表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
488/516

快適グッズ、傍から見れば技術の無駄遣い……

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙ステーション「こうのす」で、歴代の料理人を悩ませて来た事がある。

卵を割って、かき混ぜて、卵液を作る事である。

割るのは簡単だ。

しかし、割っても白身と黄身は宙に浮いたままである。

それをどうにかして器に入れる。

そしてかき混ぜるのだが、無重力ではどうにも勝手が違う。


そんな悩みを解決便利グッズが開発された!

遠心分離調理装置を利用する。

卵をセットする。

瞬時にレーザーでもって割るのではなく、半分に切る。

卵は両側に引っ張られ、遠心力によって卵の中身は容器に向かい。

この時にアダプターを付ければ、白身と黄身とに分離する事も可能だ。

最大3個まで同時に割る?事が出来るこの装置。

「確かに便利です。

 これが無いと卵を割って中を使うのは難しいです。

 ですが、これをわざわざ開発したというのが実に驚きです。

 祖国の一つとはいえ、やはり日本は何か違います……」

マツバラ料理長は首を傾げていた。

「卵液の状態で保存するのと、生卵では、日持ちが違うからね。

 これで卵料理が食べられる期間が延びましたね」

日本人たちは喜んでいた。

日系ながらアメリカ人のマツバラ料理長には理解が難しい。

(そもそも生卵はサルモネラ菌がついているから、卵液で地上から持ち込んだ方が安全なのでは?)

日本では生卵が安全なのは分かるものの、どうも頭が追いつかない。

そして何よりも「オー・マイ……」となるもの。

それが卵かけご飯なのだ。

遠心分離式レーザー自動卵割り機の容器を換え、ご飯を持って真ん中を凹ませたものをセットすれば、自動卵かけご飯装置に早変わりする。

「〇魂に卵かけご飯を何としてでも開発する科学者いたよね」

「科学者というか、カラクリ技師だけどね」

彼の夢は宇宙で叶う。

そして、調合された出汁醤油を遠心分離装置に乗せて疑似重力がある内にふりかける。

人によって好みの量を調整出来る。

(そこまでして、生の卵を食べたいのか?

 蛇じゃあるまいし)

外国人は気持ち悪がるのだ。


自動卵割り機兼任自動卵かけご飯製造機の他にも、生卵用調理器は開発された。

遠心分離機内で動作する、自動ホイッパーである。

設定一つで、普通にかき混ぜた卵液からメレンゲまで固さを変えられる。

疑似重力下だから、小麦粉とかとの撹拌も容易い。

つまりこうだ。

「ケーキも作れるな!」


かつて第二次長期隊で、ケーキ作りを宇宙で出来ないか、試した事がある。

スポンジ部分を焼くのが困難であった。

薄力粉をふるう、ダマを作らないという作業一つ、無重力では難しい。

ホイッパーで泡立てようとすると、中のものが飛び散る。

パンのようなドライイーストで発酵させるものならともかく、ケーキは中々難しかった。

当時の石田船務長はどうにかして作り上げたが

「もう二度と作りたくない」

と文句を言っていた。

確かに彼女は洋菓子作りが得意ではないが、それ以上の問題がそこにある。

その為、スポンジ部分は地上で焼き上げ、それを持って来るという方式に変わったのだ。

その後はケーキを宇宙ステーション内で焼く料理人は出ず、昨年のクリスマスは「打ち上げの振動でも壊れる事が無い硬度のザッハトルテ」が地上から運ばれて来た。

その状況が改善された!

「で、私にケーキを焼けと?」

「一回くらいはやって下さいね」

別に糖分大好きな甘党な訳ではないが、あるのだから一回は使って欲しいところだ。


調理用の鉄板も魔改造型が届けられた。

今までの鉄板は、熱くなったもので食材をプレスして焼き上げるものだった。

当然、ぺったんこになってしまう。

ガレットとかクレープとかステーキとかお好み焼きとかピザとか、そんな感じの料理になる。

今回開発されたものは、アクチュエーターによって形状が変わるものだ。

食材を潰す事なく、その形に沿って変形し、焼く事が出来る。

これによって

「棒餃子にせず、耳たぶ型の普通の焼き餃子が食べられる!」

となった。

今まで餃子は、耳たぶ型のものは水餃子か蒸し餃子にし、焼き餃子は作られない、もしくは筒状に餡を包んでそれをプレスして焼くようにしていた。

食べられる料理の幅が更に広まった。


「本当に、日本はこういう思いもしない物を開発しますよね。

 凄いと思います」

マツバラ料理長の感慨に、船長が意外な回答をする。

「卵割り機は日本製だけど、宇宙用ホイッパーとアクチュエーター型変形鉄板はフランス製だよ」

「フランス?」

「覚えておいた方が良い。

 世の中には美味い飯の為ならば手段を選ばないという様な どうしようもない連中も確実に存在するのだ。

 とどのつまりは我々のような!」

美食の為ならあらゆる努力を厭わない。

そんな日本、フランス、そしてイタリアが手を組んで開発したのがこの「ビストロ・エール」という厨房モジュールなのである。

フランスとイタリアは、欧州独自宇宙ステーションの為に、「ビストロ・エール」からの情報フィードバックを待っている。

そしてそこには、彼等の最新テクノロジーと料理への情熱が惜しみなく注ぎ込まれているのだ。

実際、生ハムを作れるとか、パスタマシーン装備とか、オリーブオイルも搾れる宇宙ステーションなんてのはここしか無い。


オーマイ……と肩をすくめるマツバラ料理長だが、彼の母国アメリカだってこだわる料理はある。

アイスクリーム製造機と、そのアイス用のフレーバーの数々。

かつて戦争中に、艦隊司令官である海軍大将が、アイス食いたさに水兵に混ざって行列に並んだりしたくらい、アメリカ人もアイスには妥協をしない。

そんなアメリカ人だけに、専用厨房モジュールを持つとあらば、表では「無駄な事はやめよう」と言いつつ、裏では「こうのす」にきちんとセットしていた。

使用権を持つアメリカが、彼等だけでの運用期間中に運び込んでセットしていたのだ。

美味い、甘い料理が次第に充実していく。

それでも日本人、フランス人、イタリア人等は妥協しない。

「まだだ、まだ終わらんよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ