2 長髪の制服着用姿から、短髪のジャージ着用姿に変身です。
その後、上崎君とは話すことが無いまま、その日の授業が終わりました。
「あんず、今日は暇? アイス食べに行こうよ」
友達の誘いを受けたい気持ちをぐいと抑えつけ、私はごめんと両掌を顔の前で合わせました。
「今日も無理なの」
「あんずはいつでも忙しいなあ」
仕事だからね、とは言えず、ごめんごめんと言いながら、私は駆け足で教室を出ました。
廊下は、部活に向かう人、帰る前に集まって立ち話をする人などでにぎわっています。先生の姿も見えたため、私は廊下を走ることはせず、忍者のような早足で歩きました。
人を縫い、階段を降り、下駄箱で靴を履きかえ、そこからは走りました。
駅の最上階が、私の仕事場でした。その駅は、東京内でそこそこ有名な駅だとは思いますが、駅の中とその周辺が栄えているだけで、少し歩くとすぐに静かな住宅街になってしまうような場所でした。
学校から駅までは、走って十分ほどかかります。駅に着くと、私はデパートの中に入りました。そこでは、走ることはしません。
まるで買い物に来たような表情を浮かべながら、適当に商品を冷やかし、ふと上方を見ます。トイレの表示を確認したのです。赤い女の人のマークの隣にある矢印がさす方向を見て、ゆっくりと私は歩きます。
本当は、このビルのトイレの場所は覚えてしまっているのですが、周りの人に怪しまれないようにしているのです。日々、私は必死です。
トイレに入り、中を確認します。
化粧をしている女子高生が一人、手を洗っているおばあさんが一人、個室はいつつあるうち、ふたつが使用中でした。
一番奥のトイレに入ると、私はすぐにかつらを取りました。ベリーショートの髪の毛に、汗が染みわたっています。
私は右手で髪の毛を乱暴にかきました。べたつく汗の気持ち悪さは、いつの季節も変わりません。
かつらを鞄に入れると、その鞄からジャージを取り出しました。最近、安売りをしていた灰色のジャージです。ピンク色の線が入っていて、かわいらしいところが気に入っています。
制服を脱ぎ、すぐにそれに着がえると、大分楽になった気がしました。寒い中のスカートは苦手です。
靴下は白いものから黒いものに、ローファーは黒い運動靴に履き替えます。脱いでしまったものは、全て学校指定の鞄の中に押し込んでしまいます。鞄の中には、ノートや教科書は入っていません。
長髪の制服着用姿から、短髪のジャージ着用姿に変身です。
最上階に、仕事場への入り口があります。そこの入り口は、黒路映画館の社員でないとまず分からないような場所にあります。
細心の注意は払いますが、それでも、万が一ということがあります。制服姿で入社するところを他の社員に見られたくないために、着替えているのです。
黒路映画館では、たとえ社員同士でも、自分の素性を知られるような人はいない方がいいと、イチサンから忠告を受けていました。 その忠告を信じ、入社するときの恰好を私は数パターン用意しています。着替える場所も様々です。
鞄の中にしまっておいた袋を広げ、その中に学校の鞄を詰めこみました。
準備完了です。




