるわよね」

「いやでも、あの扉、すこし上に持ちあげながら引けば、音しないんだけど……」

「そんなコツ、あったとして侵入者にはわかんねえだろ……。この『玄関から侵入』案は採用できねえよ」

 彼ががっくりと肩を落した。




「あっ、そうだ。――足跡をつけずに侵入する方法、わかったわ!」

 小柄な少女が言った。

「え、なになに、どういうこと、アスカ」

「きっと侵入者は――飛んだわけよ!」

「……ああ、この案は終わりだ。他になにか思いつくことは?」

「ちょっとぉ! 正志、最後まで聞きなさいよ。これはハズレっぽいと思って流そうとしてんじゃないわよ!」

「うんうん。そうだよ正志くん。話しは最後まで聞かないと」

「聞くまでもなくダメ推理の感じしかしねーんだが……?」


 少女が語る。

「足跡をつけないように移動すればいいわけ。だから侵入者は跳んで移動したのよ」


「あ、ジャンプの方か。空を飛んだ、とかいうと思った」

「正志、バカにすんじゃないわよ。実現不可能なとんでも推理を、あたしが堂々と話すわけないでしょ。ちゃんと実現可能な推理を披露するわよ」

「……実現可能、ねえ」彼は信用していない。

「でもでも、なるほど。そうかも……足跡をつけないように、移動できれば……でも、窓から庭を飛び越えるなんて……できるかな?」

 彼女がその考えを受け入れて思案する。

「ねえ……アスカちゃん、部屋の窓から家の外、少なくとも塀までは距離があるよ。短く見ても6メートルはあるかな……。ジャンプするには遠すぎる」

「あの窓から塀までなら『走り幅跳び』じゃなくて『立ち幅跳び』だからな。それも窓枠からだ。状態の悪い立ち幅跳び。さらに塀の高さもあるからな。跳べねえよ。忍者かよ」

「ちょっと、アンタたち、いつ、あたしが窓から塀までジャンプつったのよ? ――そんなの無理なわけでしょ?」

「まあ、そうだよな」

「あたしは『庭にあるモノの上』を跳んで行った、と言いたいわけよ」

「庭にあるモノ? でもでもアスカ、庭にそんなモノなんてなかったような……」


 自信に満ちた少女が堂々と示した。

「それはね。室外機、よ」


 彼女が聞いた。

「し、室外機? アスカ、それって、もしかしてエアコンの室外機のことなの?」

「ええ、そうよミナ」

「あの、白い箱型の中でファンが回るアレだよね?」

「だがアスカ、室外機に乗っても、まだ塀までは、ちと遠いぞ」

「だから塀までのジャンプじゃないわけよ」

「ん? どういうことだよ」


 少女が堂々と語る。

「侵入者は室外機の上を跳んで、別の部屋の室外機に跳ぶの。そうやって移動していったの」


「ああっ! なるほど」

 彼女が感心の声を上げた。

「あの例の部屋の窓から出て、その部屋の室外機、そして隣の部屋――エビヤの部屋の室外機へとジャンプして……最終的に玄関の石畳に降りるの。あの石畳の上なら足跡をつけずに敷地の外に出られるわ。そーね、わかりやすく想像するならスーパーマ●オブラザーズよ」

「その例え、わかりやすいのか?」

「うるさい。――でもわかったでしょ? こうすれば地面に、雪上に、足跡を残さずに移動することができるわけ」

「なるほどなるほど。さすがアスカ。――あれ? でもでも、それって……」

「あはははは! 完璧じゃない? これが侵入ルートもしくは脱出ルートなわけよ!」

「おい。アスカ……」

「ん? なによ正志。文句あるわけ?」

 彼がうなだれるように額を押さえながら問題点を上げた。

「どうやって曲がるんだ?」

「ん? まがる?」少女は気づいていなかった。


「石畳があるのは屋敷の北側だろ? 東側の室外機の上に乗って、ジャンプして移動できても、屋敷正面――北側にたどり着けねえよ。空中で曲がれるのか?」


 少年も気がついた。

「あ、そうだね。正志の言うとおりだ。家の隅――『角』に室外機はない。陸地がなければジャンプできない……」

「え、あ。たしかに……」少女も理解した。

「反対もしかり、な。侵入ルートに使われた場合も、玄関前の石畳から屋敷東側の室外機に飛び乗る方法がねえよ。……実現不可能だ。2Dゲームじゃねえんだぞ。3Dに――現実に対応した推理をしろよ」

「…………」

 無言の少女に、少年がさらにいう。

「そもそも室外機の上をジャンプしたなら、その時の衝撃で音がするだろうし、ボクの部屋の窓から丸見えだし……これはナイと思うよ」

「それに、だな。さっき屋敷を一周した時、室外機の上に雪が乗ったままだったような気がするぞ……」

 しっかりと見たわけじゃねえけど、と彼が付け足した。

 彼女がフォローする。

「でもでも、この室外機というのは、違うかもだけど、考え方はいい感じだと思うよ。うんうん。べつに室外機以外を跳んだって――……ん? あ、れ」

 彼女が気づく。

 気づいてしまった。

「そういえば、しつがいき……室外機って」

「ミナ、どうしたわけ?」

「ねえ、正志くん、エビヤくん。部屋で勉強していた時、もちろん暖房をつけていたんだよね?」

「え、うん。まあ、そうだけど」

「寒いからな」

「それなら外の室外機も動いているはずだよね。室外機が動いていたら家の中に人がいるって、わかる。なのに……なんで、泥棒は在宅中の屋敷に入ろうと思ったんだろう……?」

 彼女の中で疑問は膨らんでゆく。



 彼が彼女に納得させるように話す。

「もしかしたらエビヤの妹に関りのある人物の仕業なんじゃねえか?」

「どういうこと?」

「もともと標的はエビヤの妹だけだった。――この家自体には、侵入者は興味がなかった。他の部屋に被害がねえし。足跡もまっすぐあの部屋の窓と正面の石畳まで繋がっているしな。エビヤの妹の部屋だけが標的だった可能性は高い」

「うんうん。なるほど」

「だから屋敷内の他の部屋に人間がいても関係なかった。ターゲットはあの部屋のみ。そして部屋の位置も知っていた。それならどうだ?」

「なるるど。そうか。妹の静佳ちゃんから、盗みたいものがあったってことだね」

「もしかしたら、今日エビヤの妹が出かけていることを知っていたのかもしれねえな。縁のある人物――知り合いなら」

「ああ、そっか」

「だから、出かけている隙を狙って、部屋に侵入したんじゃねえか?」

「なるほど……。つまり、金目のモノが目的じゃないんだね。思えばスマホやゲーム機――価値のある物が盗まれていなかったもんね。個人だけ狙った犯行……いったい何を盗んだのかな……?」

「さあな。それは、エビヤの妹が状況を確認して、何が盗まれたか明らかにならねえと、わからねえよ」

「うん、そうだね」


 彼女は別の疑問を上げた。

「でもでも、そもそもなんだけど、なんで泥棒は窓を開けたまま出て行ったのかな?」

「ミナ、窓っていうのは例の部屋の窓のことよね? 犯人が逃走したか侵入したか、の。――どういうこと? 開いていても閉まっていても、状況は変わらないんじゃない?」

「いいえ。出て行くときに窓を閉めておけば、風が入ってドアが揺れることもなかった。つまり、私たちに気づかれない――部屋が荒らされている状況の発見が遅れていた。泥棒にとっては都合のいいことだと思うんだけど……」

「そこまで考えてなかったんじゃない? その侵入者」

「うーん。そうかなぁ……。でもでも、ふつうドアを開けて入ったらドアを閉めるよね? 窓も同じだと思うんだけど。なにか、閉めない方がいい理由があったのかな」

「……ワケなんてないと思うわけだけど……」そこで少女が思いついた。「あ、そうだ。もしかしたら、余裕がなかったんじゃないかしら?」

「よゆう?」

「ええ、そういうわけ。一番始め、ミナが部屋をノックしたでしょ? そのとき侵入者はまだ部屋の中にいたの。そして、ノックによって人が来たことを察して、あわてて逃げた。だから窓を閉める余裕がなかったわけよ」

「ああ、なるほど……あれ、でもでもアスカ」

「いや、アスカ。それは違うぞ」

「なによ正志。モンクあるわけ?」

「ある。――それは逆だ」

「逆? どういうわけ?」

 少女は首を傾げる。

「皆元は部屋のドアが揺れていたから、おかしいと思ってノックしたんだろ?」

「ええ。そーね? ん?」

「だから、はじめから窓は開いていたんだ。ノックで侵入者があわてて逃げたなら、窓を開けたなら、それまで窓は閉まっていたことになるだろ。――つまりドアが風で揺れることはない。順序が逆だ」

「あっ。そっか。……いや、でも窓を開けたまま――」

「窓を開けたまま部屋を物色するのか? 寒いだろ。意味ないし、見つかるリスクも増える」

「ああ、たしかにそーだわ」

「それに、外で見た侵入者の足跡だが、走って、急いで逃げているような感じじゃなかっただろ。どちらかといえば歩いて、だろうぜ。歩幅も小さかったしな」

「アスカちゃん……考えなしかよ……」少年があきれるように呟いた。

「むっ! なによエビヤ。あんただって、何か思いついているわけじゃないんでしょ?」

「まあ、そうだけど、ここまで重ねて失態を晒してはいないよ……」

「重ねて失態って、そんなに的外れなこと言ってないわけでしょっ!」

「……スーパーマ●オブラザーズ」ボソリと少年が言った。

「あ、あれは、……まあ、あれよ! ちょっと考えが及ばなかっただけでしょ? 一度の失態でグチグチ言うなんて、男らしくないわね!」

「まあ、一度じゃないんだけどね。アスカちゃんの失態は」

「ああん? なによアンタ」

 いがみ合う二名。

「ストップストップ。アスカもエビヤくんも落ち着いて。――いまは泥棒の侵入逃走ルートを判明させることが最優先で、ケンカは――」


 そこで彼が――

「一度の失態……重ねて……か? ――ハッ! そーか」

 

「え、どうしたの、正志くん。もしかして、この感じは――」

 彼女が察した。

「ああ、侵入と逃走の方法がわかった」

 ――思いついた。



《つづく》

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