第11話 婆ちゃんの墓 3
「"到着でございます"。」
俺は龍影に振り向くと、頷いてきた。
「到着って…、全然そういう構造は感じないぞ?」
今の俺から見ても、ただの壁だが…?
国王はその場にしゃがみこみ、右手に虹色に光るモヤを纏わせたんだ。
このモヤは"オーラ"と呼んでいる力を具現化したもので、2000年前、龍輝に出会ってオーラを伝えた時、「"気"と似ている」って話した事があったぐらいだ…。
それにしても…国王のオーラなんて、最後に見たの1億年以上前なのに、"この場で出すのかよ"…。
…でも、何か変だぞ…?…質が違うような…明らかに"弱ってる"ような…?
それとも、敢えて微量だけ出して鍵にしているのか?
国王は右手を正面に伸ばした。
ジワジワジワジワ……
虹色のオーラがゆっくり広がっていき、1.3m×1mの正方形に近い長方形の板状に固定されたんだ。
そして、国王はそのまま右手を左にずらした。
「!!…マジかよ…。茶道部屋の入り口みたいだな…。」
板は扉だ…。茶道部屋の入口も、屈んでしか入れないよな…。
国王がチラっとこっちを見てきた。
「まぁ、大きさは似ていますが、別に敬意を払っているわけではありません。隠し部屋であり、この神殿にとっては“ただの保管庫”ですので、大きな扉を用意する必要もありませんでしたから…。」
国王はずっと淡々と説明していた。
イラッ…。
「…“よく、淡々と説明が出来るな”…。」
ビクゥッ!!
ビクゥッ!!
国王は当然だが、龍影もビクつく程、俺はイラついてしまったんだ。
二人とも、その場に跪いてきた。
正直、“ここでブチギレたくなかった”んだけどな…。
…ここで…、…ここは、“婆ちゃんの墓の直前なんだ”…。
ブチギレたくない…。
はぁ…。すぅぅぅぅ…はぁぁぁーーーーー……。
…婆ちゃんに会う前に、怒りたくもない…。
「…国王、それに龍影もだ…。お前達にとっては"婆ちゃんの魂はいつも使ってる傀儡の魂"なんだろうが、お前達は俺の奴隷で、婆ちゃんは"俺にとっては、今の立場でも敬意を払う存在なんだ"…。」
「"ここじゃなかったら、確実にブチ切れていた"が、俺は…、これから会う人に対して"敬意の気持ちがある"から、怒りに蓋をしたんだ…。」
「"立場を弁えろ"…。今から入る場所は、"この俺の大切な人の墓"だ…。これから先、"敬意を払わない行動や発言は、この俺を直接侮辱する行為と同等である"と、肝に命じておけ。」
俺は特に、国王を睨みつけたんだ。
「承知致しました…。今までの結陽の……いえ、"結陽様"に関しての無礼な発言の数々、申し訳御座いませんでした…。」
俺はチラッと龍影を見たんだ。
「龍影も良いな?」
「承知しました。」
私達は随分…、"慣れてしまっていたみたいだ"…。やはり、"慣れは怖いな"…。
「はぁ…、全く……。」
俺は虹色に輝く入口を見たんだ…。
横長長方形だが、右側がやたら白色に近い…。
これは、力を密集させた"高位結界"だ…。
高位結界…。完全に内外を隔絶し、術者か術者以上の実力者でなければ開けられない…。
…開けてみるか…。
「国王、そのままどいてくれ…。…"今の俺なら、開けられるか"?」
自信満々ってわけじゃない…。寧ろ不安でしかない…。だが、"やってみたい"…。
国王は少し口角を上げ、俺を優しく見詰めてきた。
「今の貴方様なら、"簡単に破れますよ"…。どうぞ、軽く触れてみて下さい。」
国王は一歩下がり、頭を深く下げてきた。
「…分かった。」
また、心臓が高鳴る…。この高鳴りは、婆ちゃんに会えるからじゃない…。"国王本人が、公認で結界の解除の許可を出してくれた事"に対し、鳴ってるんだ…。
今日、"俺は母さんを奴隷にした"…。
母さんは…、神の国では"女神王"の立場であり、事実上、現在の神の国の最高位に就いてるんだ…。
そして…神の国では、結界の解除条件は"絶対"だ…。国王が直に張った結界を開ける…。これがどういう事なのか…。
俺の手は…、無意識に震えていた。
国王より上……、女神王より上…。
これが、"神の覚悟"だ。
俺は唾を飲み込み、両手をそれぞれ握り締め、結界の中央に軽く…しかし、しっかり触れた。
パキッ…、パキッ、パキパキパキパキパキパキ……
バリンッッ…!!!
"ただ触れただけ"なのに…、結界が簡単に割れた…。
「!!?……っ……あっ……」
俺は理解は出来ていたが、"目の前の事実"に、現実を突きつけられた感じがした…。
俺はその、"あまりの衝撃"に身体を強張らせつつ、ゆっくり国王を見た。
そうすると、国王はその場で正座をして、両手を前で合わせ、額を床に付けた。
「主様…。"謹んで、御祝い申し上げます"…。貴方様は現時点をもちまして、これより神の国においては、極最高位権力者である"絶対神"の称号が付きます。……どうか、"御納め下さいませ"…。」
国王が…、いや、"女神王が敗北を認めた瞬間"だった…。
神の国の最高位権力者…。ああ…、"思い出した"…。あそこって、今のこの国より"序列が超厳格"だったな…。まぁ、その仕組みを考えた一人は、2代目だった当時の俺なんだが…。
神の国にも、奴隷制度はある…。
結構…皆、当たり前のように"奴隷"を使ってた…。
格が上の連中は、格下の連中より良い奴隷を使うのが常識だった…。
でも…、"俺は使った事が無かったんだ"…。
はぁ…。
"決戦が終わって落ち着いたら、制度の見直しをするか"……。
国王が、再度口を開いた。
「主様、私はここに控えていますので、中に入って頂き、結陽様に御会い下さい…。そして、もし必要であれば、お呼び下さいませ…。」
…何だろう…。
国王が…更に小さく…、遠くに感じる…。
また……、"独りになるのか"…。
……"嫌だ"……。
「国王……、"今はここで待っていろ"…。龍影もだ…。」
俺は両手をまた強く握り締め、少し目を泳がせてしまった…。
……"振り向けない"。
「"呼んだら……、今度は必ず直ぐに来い"。…命令な。」
龍影と国王は思わず無言で目を合わせた。
「「はいっ!!!!」」
2人がどんな表情で言ってくれたかは、分からない…。
でも…、おかげで"進む勇気が出た"。
俺は入口手前であぐら座りをし、最も深く頭を下げた。
そして、ゆっくり立ち上がり、小さく低い入口を潜ったんだ。




