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生活環境の向上

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙ステーション「こうのす」では、水処理専用モジュールを接続し、水回りの質を向上させた。

専用の厨房もあるし、食事の面でも無重力の閉鎖空間にしては質が高い。

無重力では低下する筋力や骨密度対策のトレーニング空間も、ゲームの要素を取り入れて「楽しみながら鍛錬出来る」ようになった。

風呂もトイレも日本品質のものを使用し、寝室も新型宿泊モジュール「アネックス」では相当に良い睡眠が可能だ。

アメリカの基準からすれば、十分に贅沢な研究施設と言えよう。


しかし、この程度で満足しては日本人はやっていられない。

日本人は過酷な環境でも我慢して生活するから、決してたるんだ精神なわけではない。

極端に凝り性なのだ。

「快適に生活出来る空間を作る」という目的が出来た為、そこに妥協をしない。

むしろ元来の凝り性を「職人気質」という美辞麗句に置き換えて、趣味も加えながら、好き勝手にやっている節がある。

やり過ぎに歯止めをかけるのが緊縮財政屋(コストカッター)とかアメリカの担当者だったりする。

だが、第七次長期隊までは日本独自で運用する。

第八次以降は継続案件でない限り、好き勝手には出来なくなる。

今しかない!

今が最後だから、思う存分やってから引継ぎをしたい。

こうして「こうのす」の更なる生活環境向上が行われていた。


まずは地道な部分から。

宇宙ステーションでは何をするにも電力が必要である。

その電力は太陽光発電パネルによって作られる。

この太陽電池は、年々発電量が低下していく。

毎年0.5%程度、発電量が低下するというデータが発表されている。

とはいえ、まだ3年程しか使用していないから、低下量は許容範囲内だ。

ではあっても、電力をより多く作れるならそれで良いだろう。

多く作って問題はないか?

実はある。

多く作り過ぎても、孤立した宇宙ステーション内では使い切れない。

バッテリーに貯蔵しておくにしても、許容量っていうものがある。

そして、それだけの発電量を賄うだけの太陽光発電パネルを展開していると、交換の時期に苦労するか、廃棄の際に余計なゴミとなってしまう。

この辺、「余った分は電力会社に売る」という売電可能な地上とは異なるのだ。

その為、計算しつつ、太陽光発電パネルを増設する事にした。


それと

「余った分は他に売る、それは良いね!」

という事で、その実験は行っている。

それは、宇宙ステーションで消費するよりも超過した電力を、マイクロ波に換えて、近くの軌道上を周回する実験衛星に送電するというものであった。

「サテライト〇ャノンですか?」

と冗談を言ってはいたが、それ程の出力は当然ながら無い。

本来、お客さんとして「こうのす」を訪れ、大学や高専で作られた小型衛星を放出するサービスをしていたのだが、世界規模での流行病のせいで無くなった。

その為、この小型衛星放出能力を流用し、マイクロ波を受けて発電する実験衛星を投入する。

アメリカ側から如何に

「基礎研究部門はISSに集約する」

と言われていても、やはり日本としてはこういう研究をやめる気はサラサラ無かった。


こうして必要量よりも3割程多く発電出来るよう、太陽光発電パネルを増設し、余った分を外部に送電出来るマイクロ波変換装置と送信機の設置も行われた。

当然ながら船外活動によって行われる為、正規の飛行士である船長・副船長の作業となる。

船長・副船長の作業は他にもあった。

3割程多めの発電と言ったが、それは「現時点での計算」である。

まずは基幹コンピューターのバージョンアップが行われる。

最初から性能向上を見越して作った訳ではない。

元々はもう3年も使ったら、次の機体に乗り換える予定だった。

諸種の都合から延長運用となった。

安く宇宙ステーションを作る都合上、専用パーツというのは極力減らされた。

その為、内蔵のコンピューターも、極端な話「ド〇パラやツ〇モ電機でパーツ買って来て組み立てる自作PCのでっかい版」だったのだ。

かなり高性能で、個人が買って来るよりは破格の金額の物が使われているが、それでも専用のコンピューターにするよりは随分と安上がりである。

これは初代宇宙ステーションである、宇宙ステーション輸送機「こうのとり」改造型のコンピューターが、機能追加を行う際に結構見苦しい配線足しとか、外部パーツ取り付けとなった為、その反省で拡張しやすく取り換えやすくしたいという、経験を踏まえての事であったが。

自作PCは3~5年でパーツの経年劣化もあって、買い替えとなる。

「こうのす」も3年程運用しているし、絶えず宇宙放射線に曝されているのだから、そろそろここらで総取り換えに近いバージョンアップをしても良いだろう。


こうしてCPUだのGPUだのコ・プロセッサだのメモリだの、冷却装置だのネットワーク機器だのを取り換える。

電力消費量は増える事になる。

こんな感じで、少しずつ各部の更新を行っていった。

その恩恵はこういう形で現れる。


「通信環境が良くなりましたね」

「通信速度は前より速くなったそうだけど、普通に使っている分には余り気づかない。

 それよりも回線の容量が大きくなったおかげで、私的な使用も許可となった。

 これは大きいですね。

 動画配信サイトに繋いで、2時間の映画を見ていても他に迷惑がかからない。

 地上の通信基地も強化されたみたいだし、大分快適になって嬉しいな」

「タブレットにせよ、PCにせよ、OSのアップデート通知が来た時に上手く他人に迷惑がかからない時間帯にやってましたが、もう気兼ねする事無くなりましたよ」

「まあ、あのアップデート通知はうざい事に変わりないけどね」


宇宙ステーションはソフトウェアの面でもより快適を目指していた。

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