第五話 図書室の住人
「男ならラーメン一択だよな!」
「俺はざるうどんでいいや。」
「私は……牛丼並盛で!」
各々が食券を買い、おばちゃんから料理を受け取った。
周囲を見回すとほとんどの席が埋まっていて、ガヤガヤと話し声がうるさいほど聞こえてくる。
「お、ここ空いてんじゃん!ラッキー」
近藤が空いているテーブル席にラーメンを置いた。俺たちもそれに続くが、キルシーは当然のように俺の隣に座った。
「……俺たちと飯なんて食べていいのか?」
「何それ、いいに決まってるでしょ。」
「こういうのって、仲良い女子メンバーと食べるものじゃないのか?」
「まあ、転校したてでそんな事言われてもねぇ」
既にギャルグループに混ざってるくせに、よく言うよ。
近藤は露骨に緊張していて、上手く会話に混ざれていない。ラーメンを黙々と食べている。
「近藤……お前が桐乃を誘ったんだから、もっと話せよ。」
「話せったって……俺からしたら、一緒に食べられてるだけで幸せというか……」
「私、そんな高貴な存在じゃないって!」
「いつものように、無礼でいればいいのに。」
「え、俺いっつも無礼なの?」
こいつ、自覚がなかったのか!?キルシーにあの誘い方をしておいて!?さすがのキルシーも苦笑している……そりゃそうだ。
「無礼というか……非常識?」
「ああそれだ。常識外れだ。」
「そんな、俺は真っ当に生きてきたつもりだぞ!」
「まあ、まっすぐではあるよね。」
「進む方向はおかしいけどな。」
他愛のない会話をしながら、俺はうどんをすすっていく。キルシーは、普通に牛丼をパクパク食べている。近藤は豪快にラーメンをすする。
こいつ、本当にキルシーに気に入られる気あるのか……?
「あー、美味かった!やっぱり学食のラーメンは美味いな!」
「値段の割にはな。」
「めっちゃ美味しそうに食べてたもんね。私も今度食べてみようかなぁ」
「また……一緒に食べよう!」
「攷晴と一緒ならいいよ?」
「……そっか、サンキュー!」
そう言って、近藤は去っていった。
「……もっと私と話そうとするかと思ってた。」
「あいつなりに気を使ってるんだよ。変に真面目だから。」
昼食に誘ったのはいいが、その後までついて行くのはおこがましい……とでも思ったのかもしれない。
「面白いね、響也くん。」
「……まあな。」
「またご飯一緒に食べてあげようかな?」
「なんで上から目線なんだよ。」
「はぁ……血が足りない。」
「俺の血は吸うなよ。」
その言葉通り、午後の授業では集中力が切れていて、居眠りを小樽先生に注意されていた。
「はぁ……やっと終わった。」
「キツそうだったな。」
「擬態にパワー使うから、エネルギーが足りなくなるんだよね。」
「そうか。」
「……今日も図書館いく?」
「今日は図書室だ。」
「図書室?」
「この学校のだよ。図書委員と知り合いでな。そいつ、吸血鬼に詳しいんだよ。」
「へえ……パックの血を吸ってからだけど、私も行っていい?」
「好きにしろ。」
またねーと言って、キルシーはどこかへ行ってしまった。
擬態……そんなにエネルギーを使うものなのか。1食抜いただけでああなるなら、擬態した吸血鬼を拘束すれば、数日でボロを出すってことだ。
擬態した吸血鬼を見抜くのは難しいらしいし、吸血しないように監視するっていうのは、擬態した吸血鬼を探すのには有効かもしれないな。
そんなことを考えながら、図書室の扉を開ける。
この学校の図書室はかなり大規模で、数多くの本棚がずらりと並んでいる。
本棚に挟まれるように長い机と複数の椅子が置いてあり、真面目そうな生徒が数人勉強している。
「……相変わらずの静けさだな。」
「あ、久しぶり。最近は向こうに行ってばかりで、ここ来てなかったでしょ。」
図書委員の西村京子。無愛想だが……なんだかんだ優しい。
吸血鬼オタクとして長い付き合いの、幼なじみだ。
「まあな。向こうは調べ終わったから、新しいの入ってないかと思って。」
「あのねぇ……吸血鬼の本なんて、そうそう入ってくるもんじゃないの。リクエストするのはあんたくらいで……」
「俺以外にいたら、逆に怖いよ。」
「1人だけいたよ?元気で明るい、図書室が似合わないタイプだったけど。」
キルシーか?吸血鬼について調べに来るなんて、キルシーしかいない気がする。
でも図書室について知らない様子だったし、もしかしたら……この学校にいる、別の吸血鬼かもしれない。
「で、結局情報は入ってるのか?」
「ここは情報屋じゃないのよ。まあ、入ってるけど。」
そう言いながら、京子はノートパソコンを取り出す。
「それは……」
「私の私物。丁寧に扱ってよね。」
そう言ってパソコンをくるりと回し、こちらに画面を見せてくる。
「ええっと……?」
見たことの無いサイトだ……吸血鬼の情報があるサイトなんて、とっくに全部見たはずなんだけどな。
「ちょっと深いところまで潜ってみたの。多分、機密情報。」
「はあ!?」
「声がでかい……!」
「あ、あぁ。」
動揺を隠しきれないまま、画面に向き直る。
吸血鬼の解剖だと……?
No.3
捕獲場所 日本
固有能力 超音波
No.1,2に見られなかった謎の器官が口内に存在した。超音波を出す原理は不明。
その他は、人間の構造と概ね一致。
「……なにこれ。」
「国がやった、吸血鬼の解剖結果。夜の幻現が捕まえた個体を、秘密裏に国が引き取ったっぽいね。」
「マジのやつか……ってか、No.1とNo.2って何?夜の幻現が最初じゃないのか?」
「ああ、そっちも見る?」
そう言うと、京子はパソコンをカチカチと操作した。いつの間にか、俺の隣に移動している。
No.1
捕獲場所 イギリス
固有能力 重力操作
解剖の結果、吸血鬼の構造は人体とほぼ合致することが判明。歯の形が多少異なるが、人間の形に擬態することが可能。
No.2にはNo.1にあった両手の特殊な器官が存在しなかったことから、重力操作を行っている器官を特定。吸血鬼には、それぞれに固有の能力がある可能性が高い。
No.2
捕獲場所 アメリカ
固有能力 詳細不明。飛翔?
No.2固有の器官は翼以外存在せず、普通の人間とほぼ同じ構造をしていた。
No.1,3とは翼の形が少し異なるため、飛翔に関係する能力である可能性が高い。No.2,3も擬態を行っていたため、擬態は固有能力ではない。
「……これマジか。」
「そう。色々新発見だよね。」
吸血鬼には固有の能力がある……そんな話、今まで聞いたこともなかった。
「そもそも、イギリスとアメリカで吸血鬼が捕まえられたなんて話、1ミリも知らないぞ。」
「なんでかは知らないけど、国家機密なのかもね。夜の幻現の報道も、すぐに止まったし。」
そういえば……夜の幻現が捕まえた吸血鬼の詳細は、いくら調べても一切不明だった。
「元人間なのが分かると、混乱を生むからかもな。」
「まあ、身近に居るかもしれないしね。人間に擬態出来るっぽいし……」
心当たりがありすぎる。実際、桐乃日良……キルシーが吸血鬼であることがバレたら、きっと大変なことになるだろう。
「攷晴、昔吸血鬼は人間社会に混ざってるんじゃね?って、言ってたよ。大当たりだね。」
「覚えてないくらい、昔の話だ。」
にしても……新情報が多すぎる。このサイトを探れば、もっと情報が出てくるかもしれない。
「お邪魔しまーす……」
「あ、やっと来たか。遅いぞ。」
「ごめんごめん。」
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