「うわっ!めちゃうま!甘い!」
渓谷を後にし、一行が緑豊かな森を抜けていると、リオンが遠くの森を指差しながら言った。
「あの森の奥にはな、珍しい木の実が生えているんだ。すごく甘くて、この辺りの獣人たちはデザートによく使うんだぜ」
それを聞いたガウルが
「リョウは食べたことないよな。食べたいよな!ちょっと持ってろ。取ってくる!」
と、猛ダッシュで森の中に行ってしまった。
「ああ、まったく……アイツはいつもそうだ」
リオンは呆れてガウルの後ろ姿を見送ると、「ちょっと休憩だな」と苦笑いし、エリナとリョウを伴い、近くの切り株に腰を下ろした。
しばらくすると、森の奥からガウルの大声が聞こえてきた。
「うぉ〜!取ってきたぞ〜!」
ドスドスと地面を揺らしながら戻ってきたガウルの両腕には、見た目はイチゴっぽいのに大きさがガウルの拳大ほどもある、真っ赤な木の実が3つ抱えられていた。
「これが言ってた木ノ実か」
リョウはそれを受け取ると、屋台の引き出しが木の実を取り込み、熟した食べごろになって出てきた。
リョウはリオンとエリナに木の実を見せ、
「美味しそうだな」
と試しに皮を剥いて食べてみる。
「うわっ!めちゃうま!甘い!」
「ああ、美味しいだろ。それが『スイートベリー』だ」リオンは、リョウが美味しそうに実を食べるのを見て頷いた。
エリナも一つ受け取り、上品に一口食べると
「まぁ!なんて芳醇な甘さでしょう!まるで蜜のようですわ!」
と感動していた。
( 何というか、見た目も名前もベリーというからイチゴっぽいかと思ったら、キウイとプルーンの良いとこ取りみたいな味だな。面白い。これならスィーツがいい……何がいいかな、そうだ! [ワッフル ] なら合うな!まさかのデザート開発!? )
( 屋台、 [ワッフル ] !)
リョウが頭に浮かべた通り、屋台は調理台を [ワッフル ] モードへと変形させ、早速デザート作りの準備を始めた。
鉄板がガタゴトと音を立ててせり上がり、格子状の [ワッフル ] 型が現れる。
引き出しからは、小麦粉、卵、牛乳、ベーキングパウダーが計量された量で出現する。
( まるで料理番組で見かけるアシスタントがいるみたいだ )
さらに、溶かしバター、そしてメープルシロップのような甘い液体も揃っていた。
まず、ボウルに小麦粉とベーキングパウダーを合わせ、そこに卵と牛乳を加え、泡立て器でダマがなくなるまで丁寧に混ぜ合わせる。
そして、香り高いバニラエッセンスを数滴加え、風味を増す。
最後に、先ほどの甘いスイートベリーを細かく刻んで生地に混ぜ込む。
熱くなった [ワッフル ] 型に薄く溶かしバターを塗り、お玉で生地を丸く、均一な厚さに流し込む。
ジュワァと心地よい音を立てながら、甘い香りが立ち上る。
蓋を閉め、数分待つ。その間にも、 [ワッフル ] が焼ける甘い香りが周囲に漂い、ガウルは我慢できずに [ワッフル ] 型を覗き込もうとする。
「おいおい、まだだぞ、ガウル」
リョウが笑いながらガウルを制する。
やがて、チーン、と軽い音がして、焼き上がりの合図を知らせた。
リョョウが蓋を開けると、黄金色に焼き上がった、格子模様が美しい [ワッフル ] が顔を出した。
ふっくらと膨らみ、表面はカリッと、中はフワフワとした理想的な [ワッフル ] だ。
「できた!スイートベリーの [ワッフル ] だ!」
焼き上がった [ワッフル ] を皿に盛り付け、メープルシロップのような甘い液体をたっぷりとかけ、さらに粉砂糖を軽くまぶしてみた。
その上には、残りのスイートベリーを飾り付け、見た目にも華やかに仕上げる。
リオンが一口食べると、驚きの表情を浮かべた。
「これは……!甘くて、ふっくらとして、なんという優しい味だ!この実の甘みが生地と溶け合って、素晴らしいぞ!」
ガウルはもはや言葉にならず、大きな口を開けて [ワッフル ] を頬張り、エリナも
「この口の中でとろけるような食感!そして、スイートベリーの甘酸っぱさが絶妙ですわ!」
と感激していた。
三人の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。
日が傾き始め、一行は今日の野営地を探し始めた。
開けた平原に差し掛かると、すでにいくつかの天幕が張られ、焚き火の煙がゆったりと立ち上っているのが見えた。
商隊の野営地だ。
リオンが商隊に近づき、静かに声をかけた。
「旅の者ですが、今晩この近くで野営させていただけないでしょうか?」
商隊の護衛らしい男が、警戒の眼差しを向けながらも、
「構わん。ただし、騒ぎを起こすな」
と短く答えた。
リョウたちは感謝を告げ、少し離れた場所に屋台を停め、野営の準備に取り掛かった。
リオンは周辺の安全を確認し、ガウルは手慣れた様子で天幕を設営し、屋台を固定する。
エリナは、リョョウの隣で、今日の料理の感想や、次は何を作るのか楽しそうに話していた。
リョウは、彼らの働きに応えるように、その日の夕食の準備に取り掛かるのだった。
屋台の引き出しを開け、今日の彼らが一番喜びそうな料理を思い浮かべる。
「今日は、何を作ってやろうかな?みんなが喜ぶ顔が見たいな!よーし、リオンやガウルが大好きな [焼きそば] にしよう!腕によりをかけるぞ!」
引き出しから新鮮なキャベツと豚肉を取り出し細切りにし、熱した鉄板に油をひいて手早く炒める。
豚肉に火が通ったら、キャベツを加えてシャキシャキ感を残すように炒め、茹でた中華麺を投入。
麺がほぐれたら、下段から焼きそばソースをとりだしそれを回しかけ、全体に絡ませるように炒め合わせる。
ジュウジュウと音を立てながら、香ばしいソースの匂いが立ち上り、あたりに充満した。
「うわ〜!いい匂い!ガウル、腹減ったぞ!」
ガウルが鉄板の周りをうろつき始める。
商隊の野営地からも、ちらちらとこちらを伺う視線が感じられた。
焚き火を囲んでいた護衛たちが、美味しそうな匂いに釣られて、思わず顔を向けている。
「できたぞ![焼きそば] だ!」
リョウは熱々の [焼きそば] を皿に盛り付けると、ガウルが待ってましたとばかりに箸を手に取った。
リオンもエリナも、その香りに誘われるように屋台に近づいてくる。
四人は、湯気を立てる焼きそばを黙々と頬張った。
その顔には、一日の疲れが吹き飛ぶような満ち足りた表情が浮かんでいる。
そこへ、先ほど対応してくれた護衛の一人が、たまらず近づいてきた。
「む、すまないが、それは一体、何という料理だ?この芳しい匂いは…」
護衛は、好奇心と食欲が入り混じったような目で、リョウたちの皿を覗き込んでいる。
「これは [焼きそば] といってですね、色々な具材と麺を炒めた料理です。説明するより、食べた方が早いですよ!」
リョウはそう言うと、手際よく新たな焼きそばを作り始めた。
しかし、護衛の背後には、同じように興味深げな顔をした他の商隊員たちが何人も控えているのが見えた。
(しまった、結構な人数がいるな……これじゃ時間がかかるし、皿も足りない。何か、もっと手軽に配れるものはないか……そうだ!この人数なら、[焼きそばパン] だ!)
リョウがそう強く願った瞬間、彼の頭の中に
【スキル『屋台』が進化しました!特定の料理に合うパン類を自動生成する機能を追加!】
という文字がパッと表示された。そして、屋台の引き出しからは、長さ20センチほどの、表面がツヤツヤで切り込みの入ったコッペパンが、フワリと現れた。
「え、コッペパン!?これも出てくるのか!?」
リョウは驚きつつも、その進化に胸を躍らせた。
「リョウ様、これは一体…?」
エリナが不思議そうにコッペパンを眺めている。
「エリナ!これを手伝ってくれ!焼きたての焼きそばを、このパンに挟むんだ!」
リョウはエリナにパンを渡し、手早く焼きそばを炒め始めた。
エリナは初めて見るコッペパンに少し戸惑いつつも、リョウの指示に従い、熱々の焼きそばをパンに切り込みを入れ、丁寧に挟み込んでいく。
「はい、どうぞ!」
完成した [焼きそばパン] を、リョウとエリナは商隊の人々に次々と手渡していった。
護衛の男は、恐る恐る一口食べると、その目が大きく見開かれた。
「これは……!具の香ばしさと、このフワフワのパンがこんなに合うとは!これ一つで食事になるな!美味い!」
その言葉を皮切りに、他の商隊員たちも次々と [焼きそばパン] を口にし、驚きと喜びの声を上げた。
彼らの顔には、疲労の色ではなく、純粋な「食」の喜びが満ち溢れている。
「こいつは素晴らしい!こんな美味いもん、初めて食ったぞ!」
「ああ、力が湧いてくるようだ!この旅の疲れが吹き飛んだ!」
商隊長らしき年配の男が、リョウの前に進み出た。
彼は深い皺の刻まれた顔に、心からの感謝の表情を浮かべている。
「旅の者よ、我々にこのようなご馳走を振る舞ってくれるとは、感謝に堪えない。これは、その対価だ。受け取ってくれ。」
商隊長はそう言うと、ずっしりと重みのある革袋をリョウに差し出した。
中からは、きらりと光る金貨が数枚覗いている。
「いえ、これは皆さんの旅の疲れを癒すためですから…」
リョウが遠慮しようとすると、商隊長は首を横に振った。
「良いものには、しかるべき対価がある。お主の料理は、それだけの価値があるのだ。受け取ってくれ。」
リョウは、その言葉に促され、革袋を受け取った。
商隊の人々の満面の笑みと、感謝の言葉が、リョウの心に温かく響いた。
屋台は、その時やその場所の雰囲気に合わせて、あるいはリョウが思い描く「これがあればもっと喜ばれる」というアイデアに合わせて、柔軟にその形態を変えていった。
[お好み焼き] 、 [焼きそば] 、 [鮎の塩焼き] 、[ナナホシウオのホイル焼き] 、スイートベリーの [ワッフル ] 、そして [焼きそばパン] ……。
それぞれの屋台は、道中のその土地で出会う人々を魅了し、リョウの知名度を少しずつ高めていく。
時には、地元の特産品を仕入れて屋台のメニューに取り入れ、新たな味の発見に繋がることもあった。
「このスキル、本当に奥が深いな。色々な料理が作れるぞ!これで食いっぱぐれる心配はないな!」
リョウは、職を転々としてきた過去の自分とは全く違う、充実した日々を送っていた。
「こんなに楽しい仕事、初めてかもしれない……まるで天職だ!」
日が完全に傾き、空には満天の星が瞬いている。
商隊の野営地とリョウたちの屋台から、楽しそうな話し声と笑い声が響き渡る。
それは、旅の疲れを癒す、温かく、そして心を満たす夜になった。




