SPたちの帰還
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
訓練や各種のチェックを終えてSPたちは地球に帰還した。
彼等はキッチンの様子や備蓄食糧も調べている。
彼等の帰還より先に、各種の報告は続々と地上に送られていた。
それらを踏まえてNASAとJAXAではまたも会議が開かれていた。
「前大統領はハンバーガーが好きです」
「そのようですね」
秋山も前大統領がジャンクフード好きなのはよく知っている。
だがアメリカ側の要求はちょっと斜め上のものであった。
「宇宙ステーションでシェフが作ったハンバーガーでは物足りません」
日系のマツバラ料理長は、アメリカ人の胃袋に合わせたビッグバーガーを作る事が出来る。
リクエストもあった為、試食というか実際の食事というか、滞在したSPや秘書たちにそれを提供した。
その結果
「まあ我々はこれで十分だけど、前大統領が好きなのは更にジャンボサイズだな」
「バンズはともかく、もっと肉を多めにした方が良いな」
「ベーコンはもっと厚切りの方が良い」
「チーズはもっとごってり乗せよう」
となった。
技術的には可能だ。
そして大食いのアメリカ人に慣れているマツバラ料理長も、そういう料理に心理的な拒絶反応は無い。
問題なのが
「そんな肉の在庫はありません」
という事だった。
この結果を踏まえ、
「地上で料理されたハンバーガーを持っていき、宇宙で電子レンジ加熱をする、でよろしいか?」
となった。
(正直どうでも良い)
と思わなくもないが、地球から持ち込む物はグラム単位で管理するのが基本である。
承認を取らねばならないだろう。
「無論、公式の晩餐会では宇宙ステーションで作られた料理を食べると言っている。
これから最新の食材のサンプル分析をこちらでも行うが、まず危険な無いだろう。
君たちを信頼する」
と言っていたが、これも秋山からしたら
(正直どうでも良い)
と思ってしまう。
公式晩餐会こそわざわざ宇宙食で行う必要も無いのだ。
日常食こそ宇宙ステーションで地産地消する。
なのに、日常食であるハンバーガーが毎日の分持ち込み、非日常で豪勢さを求められる晩餐会の方に、わざわざ食材にも調理法にも制限がある宇宙ステーションの料理を食べるという。
(逆だよな)
と思わざるを得ない。
だが、やはり宇宙に行ったからには宇宙のものを食べたい、最低一回は、という思いはあるようだ。
次の話題は、どうでも良いものではない。
「随伴宇宙船を打ち上げたいのだが」
これは、「こうのす」単体では身を守れないという判断による。
当初、船外活動で宇宙ステーション外に警備員を配する事も考えた。
駄目だろうと思ったら、やってみて実際に駄目だと判明する。
「こうのす」自身の防衛機能は?
あれは宇宙塵対策用のものであり、シールドも、船外活動を補助する安全金網も、いざという時の小型衛星射出機を使った迎撃も、「こうのす」そのものを狙った攻撃に対処出来ないようだ。
「それはそうです。
軍用宇宙ステーションじゃないんですから」
秋山は、設計・開発当初の局員たちの悪ノリを思い出す。
元々「無茶でも予算を通す為に、研究項目テンコ盛りにしろ」とか言われていた。
その為、
「雷神の鎚を装備」
「メメントモリ!」
「レールガン!」
「反射衛星砲!」
「陽電子ビーム砲!」
「エンジェル・ハイロウ!」
とか、様々な衛星兵器搭載案が出たが、出した当人たちも
(まあ無理だな)
と思って名を挙げたに過ぎない。
だが宇宙の軍事利用はしない、という方針を改めた日本政府は、一瞬それらの兵器について吟味したという。
……政府の中にも、そういうのが好きな人はいるので。
そして出力の関係で無理と分かった。
まあ何より、一部は大量破壊兵器そのものなので開発は問題外とされたのだが。
そんな訳で、「こうのす」単体ではデブリを防ぐのがやっとである。
ならば護衛の機体を付けようというのだ。
大統領専用機にも戦闘機が随伴するものだし。
「そんなあちこちから宇宙船を打ち上げて、大丈夫なのですか?
飛行士の数的には問題無いでしょうが……」
秋山のその質問に、
「いや、無人機だよ。
事前に打ち上げておいて、使用する時だけ『こうのす』周囲に展開する。
宇宙的にはかなりの近距離でランデブー飛行をするから、事前に言っておく必要がある。
その機体コードを登録しておかないとね」
そう答えられた。
「なるほど。
無人機であれば事前に打ち上げておいて、軌道上に待機させておけば良いですね。
ですが、今からそんな軍事衛星開発するのは大変ですね。
何事も5回以上テストして現場投入するアメリカにしたら、前大統領宇宙行きまでの間にタイトなスケジュールで開発しないといけませんよね」
アメリカ側は苦笑いする。
「いいかね、ミスターアキヤマ。
今から開発なんて、そんなリスキーな事はしないよ。
それらはね、既に在るんだよ。
空想上のものではないのだ。
現に今既に
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ここから数分間の事は一切の記録に残されていない。
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「まあ分かりました」
「他言無用で頼みますね」
「分かっていますよ」
「それは君だけの話じゃない。
宇宙ステーションに居る飛行士たちも、だ。
知らないなら、知らない方が幸せな話だ。
まあ望遠鏡で、ピンポイントで見ない限り気づかれないものだが、万が一見られた場合は対処を頼む」
(アメリカは何だかんだ言って、かなり黒い部分があるよなあ)
一連のやり取りでそう感じる秋山であった。




