第四話 昼食
「おはよう!」
「……なんでここにいるんだよ」
玄関の扉を開けた俺は、朝っぱらから警戒心をマックスにしなければならなくなった。
「流石に家を特定したら、出待ちくらいするでしょ。言ったじゃん」
「重い吸血鬼だな」
「そうだよ?」
俺は黙って学校への道を進む。当然のように、キルシーがついてくる。
「……ねえ、なんで喋ってくれないの?」
「喋ることも無いからな。昨日散々喋ったし……」
「あぁ、そういえば。吸血鬼の弱点って何なんだ?」
「……」
キルシーは急にこちらを上目遣いで見てくる。
「私の弱点……知りたいの?」
「きも」
「酷い!吸血鬼の弱点ってことは、私の弱点でもあるに決まってるじゃん!そうそう言ったりしないよ」
「そりゃそうか」
「……じゃあ、これは独り言ね? 」
「……おう」
もしかして、本当に言ってくれるのか?吸血鬼の弱点を?
「……弱点と言っても、結構沢山あるんだよね、弱点」
「たくさん……?」
「脳みそと心臓を同時にぶっ壊されると死ぬとか、銀に弱いとか。」
「銀?」
「銀製の武器とかで凸られたら、生き血を吸いまくって強くなった吸血鬼でも、無傷では居られないかな」
銀か。確か俺の家に、銀製のナイフとフォークがあったな。
「他にも流水を通り抜けられないとかあるよ?」
「吸血鬼に襲われた時は、流れるプールに潜ればいいのか」
「そうかも?まあ上から引きずり出されたら終わりだけど」
「なるほど……勉強になる」
「逆に、勘違いされてる弱点も多いかな」
勘違いされている弱点……?
俺たちは弱点だと思ってるけど、全く効かないやつってことか。
「日光とか、ほら、私いま元気ピンピンでしょ?」
「たしかに」
「ニンニクは大好きだし、十字架を見せられたところで何も無いし」
「使えない弱点……いざという時、攻撃が効かなかったら大変だしな。ありがたい情報だよ」
出来れば、夜の幻現にこの情報を共有したいところだが……どうすればいいんだろう。
「後は……吸血鬼は元人間。精神面で弱い奴は、結構いるかもね」
「精神攻撃か。相当難しい気もするけどな」
「まあね〜」
キルシーは呑気な声を出して、少し目を閉じた。
敵の吸血鬼の過去を知れば、精神攻撃が出来るのかもしれないな。だが、難易度はだいぶ高い。
「あと、吸血鬼は嗅覚とか聴覚が優れてるから、目つぶしの閃光弾とかは効きにくいかも?個体差あるけど」
「私は特に鼻に自信があるよ?それで攷晴も見つけたし」
「俺、においでみつかったのか!?」
「恐怖と緊張と……感動?のにおいをプンプンさせてたよ?」
そこまで細かく……!?ここまで来ると、もはやエスパーだな。
「感動……出てたんだな。」
「夜空の美しさに見とれちゃってた?」
「……まあな。ちゃんと夜空を見たことが無かったし」
「めちゃくちゃ綺麗だもんね〜夜空。知らない人間たちが可哀想だよ」
たしかに、あの日の夜空は綺麗だった。俺の心を奪ってしまうくらいには。
「……もう着く。俺たちが一緒にいると、誤解されそうで仕方ない」
「昨日お昼に抜け出した時点で、もう手遅れだと思うけど?」
「なんとかなる」
とりあえず、近藤にはしっかりと弁明しておこう。昨日は何故か話しかけてこなかったからな。いつもならあいつから声を掛けてくるんだが……何かあったのか?
上履きに履き替えてから階段をのぼり、2階の教室の扉を開けた。ガラガラと老朽化の音を鳴らしながら、ゆっくりとドアが開く。
「あ、日良っちおはよー」
「うん!おはよー!」
キルシーは、既に女子グループに入っているようだった。当然のように一軍だ。
(あそこと絡む気には、ちょっとなれないな。)
決して、陽キャ女子と話す勇気がない訳では無い。
「よう。」
「ああ攷晴!おはよう!」
近藤……思ったよりも元気そうだな。
「ちょっと聞いてくれよ……!」
「いきなりどうした?」
「ここだけの話なんだけどよ……」
俺に耳打ちをしながら、全く信用出来ないここだけの話をし始める。
「実は俺、桐乃ちゃんのこと気になっててさ!」
「まずはちゃん付けやめたら?キモがられるぞ?」
「分からないか!?ちゃん付け似合うじゃんかよ!」
うーん。分からなくは無いが、そんなに幼い感じはしない。本人と関わっていないから、見た目だけでそう見えているのかもしれない。
だが……少なくとも俺に、吸血鬼をちゃん付けで呼ぶ勇気はない。
「まあそれは置いといて……昨日のことについて説明してもらうぞ!」
「面倒だな」
「弁当がないって言った桐乃ちゃんと一緒に抜け出して……どこに行ってたんだよ!?」
「どこって……学食だよ」
校舎裏に行って吸血されただなんて、口が裂けても言えない。
「嘘をつくんじゃないぞ、攷晴!」
「なんだよ。嘘なんて何も……」
「俺は昨日、学食まで探しに行った!でもお前らはいなかったじゃないか!」
昨日学食に行っていたのか……!なんて執念深いやつなんだ。転校生に初日でそのストーカーぶりを発揮出来るのは、ある意味才能のようにも感じる。
「学食じゃないけど、飯を食べただけだ」
吸血の後に食べた弁当は、栄養素をハッキリと感じて美味しかった。
「そうか……仕方ねえな。今日は3人で食べさせて貰うぞ!」
「それは俺じゃなくて、桐乃が決めることだ」
「わかった!今誘ってくる!」
「おいやめとけ!」
「断られるより、先に取られる方が嫌なんだ!」
そう言って、近藤はギャルグループに突っ込んでいった。
「桐乃……さん!今日一緒にお昼食べませんかっ……!?」
「えー?うーん……」
「攷晴と一緒ならいいよ?」
「!?」
事態を静観していた俺も、さすがにびっくりする。ギャルグループの面々も驚いているようだ。
「わかった!ありがとう!」
近藤はダッシュでこちらに戻ってくる。ギャルグループは、さっそくヒソヒソ話を始めた。
「お前……だから止めたのに」
「よっしゃ!お昼の約束取り付けたぞ!」
近藤は呑気にガッツポーズをキメた。呆れていると、近藤を冷ややかな目で見るギャルグループと目が合った。
同情の視線を送られたので、申し訳ないという視線を送りつつ、軽く頭を下げた。
「良かったな!」
「……そうだな」
近藤は機嫌よさそうに自分の席に戻って行った。
(朝から疲れるな……)
それからは淡々と授業をこなした。
人間、慣れるもので……普通に集中して授業を受けることができた。隣に吸血鬼が居るなんて、慣れてはいけない状況な気もするが。
「飯食おうぜ!」
昼休みになった途端に、近藤は勢いよく俺の机にやって来た。
「う〜ん、今日は学食の気分なんだけど、どう?」
「俺は学食でもいいけど」
「もちろんだ!」
弁当は持ってきているが……夕飯にでもすればいいだろう。ただでさえ友達が少ない俺にとって、こういう付き合いは大切だ。
「……普通に食えるのか?」
俺は小声で、キルシーに耳打ちをした。
吸血鬼の食事は吸血のはずだ。人間の食べるものを、吸血鬼はしっかり消化できるのか?
「元人間なんだから当たり前でしょ?」
「ああ、そっか」
「まあ効率は良くないけどね……お肉さえ食べれば平気」
「案外雑食なんだな」
「じゃないと人間社会に溶け込めないでしょ」
なるほど……もはや吸血衝動以外、吸血鬼は人間とほぼ変わらないのかもしれないな。
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知識紹介④
『近藤響也』
攷晴の幼馴染のうちの一人。後先考えずに突っ走るタイプ。本人のポジティブすぎる思考も相まって、度々誰かに迷惑をかけている。だが本人もそれを自覚しており、反省と成長を少しずつ繰り返している。努力ができる男。




