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2 まあ、とんでもない仕事をしている認識はあります。

 細長い廊下の壁には、扉がずらりと並んでおり、その扉には血のような色で番号が振られています。私はすぐ左にある「1-5」と書かれた扉を開けました。


 その先には、さらに扉がいつつあります。左から順に番号が振られています。

 私は右奥の「4」と書かれた扉に入りました。私のロッカールームです。広さは三畳。棚と、鏡と、仮面しか置かれていません。


 鏡の横にある仮面に、私は手を伸ばしました。壁に掛けられている仮面は、いつでもひんやりと冷たくて、私は好きです。

 プラスチックのような素材でできた仮面は、私の眉から鼻の頭までを隠すほどの大きさです。


 この仮面をつけて、黒路映画館の社員は仕事に臨みます。仮面は、偉くなればなるほど装飾が派手になり、顔を隠す範囲も広くなっていく仕組みです。


 私の仮面には、アルファベットのUの字のような切りこみが、目の箇所に掘られています。つけると、目を閉じているように見える仮面です。


 左目の隣には、黄色い花がふたつ、上下についています。上の花の左上と右下には、ピンク色の宝石が埋め込まれています。


 この仮面は、マジックミラーのようになっており、つけると仮面の箇所全てがクリアに見えます。ゴーグルをつけているようになるのです。

 相手からは、仮面をつけていると視界が狭いように見えるのですが、こちらからはいつもと変わらない景色が仮面を通しても見えています。


 仮面を眺めると、仕事に来たぞ、という気持ちになります。


 私は小さく笑っていたかもしれません。上機嫌のまま、灰色のジャージを脱ぎ、目の前の棚に置いてある黒いジャージのズボンを履きました。上も脱ぎ、黒いパーカーを代わりに着ます。これが、黒路映画館の制服です。靴、靴下、パーカーの中は自由です。


 服の隣に置いてある小物入れを開け、赤いガラスがついたノンホールピアスをみっつ取りだしました。


 みっつ、すべて右耳につけます。仮面の装飾が全て左側に寄っているので、右耳に装飾を施す、という、私なりのおしゃれです。


 仮面の下にかけてあるゴーグルに手を伸ばし、それをはめました。視界が少し暗くなります。

 社内に限り、仮面を持ち歩いて行動すれば、他の物で顔を隠すことが認められているのです。


 社内で仮面をつけている人もいますが、私は外に出て仕事をするときにしか仮面をつけません。仮面をつけるときは、仕事本番のとき、というイチサンを真似た行動です。


 仮面を手にし、私はロッカーを出ました。1から5の番号が書いてある部屋を出て、番号だらけの扉に囲まれた廊下を早足で歩きます。二度曲がった先に、何も書いていない扉があり、私はそれを開けました。


 無機質な扉が続きますが、先ほどの廊下のように扉で埋め尽くされているわけではありません。目の前にある扉には、血のような色で「トレーニングルーム」と書かれていました。右奥には「図書室」とあり、その奥には「トイレ」と書かれた扉があります。


 私は、すぐ左にある「伝達室」に入りました。着がえると、多くの人はそこに入り、自分の今日の仕事を確かめます。


 その部屋にはいつつの丸椅子が用意されており、ガラスの窓を経て、向こう側に受付の人が座っています。映画館のチケット売り場を想像してもらえれば、それに近いと思います。五人がずらりと並んでいるところを、私は見たことがありません。


 私が部屋に入ると、手前にいた女性がこちらを見て微笑みました。彼女は仮面をつけています。

 仮面の形は私と同じですが、装飾は左目の上にピンク色の宝石がみっつ並んでいるだけです。位は私の方が上ですが、年齢は確実に一番下のため、全員に敬語を使っています。


「四番さん」

 女性は微笑みながら、真中の椅子に腰掛けました。私も、彼女の前に座ります。

「こんにちは、七十二番さん」

 黒路映画館では、番号を名前の代わりに使います。番号は被りません。

「そろそろいらっしゃるころだと思っていたのですよ」


 私より年上の彼女は、私に敬語を使います。そんなのいらないのに、と思いますが、イチサン曰く「君は特殊だから、少し怖がられてもいるんだよ」とのことです。


 この年齢でこの位は、とんでもない仕事をしているに違いない、ということのようです。


 まあ、とんでもない仕事をしている認識はあります。


 人を殺すのですから。

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