最後は心臓のシャーベット
―ギィ
夜の十時、静かな部屋に扉が開く音が響きます。
「おはようございます。」
部屋の奥に、綺麗な黒い髪を揺らす影が朧げに映ります。
最近、吸血鬼の少女は昼夜が逆転した生活していましたが、まだちゃんと起きているようです。
吸血鬼は夜行性ですが、こんな屋内に閉じ込められれば時間感覚の一つや二つ、おかしくなって当然ですね。
「はい!。おはようございます!。でも、今日は少し遅くありません?」
「そうですね、少し面倒な仕事があって…。」
それにしても、これから話す内容を本人に直接言うのは、流石に躊躇われますね。
まあ、これを言わずに終わるのも出来ませんが。
「今日は貴方に大事な話があります。」
「大事な話ですか?」
「ええ、そうです。それは....貴方と私の関係を終わらせる、という話です。」
「関係を終わらせる?。」
彼女は、あまり意味が分かっていないような、マヌケな顔をして聞き返します。
「と言っても、解放する訳ではありません。
今日で貴方の寿命は最期、という意味です。」
「つまり今日で、私は死ぬって事ですか…。」
彼女は少し不安そうな顔を覗かせて…
「それでキチンと最期も私を食べてくれるんですか?。」
...貴方の心配いている所はそこですか…。
原因となったのは私とはいえ、狂人の考えは分かりませんね。
それこそ、私が言える事ではありませんけど。
まあ…、返事は当然決まっていますけど。
「はい。全身全ては難しいですが、出来るだけ食べて一つになってあげます。ちなみに今日は、心臓を凍らせてシャーベットにする予定です。」
そんな私の言葉に、あからさまにホッとした顔をして…
「良かったです。これでそのまま捨てられたら、死んでも死にきれませんでした。」
と、呟きました。
確かに吸血鬼の生命力なら生きられそうな気もしますけど、何故か心臓はダメなんですよね。
では、そろそろ始めましょうかね。
あまり長引かせるのも私的に嫌ですし。
「それじゃあ、いつものように手術台に乗ってください。今回はいつも以上に激痛が襲うと思いますから。」
手術台にある器具で手足をしっかり拘束します。
これで逃げるのは、ほぼ無理でしょう。
ちなみに今回やるのは、当然心臓です。
ただ心臓は肋骨で完全に守られている為、少し面倒みたいですね。
それに、下手に失敗して傷つけると色々と面倒ですから、慎重にやらないといけないし。
一応、そこら辺の本は読みましたけど、キチンと出来るか心配ですね。
まあ、上手くできる事を神様にでも祈りましょうか…。
見てくれるかは別として。
「では、メスを入れますね。」
そんな私の言葉に、布を口に入れているので、軽く首を振り返事をします。
彼女の肌を銀のメスは、一本の赤い筋を胸に残していきます。
そのまま進めると、直ぐに肋骨に当たりました。
しかし、銀で作られたメスは骨をバターを溶かすように入り込み、観音開きにします。
どうせ、これで終わりなのだからと、遠慮なんて事はしません。
骨を開くと、奥に袋のような膜が見えました。
これが多分、心膜と呼ばれる物でしょう。
慎重にメスを入れ、綺麗に開くと、赤く光っているように見える心臓を覗かせました。
「今、心臓が見えました。
綺麗ですけど、少し光っているのは魔力ですかね?」
そんな疑問を胸に抱いて心臓に触ると、ドクンドクンと鼓動を感じます。
「そういえば何ですけど、もしかして貴方の名前って私、聞いた事ありませんでしたよね?。
痛みに耐えている所悪いと思っているんですけど、名前を教えてくれませんか?」
そんな私の無茶と言えるような質問に対して、顔を歪ませていた彼女は、恐らく精一杯の力を込めて笑ったのだろう表情を見せ…
「...ペコラ.....ペコラ・キーラです…。忘れないでくださいね。」
そう答えました。
「…はい。恐らく忘れないでしょう。
それではペコラ。そろそろお別れの時間です。
今、私が握っている心臓を取り出しますが、何か言う事がありますか?」
「それ..じゃあ、もう一度言いま..す、私は...貴方と一つになります..が、死ぬ迄、絶対に...忘れないでください..ね。」
「はい!。」
―ブシュ
返事をすると同時に、部屋に紅い液体が降りかかりました。
最期に食べた時、口にはとても濃い血の味がしました。
終わり
お読み頂きありがとうございました。
レヴォナのペコラへの評価は、家畜以上、ペット以下です。多少、上下はしますけど。
後日談を言うなら、次の日は戦争なので、つまりそういう事です…。
あんなに忘れないでと言ったのに、ペット以下なので順調に生きていれば一年ぐらいでさらっと忘れるけど、忘れる前に死んだので死ぬ前まで覚えていられたねって話です。




