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訓練よりも面倒臭い事

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

前総理の最初の訓練が始まった。

と言っても、まずはオリエンテーションである。

施設の中を案内し、訓練の意義を解説する。


今回前総理は報道陣とか広報を連れて来ていない。

これには理由がある。

「まだ私が宇宙に行くかもしれない事は公表していない。

 もしも飛行士の適性無しとして落選した際、公表していたら大恥になってしまう。

 だから目途が立ち、後戻り出来なくなってから公表する。

 報道陣には一切知らせていないし、情報が漏れないようにしている」

こういう事だ。

(え? 落選させて良いの?)

秋山は一瞬そういう表情になったのだろう。

上長が視線でその考えを否定する。

本人は「落選するかも」と思っているが、周囲は落選をさせないように気を配る。

こういうのを忖度というのだろう。

(まあ、前米大統領も宇宙に行けないなら揃って落選もアリだが、

 米国(あっち)日本(こっち)以上に強引そうだし、まず行くだろう。

 その時に日本はダメってのいうのは、色んな方面に迷惑かけそうだし)

そう(おもんばか)る。


訓練開始と言っても、政治家は忙しい。

他の訓練者同様に、短くても1ヶ月の連続合宿を行えるわけではない。

通いとなる。

しかも、自動車学校同様に来られる日と空いている日の調整となる。

大概の日は空けねばならないが、JAXAは有人宇宙飛行部門だけで動いているのではない。

むしろ有人宇宙飛行部門の方がおまけ扱い、メインは技術研究、学術研究の方なのだ。

無理な日は存在している。

そして、運転免許取得までの期間が自動車学校では1年間のように、この訓練もタイムリミットが存在する。

アメリカが前大統領を打ち上げるまでに、日本側も訓練を終わらせなければならない。

その時までには、最低限の訓練カリキュラムを終わらせる必要がある。

故に、前総理の秘書とJAXA側で、綿密に訓練の日程調整をしなければならないのだ。


更に前総理というVIPに、肉体的な負担をかける訓練を施す為、中々面倒な事にもなっている。

「この訓練にはどのような意味があるのか?

 この訓練を課す事で、死に至る危険性は無いのか?

 死に至らずとも、この訓練で何らかの後遺症を残す事は無いのか?

 この訓練よりも安全で効率的な代替は無いのか?」

このような事を、警視庁警備部警護課から聞かれる。

既に前総理及び現総理は認識している事なのだが、総理大臣経験者の安全確保が目的のSPを管轄する部門も知っておかねばならず、改めて説明する事になってしまった。

また、

「訓練場所の情報を提出して貰う。

 これは警護の為であり、どうしても知っておく必要がある」

とも言われ、前総理の訓練に先立って訓練場所を案内しなければならなかった。

更に、

「職員の身元を調べる必要がある。

 家族構成まで含めて提出するように」

とも言われた。

これは警視庁警備部だけでなく、公安調査庁からも提出を求められた。

身内に危険思想を持つ者が居ないか、予め知っておく必要があるという訳だ。

「個人情報保護の観点が……」

と文句を言いたかったが、前総理の警護という理由なので何も言えない。

(まあこれくらい、相手にとっては嫌がらせか?と思わせるくらい徹底してくれないと困るんだけどね)

この件に関しては、相手の事情もよく理解出来る秋山である。

有人宇宙飛行も、最早潰しに掛かっているんじゃないかってくらいに、計画の穴を見つけてはダメ出しし、修正に次ぐ修正を行っているのだ。

安全確認というものは、徹底し過ぎて悪い事など何も無い。

むしろ僅かな隙でもあれば、あの時何故見つけられなかったのかと悔やむものである。


理解はするが、面倒臭いか面倒臭くないかと言ったら、面倒臭いに決まっているが……。


久々に書類、主に計画書、報告書、調査書の作成で職員がこき使われる日々が始まる。

訓練施設の出入り業者にまで調べは及ぶ。

「警察? 公安? そっちでも調べているのに、なんでうちにまで提出を求めるんですか?」

「お役所とはそういうものだ」

「機密情報保持の誓約書に、各セクションの責任者の署名、何か起こった時の連絡網の提出……、いくら提出しなければならないんですか?」

「それは内部用に作ったのあるから、一から作らなくても良いでしょ!

 内部でも機密保持とか責任者の選定とかしたんですから。

 それを提出用にフォーマット変えれば良いです。

 面倒だったら、そのまま出しましょう。

 使えたら良いのですから」

「いや、向こうの書式に従わないと再提出食らいますから、ここはしっかり書かないと……」

「お役所仕事ですなあ」

「全くだ……」


なお、まだ愚痴が飛び交っている分だけ、余裕があると言える。

本当に多忙で煮詰まってくると、口数は減るし、辛気臭い顔でのゾーンに入ってしまう。

このゾーンは超集中状態というより、グロッキーなのに変に頭が冴えて、余計な事を考えずに黙々と作業している状態なのである。

徹夜続きでもう限界な筈なのに、妙に作業が進んでしまう時と似る。

やがてそのようになるのであろうか?


日本では愚痴愚痴言いながら役所提出用書類を書いている頃、アメリカでも……

事務用リング式書類ファイル10冊分の各種書類作成が行われていた。

契約社会のアメリカでの書類作成量は日本の比でなかったりする。

アメリカ駐在の職員小野は、書類作成を委託されている弁護士を見て思う

「こいつらがここまで目にクマ作ってるの、初めて見た……」

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