勉強会
そろそろストックが・・・。更新が遅くてもストックはあるようにしてます・・・。
ケイネスが神官になった理由は簡単なものだった。生後すぐ捨てられた妹を助けるために神殿の門を叩いたのだという。家を捨てるのは躊躇しなかった。そのまま家には帰っていないらしい。そうやって現在に至るのだと。
もう十年ほどになると当人は笑っていた。
……うん。なんかごめん。
思った以上にハードだった。大切に育てられたと思ってごめんなさい……と反省するしかない。
「姉さま。ここの数字はあっているんでしょうか?」
ふとかけられた声に私は顔を上げていた。目の前には可愛らしい面立ちのピエタ。その手元にはノートと教科書が広がっている。
あれから二か月経つだろうか。一週間に一回。私は、私たちはピエタに勉強を教えていた。初めはケイネスの頼みで仲良くしてほしいとのことだった筈だったが、何時の間にか勉強も教えて欲しいと付け加えられていた。『レーネっちは優秀なんだぜ』と謎の自慢をエドガーがしたせいだ。謎過ぎる。
ここは私の家だ。宿舎にいるよりも落ち着いて勉強が出来るから、とケイネスに頼んで連れてきてもらった。もちろん最初は渋っていたが。
くれぐれも。くれぐれも宜しく。と念を押されている。そのケイネスは神殿の仕事の為ここにはいないけれど。後でまた迎えに来ると言っていた。
「あぁ――うん。あってる。大丈夫だよ」
ノートに掛かれた計算は何ら間違ってはいないようだ。普通色なしは教育を受けないし受ける必要は無いから文字すら掻くことが出来ないのが通常だけど、ケイネスはピエタに教えたらしい。一応ケイネスは神殿の中にある神学校に通っているそうだから。
やった。小さく呟いてヘラリと嬉しそうに笑うピエタ。ケイネスの教え方が良かったのか、ピエタの頭がいいのか物事をすぐ理解して覚えてしまう。そんなピエタってもしかして手か歳なのかも知れないと思いつつ私は頭を撫でる。
フワフワと髪がとても柔らかかった。
ナニコレ。可愛い。そんな事を考えながら悦に浸っているとガタッと慌ただしく音がした。
「あぁあ。レーネっち。俺も俺も。宿題でさ――」
「はいはい。君のは僕が見るから。邪魔しない」
落ち着いて勉強できるの他にもう一つの理由は『これ』だ。まだまだ子供とはいえある程度の体格である私たち。兄妹二人でも手狭の空間には狭すぎたのだ。
キラキラとなぜか目を輝かせて挙手をした――子供かな――エドガー。その挙手をニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべ降ろさせているブライト。
そう言えばなんでエドガーがいるんだっけと考えて、事あるごとに『勉強を教わりに来ていた』事を思い出す。ついでに家でご飯を食べて帰るまでがセットに成りつつある。使用人さん曰く一人作るのも二人作るのも、三人でも同じですと言っていた。もちろんエドガーがいるときはブライトもいる。何なら最近は三人一緒に帰っていたり。
え。
いいのか。それはエドガー的に。いや。孤立したりすることもなく相変わらず元気で皆と仲いいけど……。大丈夫なのだろうか。
――それを聞けない私も引けない私もずるくて嫌だけれど。
思考を切り替える様に軽く頭を振る。
ともかくこれは僥倖なのだし。二人の距離が縮んでいるような気がするし。うん。いい方に考えよう。
目指せ平和な結末。
「姉さま?」
不安そうにピエタが覗き込んで来るのでにこりと笑いかけると鏡を映したように笑い返してくれた。可愛い。妹がいるってこんな感じなのだろうか。周りが男の子ばかりで――母と姉除く――新鮮すぎる。
かあいい。何か知らないけれど『姉さま』と呼んでくれるし。ほくほくと満たされたまま口を開いていた。
「いや。仲良くなったと思って嬉しいなって」
「え?」
「は?」
――なんでさ。
視線で抗議されても困るんですが。特にブライト。距離は縮んでいるのに、仲良くならないのはどうしたものだろうか。本当に困るんだけど。どうせそうなるのだから抵抗しなくてもいいのに。早く心を寄せてもらってその時に備える。
何としてでも、間に合わせなければ。
多分それほど時間は無い気がするし。忘れたけどね。
しかしながらと、私は頭を抱えそうになる。何も思いつかないんだけど。うーん。今度双子に相談してみようか。それとなく。何か案が見つかるかもだし。
溜息一つ。私は不服そうな二人を無視する様にして、私は軽く伸びをしてから腰を浮かせる。それをピエタの赤い目が追っていた。
「そんな事より、休憩しよう。私頑張って昨日クッキー焼いたんだよ」
ほぼマーサさんが作ったような気がするが。言われたとおりに混ぜたし。型を作ったし。うん。私が作ったと言っても過言ではない。……それしか出来ないんだけど。だって焼くのも魔力がいるからね。この世界魔力が無いと生きていけないし。
ちなみに魔法が出来ることとは関係ない。
「本当? 兄さまの分も?」
エドガーの俺たちの分もだよな。という圧がつよい。そんな期待に満ちた目で見なくても。お腹空いているのだろうか。『あるから』と言えば『やったぜ』と笑っている。それを『よかったねぇ』と年下に宥められているのはどうなんだろうか。本人は何も気にしていないようだ。
そこは気にしようか。私は苦笑交じりに肩を竦めていた。
「もちろん。沢山作ったんだ」
待ってて。期待に満ちた目を背に私は踵を返していた。




