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10.玉水蓮

前回までのあらすじ

見つかってしまいました。

仙斗はバカラ屋『Jcasino』の隅の椅子に座り意味もなく携帯を見ていた。


今日で3週間連続だ。

桂樹に頼まれて貸付をしている。

金を渡すだけの簡単な仕事だが、桂樹同様ギャンブルにさほど興味ない仙斗にはそこまで楽しいものではない。

だが当初は乱雑な契約書や管理資料の整理ばかりしていたので、いい気晴らしにはなっている。

桂樹は車でバカラ屋まで仙斗を送ると金の入ったバッグを渡し去って行く。

他にやる事があるそうだ。

そして3週間もずっと座っていればある程度お得意さんとも仲良くなれる。


体重100kgを超えていそうだが、がっちりとした体つきの男が仙斗を手招いている。

建築屋社長の大西だ。

「仙ちゃーん。1本頼むわ。」

仙斗はバッグから100万円の束を持っていき渡す。

大西は札束をそのままディーラーに渡しディーラーは確認を終えるとチップを大西に渡す。


チップをもらった大西はその半分近くを『PLAYER』とかかれた場所に置いた。

「こっからが鉄板なんや。見てみぃ。みんな3目で切れとるやろ。それに本線も中国罫線もプレイヤーやとゆーとるわ。」

バカラとはバンカーサイドとプレイヤーサイドどちらが勝つかといった、ある種丁半博打のようなものだ。

ただ、どちらがどういう勝ち方をしたかといったデータが表示されている。

そのデータを読み取り予想して掛けるのだ。

何の意味もない情報を吟味し未来を予測する。そしてその結果がすぐに出る。

経営判断を常に行わなければならない経営者に好まれているギャンブルだ。


ギャンブルには全て還元率が存在する。

例えば1万円掛けると平均いくら返ってくるのかという計算だ。

返ってこない部分は胴元の利益となる。

パチンコ等 80%

競馬、競輪、競艇、オートレース 70~80%

スポーツくじ 50%

宝くじ 46%

といった具合だ。


一方、バカラやルーレット、ブラックジャックは97%。1万円投資すれば9,700円返ってくる計算になる。

だから最低掛け金額は高い。1万円かけても胴元の利益は300円なのだから。

ただバカラの決着は早い。数十秒で終わる。

競馬1レースの時間があれば、何十回も勝負することになる。

そして熱くなれば一度に数十万、数百万賭ける者もいる。


自分だけはと信じて賭ける。そして負ける。なぜか。負けるまで賭けるからだ。


愛想笑いしながら仙斗は答える。

「バカラのやり方知らないんですよ。」

「教えたろか?」と言う大西に

「金貸しがギャンブルハマったら叔父貴に怒鳴られますよ。」と笑う。

このやりとりだけで1日10人はしている。


大西は快活に笑う。

「そらそやな。」

「そもそも大西社長って今日は野球の清算をしに来たんじゃないんですか?」

今日は月曜だ。月曜にプロ野球はない。

つまり週毎に清算する野球賭博の支払日になる。

「野球で1本いかれたからバカラでちょっと増やしてから払ったろかいと思たら、そのバカラでイカれてもーたわ。」とガハハと笑う。

その後100万円を取り返した大西は野球賭博の清算を行い、仙斗に明日110万円振り込むことを伝え

「嫁はんがキレる前に帰るわ。」と帰って行った。


そんな客がここには多い。

大西が言うには、そういう客は『ギャンブラー』ではないらしい。

『ギャンブル』とは『小遣いの範疇』を超えてからを言うそうだ。

深いようなそうでないような話に仙斗は苦笑してしまう。


金はあるとこにはあるんだなと半分呆れたように桂樹に報告のメールを送っているとその男は来た。

スーツ姿で仙斗と変わらない年齢のその男はキョロキョロと客、店員、仙斗を見渡した後、携帯で誰かと話していた。

話しながら何度か仙斗を見た後に「友達を探しに来ただけなんで。」と帰って行った。


少し不安になり店員に警察かと尋ねると店員は安心させるように笑う。

「内偵の刑事なら革靴じゃなくてスニーカー履いてるよ。第一にあの子以前何回か友達とバカラとブラックジャックやってたし。それに10年以上やってるけどここに内偵なんて来た事ないよ。」

仙斗は客を意識してなさそうな店員が意外にしっかりと人の顔を覚えている事に驚いた。


しばらくすると30台前半の作業着姿の男が入ってきた。

そして入ってくるなり、バカラテーブルに座り100万円をチップと交換していた。

桂樹に見かけたら知らせろと写メを送られてた男だ。

桂樹にメールすると10分もしないうちに少し顔を赤くした桂樹が入ってきた。


仙斗に手をあげて挨拶した桂樹はそのままその男の所へ歩いていき肩を抱いている。

そんなに仲の良い知り合いなのか。

そしてその男を立たせ110万ほどになった金を受け取った男の肩をバンバンと叩きながら一緒に出口に向かう。

さらに顎をしゃくって仙斗にも着いてこいと合図する。

2人が出た後、身の回りをまとめ鞄を持って小走りに探すとビルの裏の人目につかない空き地に2人はいた。


倒れて丸くなる男を桂樹は全力で蹴っていた。

何度も何度も。

男はひたすらに「すいません。」を繰り返している。

慌てて止めに入る仙斗。

桂樹は男から目を離さず息を整えながら言った。

「こいつはな、次の日返すと言って50万借りて飛んだんだよ。今日で1ヶ月。合わせて200万の滞納だ。」

桂樹は大きく息を吸って再び男を蹴った。

「金も返さないでバカラとはどういう了見だ?この依存症野郎が!」

男は泥にまみれながら話す

「どうしても100万円しか作れなくて。明日になったらもう100万円手に入るけど利息が追いつかないから増やそうと思ったんです。」

桂樹は「嘘つけ。バカヤロー。」とさらに蹴る。


桂樹は丸まった男の髪の毛を掴む。

「そんじゃ行こうか。」

仙斗が怪訝そうに尋ねる。

「どこに?」

桂樹は一息つくかのようにタバコに火をつけた。

それを男に顔に押しつける振りをしながら近づけて嬲る。

「こいつは1人っ子で年金暮らしの両親が福知山市に住んでるんだ。愛情たっぷりに育ててくれたご高齢のご両親に、諦めかけた末にようやくできた長男様のご健康を200万円で購入されるかお尋ねするんだよ。」


福知山市は高速で1時間半程度の場所だ。

そうして駐車場まで髪を掴んだままやってきた。

ベンツのトランクを開け謝罪と言い訳を繰り返す男に乗れと言う。

正座して拝むように両手を合わせる男を見ながら、取り上げた110万円を内ポケットに入れている桂樹に仙斗は違和感を持った。

「あと100万円では?」

「手数料だ。」

するりと答える桂樹に、仙斗はこれは流石にひどくないかと思った。

「こんだけ謝ってるんだし親元までトランク放り込んでってのも。今日10万勝ったんだから明日まで待ってあげればいいんじゃない。」と男を庇う。

男は「ありがとうございます。明日必ず。」と平伏する。


桂樹は怒鳴りつけよう口を開いたが、ふと考えを改めたようだ。

「お前は初めて会ったいいかげんそうな男の何を根拠にそう信じるんだ?」

怒鳴られそうな予感がしていた仙斗は躊躇いながらも

「いい歳した男がこんだけやられて土下座までして謝ってんだし、実家まで把握されてるんだから、明日にはちゃんと持ってくると思うよ。」


しばらく無言でいた桂樹は「分かった。」とだけ言う。

「こいつの名前は『玉水』だ。今日からお前の担当だ。はい玉水蓮君ご挨拶。」と男を蹴る。

元本を100万円に書き替えた契約書に署名した後、玉水は何度も礼を言って帰って行った。


『命の恩人』とまで言われた仙斗はこの仕事をして初めて良かったと思った。

桂樹はそんな仙斗を見ていた。

「俺は飲みに行く。店には立て替え払い頼んでおいたから俺の車に乗って先に帰っていいぞ。

明日は俺の車で来てここに停めて店に行ってくれ。鞄は持って帰ってそのまま明日持ってくればいい。」

そしてふと足を止め、「車の鍵は俺も持ってるから気にしなくていい。」

そう言い残すやネオン街に消えて行った。


翌日、玉水は来なかった。


玉水蓮たまみず れんです。

あまりいない名前です。

なぜか。主要キャラのほとんどの名前に意味があるからです。

そしてクズです。

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