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SPたちの宇宙ステーション滞在

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

何事も予行演習というのは大事である。

要人警護にあたる者は、その要人の行き先を予め調べ、死角が無いか等を知っておく。

突然行き先を変更されるとたまったものではないが。

それでも最善を尽くすのがプロというものだろう。

例え行き先が宇宙であっても。


アメリカから3人のSPが「こうのす」で最終訓練を行う事となる。

SPはもっと多くいたのだが、宇宙に来るのは前大統領であり、現職の大統領・副大統領の警備を差し置いて全員を訓練に回すわけにもいかない。

ピックアップしたのだが、

「私は良心から前大統領の方針を好かない。

 現役大統領なれば任務であり、守る事を身命を賭して行う。

 しかし前職であり、しかも宇宙に行く為に飛行士としての訓練を受けろというものには従えない」

と言って拒否した者がいたり、宇宙飛行士としての訓練中に怪我をした者、不幸にも流行病に罹患してしまった者等が出た結果、最終的に3人だけとなってしまった。

それでも、訓練で適性無しとしての脱落が無かったのは凄いと言えよう。

NASA認定の宇宙飛行士2名と共に「こうのす」に来た後は、宇宙での身の処し方について最終訓練を行う。

宇宙酔いは、起こらないならばそれに越したことはない。

しかし、起きてしまった場合でも「今日は休みます」が通じない。

これは実際に経験してみないと分からない部分ではある。

また、決まってから訓練を経て宇宙に来るまでの期間が短過ぎる。

船外活動をする訳ではなし、研究を行う訳でもなし、要求されるのは前大統領の身の安全を守る事のみである。

故に訓練が大分省略されたものではあるが、だからこそ最終訓練は綿密に行うというのがNASAの見解であった。


実際に前大統領が来る時は、オリオン宇宙船が使用される。

しかし訓練の現在は最大11人乗りの民間宇宙船をチャーターして来ていた。

SP3人、正規の飛行士2人、そして前大統領個人の秘書が1人搭乗している。

秘書の方は同情に値する。

彼は宇宙に行きたいとは夢にも思っていなかった。

しかし、親族でもある前大統領から

「お前も行って、見て来い」

と言われたから、逆らえずに宇宙船に乗り込んだのだ。

なお、彼は宇宙飛行士としては「能力不足」という判定である。

閉所恐怖症や高所恐怖症、あがり症、パニックによる危険な行動は無い。

健康面は持病が無い為、やや高血圧気味だが許容範囲であった。

だが機械操作、咄嗟の場合の状況判断、1分以上息を止められる肺活量、不時着水後の水泳能力等の項目で落第となる。

それでも

「彼は宇宙船を操縦する訳でも、前大統領の身を守る訳でもない。

 身を守るのは、まあ多少はあるが、それでも本職のSPを差し置いて何かする訳ではない。

 前大統領、現役で政治活動をする者の執務の補佐をするのだから、多少は大目に見ろ」

という圧が掛けられた為、NASAも日本と同じ判断をするに至った。

荷物(ペイロード)に徹するなら良し。

 絶対に余計な動きをするな!」

である。

幸い、訓練において「所定時間内に脱出をする」「パラシュート降下を行う」「適切な場所に避難する」は指示があれば行う事が出来た。

これすら出来ないなら、圧の強い前大統領と衝突してでも「宇宙行きは無理です」となったのだが、前大統領に幸運な事に、秘書には不幸な事に、NASAには幸とも不幸とも両方解釈出来る事に、そこは大丈夫であった。

「やるなよ、絶対にやるんじゃないぞ!」

というのを、やれの前振りと捉える文化もアメリカには無い為、宇宙においては飛行士の指示に遵守する置物として乗船して来た。


かくして6人のアメリカ人が「こうのす」に乗船。

前大統領乗船に先立っての前乗り調査となった。

なお

「現在改修中の大統領専用モジュール接続後に、最終リハーサルを行う事になる」

と地上から通達が来ていた。

「こうのす」常駐の第七次長期隊にとって幸いだったのは、今次に大きな任務が入っていない事である。

「こうのす」の快適化と、その環境での日常生活こそが任務となった。

まあ半年滞在となる者もいる為、それはそれで「居るだけで十分なストレス」であるのだが。

当初予定されていた、コアモジュール2基を分離し、その中間に拡張モジュールを挟み込み、新型の農場モジュールをドッキングさせてセットアップ、運用開始と初期不具合を潰す任務が入っていたなら、頻繁にやって来る短期滞在隊との宇宙生活は多忙なものとなっていただろう。

そうならないよう、地上の秋山たちも調整をした。

現場に苦労を押し付けないのは、後方の義務と言って良い。

どうせ最終局面では現場がどうにかしなければならないのだ。

最初から何もかもを現場に丸投げするようではいけない。


この後方担当が行う調整作業の面倒臭さはさておき、今は軌道上の12人に注目しよう。

やって来た短期滞在隊を宿泊場所に案内した後、一息入れたら打ち合わせ(ブリーフィング)

地上からの交信で聞いてはいたが、SPたちの日程の過密さに日本人たちは思わず同情してしまう。

彼等は「宇宙飛行士としての最終訓練」を行いつつ「SPとしてアメリカのVIP滞在に際し、危険は無いかの確認」も行わねばならない。

しかも人によっては半年以内に宇宙へ3回訪問となる為、宇宙での放射線被ばく量が規定値未満で収まるよう、長居も出来ないのだ。

彼等は彼等で無重力環境でストレスフルな生活を送る事になるのだった。

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