5 「それが、四番さんの次の仕事です」
次の日もいつものように、学校が終わるとすぐに出社しました。その日は仕事が無かったため、ジムでトレーニングをすることにしました。
仕事が無い日は、大概トレーニングをして体を鍛えています。
頭をからっぽにしながら縄跳びをしていると、唐突に目の前が真っ暗になりました。
夜遅くまで仕事をして、勉強をして、夜中の一時に寝て、六時半に起きて学校に行き、という生活を繰り返していたために、身体が疲れきってしまっていたようです。電池が切れるように、私はこてんと気を失ってしまいました。
いくら疲れきっていたからといって、身体の異変に気がつかないで悠長に縄跳びをしていたのですから、完全に自分のせいだと思います。
目が覚めると、そこは見慣れた館長室でした。しかし、私はしばらくの間、そこがどこで、私が何をしていてそこにいるのかを理解することができませんでした。反射的に起き上がり、周りを見渡すと、私の右側に館長がいらっしゃいました。
「わっ、す、すみませ」
自分でも情けないほどの間抜けな声を出しながら、私はベッドを降りました。
冷静に考えると、館長の真ん前でずっとすやすやと眠っていたのですから、とてもシュールな状況だったように思います。
そもそもベッドはどこから運ばれたのでしょう。医務室でしょうか。しかし、そのときの私には、そんなことを考える余裕はありませんでした。
「大丈夫?」
館長の後ろ側から、機械を介した声が聞こえました。今日の館長の声は、若い青年の声でした。話し方も、どこかフランクです。
「縄跳びしてたら、いきなり倒れたって聞いたけど」
私はゴーグルを取り、汗をふきました。館長には、私の素性は一切合財知られているので、顔を隠す必要がありません。
「すみません……自己管理が行きとどいてなくて」
「君はまじめだよなあ」
館長はそう言って、少し首を左に傾けました。返事に困り、そうですかね、とよく分からない返答をしてしまいます。
「まあ、座って」
促され、私はベッドに腰掛けました。ふわふわの羽根布団に、足がふわりと包みこまれます。
「まじめだから、ついつい仕事を任せすぎてしまったよね。四番さんは中学生だから、特殊な仕事が山のようにあるじゃない? 中学生じゃないとできない仕事っていうかさ。おまけに七番ちゃんが高校生になってから、仕事、任せすぎたよね」
中学生というだけで、私にはたくさんの仕事が舞いこんでくるのは事実でした。
例えば、大量の資金の取引の仲介役に選ばれたことがあります。金の詰まったスーツケースを持って、待ち合わせ場所に突っ立っているだけでいいのです。中学生が金を持っているはずがないという先入観から、成功率があがるのだそうです。
余談ですが、こういったケースでは、特殊メイクを施したうえで、眼鏡をかけるなどして顔を隠します。黒路映画館では、仮面を取って仕事をしないといけない仕事もあります。
とにかく。中学生で黒路映画館の社員である人は、去年までは七番さんと私のふたりしかおらず、今年に入って七番さんが高校生になってからは私だけでした。そのため、仕事の量が増えたのも事実です。
「ごめんねえ」
館長に謝られ、私は恐縮してしまいました。仕事量が多かったからといって、倒れてしまったのはやはり私の責任のように感じられたからです。
「館長のせいではありません」
私が言うと、館長はふるふると首を横に振りました。声は何も言いません。そのような感情表現を、私は珍しいと思って眺めました。声を介さない館長の意思表示は、いつも以上に、まっすぐと私の心に届いたのです。
「そこでね、君に休みを取ってほしいんだけど」
「そんな」
「って言うと思って」
私の反論に先回りした館長の声は、ふふと笑いました。館長が右手をあげると、いつもの女性が部屋の奥から現れ、私に一枚の紙をよこしました。
「それが、四番さんの次の仕事です」
一番上に書かれていた文字を読み、私は息を飲みました。
そこには、スカウトと書かれていたのです。
仕事の内容、スカウト。そのままの意味です。
黒路映画館に入るべき人はいないかを探す仕事です。私は、今までスカウトの仕事をしたことがありません。
スカウトの仕事を任されるということは、信頼の証でもあります。そのことはとても光栄だったのですが、その下の文字を見てさらに私は驚愕するのでした。
「対象、中学生って……!」
「そうそう。君自身がスカウトするのが一番いいかなあと思って。学校にいない? なんかしらの正義を持ってそうな中学生」
随分と簡単におっしゃいます。
「いるか……どうか……」
「まま、少ないだろうしね。いいよいいよ、とりあえず、学校内を探してちょうだい。とりあえず一週間、出社しなくていいから」
「そんな」
「出社しちゃだめだからね」
仕事と銘打った、一週間の休暇なのでしょう。
私は館長に向かって、深々と頭を下げました。
「ありがとうございます」
いいってことよ、と館長の声が明るく言いました。




