『誰が』「だれが」パート【若松ユウ】※高山由宇代理
刺されました。
それは、もう、背後からグッサリと、鮮やかなほどに。
今、私は、乾いて赤褐色になった血の海に倒れている自分の姿を見ています。
そうです、私は、幽霊になってしまったのです。
それも、この部屋から出られない地縛タイプの。
きっと、犯人が誰か分からないことが未練になって、成仏できないんだと思います。
警察も探偵も来る気配がないので、ここは一つ、自力で推理してみますか。
……それにしても、こうしてシゲシゲと観察すると、我ながらブサイクですね。
こんなことなら、お化粧ぐらい、しておけばよかった。
休日に家に居るところを襲われるなんて、考えもしなかったけど。
この平和な日本で、まさかでしょう?
ああ、せっかくなら、異世界に転生したかったなぁ。
……えーっと、本題に入ります。
凶器は、通販で買った包丁ですね。
切れ味抜群で、電線もスパッと切れる逸品です。
シンクの下にある開き戸に差してあったもので、背中を一突きですか。
どうにも、素人臭いですねぇ。
まぁ、手口はともかく、この出血量では、命を失いますわな。
余談ですが、倒れてる場所に敷いてあるカーペットも、通販で買ったものです。
ただ、買ったのは私の母で、一枚買ったら二枚目が半額になったのよ、とのこと。
親子揃ってテレビショッピングに依存している訳です。
これは、もう、遺伝と言っても過言ではないでしょう?
……いえ、言いすぎですね。話を戻しましょう。
振り返る間も無く、また、ダイイングメッセージの類も残してませんね。
まぁ、突然のことに気が動転して、犯人が分からないまま息絶えたからでしょうね。
そう考えると、推理小説や刑事ドラマに出てくる被害者は、なかなか知恵が回るのではないかと思えます。
咄嗟に、犯人には気付かれない程度で、なおかつ探偵か一部の警察の人間には解読できる暗号を残せるんですからね。
毎日をボヤーッと生きてる一般ピーポーには、とても真似できない芸当ですよ、ハハハ。
……また、話が逸れた。
う~ん、周囲には、犯人の手掛かりになるようなものは、まったく落ちてませんね。
財布なり、鍵なり、うっかり置いて行ってくれれば、アッサリ解決するのに。
それにしても、生活感満載の汚い部屋だな。
本棚に片付けテクニックや暮らしのアドバイスに関する本が積んである時点で、手遅れですね、処置なしです。
こういうタイプの本って、読んだだけで納得しちゃうのよねぇ。
えぇ、えぇ、そうですとも、試験前に綿密な計画を立てただけで勉強した気になるタイプですよ。
予定通り事が運んだことなんて、一度も無いんだから。
だいたい、自制心がある人間は、深夜に通販番組を見て衝動買いしませんから。
その挙句の果てが、これですよ。
何もかも、やりかけのまま、この世をオサラバしなきゃいけなくなった訳です。
録り溜めた連ドラも、読みかけの少女漫画も、レベル上げ中の乙女ゲームも、どれも結末を見られないまま、極楽だか地獄だかに行かねばならないのか。
そう思うと、別な未練も湧いてくるような気も、しないでもない。
……いや、深追いするのは、やめよう。
仙人や聖人でない限り、この世に何一つ未練なく旅立つことなんて出来ないんだ、きっと。
でも、せめて、私を刺した犯人だけでもハッキリさせてからにしよう。
そうしよう、そうしましょう、それが良いと思います。
賛成三票、反対零票により、満場一致で可決されました、バンザーイ!
あら?
誰か、部屋に入ってくるみたいだわ。




