笑ゥ有翼機部門
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
NASAが大統領専用機、JAXAが政府専用機と
「別に普通の宇宙船でも大丈夫だけどさ、諸外国が注視しているのだから、それなりの見栄えが必要でしょ!」
「今回は前職が行くから問題無いかもしれないけど、もしも本当に現職が行くとなった時、指揮・通信機能はしっかりしてないと駄目でしょ」
という正論に押されて、どうにかしなければならないという話を耳にして有翼機部門は勢いづいていた。
「我々にも風が吹いて来たぞ!」
垂直発射のカプセル型宇宙船よりも、水平発射(離陸)型の有翼宇宙船の方が、老人には優しい。
また従来の大統領専用機とか政府専用機の仕様を適用しやすいのは、飛行機型である。
現在のB777-300ERやVC-25程のサイズにはならないにしても、スペースシャトル程のサイズになれば様々な事が出来るようになる。
今すぐは無理だが、将来に備えて開発をしておくべきだ。
「人員打ち上げの隙間、お埋めいたします。
いいえ、お台は8000億円くらいで結構です。
政治家先生の喜ぶお顔が、何よりの報酬です、オーホッホッホッホ」
「……スペースシャトルの開発費(74億5000万ドル)程度をシレっと要求しないで下さい。
そして、実際にはその金額では収まらず、追加予算を必要とするんでしょ?
どこの悪徳営業マンですか」
「それでも、今から始めておかないと、将来に繋がりませんよ。
ねえ、僕と契約して有翼宇宙船を造ろうよ!」
「実用性がちゃんとしていないと、また宇宙開発における混沌を増やすだけになるでしょう。
まあ、実用性は理解しているんですが、それでもスペースシャトル並の開発費は出せません」
「まずはスイッチオンして、宇宙キターと行きましょう!
星からの声に答えにいきましょう!」
「それ、最終的には破滅する方じゃないか?
つーか、宇宙に行くならカプセル型でも十分でしょ」
中々上長も秋山も、すぐに「政府専用機にも使える規模の有翼宇宙船開発」に興味を示さない。
有翼宇宙船はこれから開発したい夢、宇宙開発の未来だが、上長や秋山は「我がままなVIPが宇宙に行く」という現実、近々に差し迫った「今」を相手にしている為、面倒事には関わり合いたくないのだ。
「将来の有翼宇宙船について否定はしない。
だが、君たちはまずは極超音速航空機の開発に専念しようよ」
JAXAでは極超音速飛行が可能なスクラムジェットエンジンの開発試験を行った。
超音速での空気の流れをそのまま利用するこのエンジンは、再使用型宇宙往還機の大気圏内航行用エンジンとしての使用が見込まれている。
決して新しい思考のエンジンではなく、アメリカでは1959年の実験機X-15の頃には研究が始まっていた。
ロシアの極超音速対艦ミサイルにも、このスクラムジェットが使われているとされる。
発表をそのまま信じるならば。
日本も極超音速航空機の開発を行っていて、実用的なエンジンの為の、圧縮燃焼時のデータ取得等を目的としたロケットが打ち上げられ、無事成功したところだ。
そういう基礎的な部分から、じっくり進めれば良い。
それが良い。
技術者たるものは、遠くを見る目も必要だが、まずはじっくりと一歩ずつ物事を進めるべきなのだ。
「そんな事は分かってますけどね。
自分たちは極超音速航空機部門ではちょっと異端者でしてね。
滑空体の研究部門でも、我々はちょっと……」
大気圏再突入、あるいは極超音速での空力を研究する為、ロケットで打ち上げを行い、高高度を滑空飛行して実験する部門は、エンジン部門と共に極超音速航空機開発の双璧である。
だが往還機の胴体を研究するとなると、現在の主流派からはちょっと外れる。
人を乗せて移動するなら、衛星軌道からの帰還程の性能は不要だ。
高高度飛行の為の基礎研究として、衛星軌道からの降下試験を行うし、サンプル回収の為の滑空機もまあ必要性を認めているが、それ以上の「人を乗せて水平発進(離陸)からの、滑空帰還させる」機体の開発は、秋山でなくても「まず目の前の課題を片付け、その後で有用と認められてからね」となるのだ。
それでも、それでも宇宙往還機を志す者たちは、目の前にある現実は「不要論」「予算無し」である為、未来の可能性を主張してしっかり研究・開発をしたいのだ。
彼等は今回は、政府専用機の為の関与を許可されなかった。
だが彼等は諦めてはいない。
彼等……それは複数形。
有翼宇宙船を夢見る者は、日本人だけではないのだ。
「今回は打診だけです。
そちらはどうですか?」
「我々もスペースシャトル復活計画は見事に拒絶されたよ。
そんな事に使える予算は無い、ってね。
だが、ここは声を上げる事に意味がある」
「そうですね。
現実主義者の上の人たちより、更に上、政治家とかVIPとかの耳に入れば良いんですから」
「そう。
彼等が求めれば、そこに需要が産まれる。
例えNASAでやらなくても、いずれ開発されるだろう」
「ククククク……お代官様も中々の悪ですなぁ」
「いやいや、君たち程ではないよ、フフフフ……」
「我々の夢を叶える為には、何とだって手を組みますよ」
「この有翼機の使用目的なんか、テキトーで良いのだ。
ぶっちゃけて言うと、合理的な意義など無くてもかまわない。
目的のためなら手段を選ぶな、君主論の初歩だそうだがそんなことは知らないね。
世の中には手段の為ならば目的を選ばないという様な、どうしようもない連中も確実に存在するのだ。
つまりは、とどのつまりは 我々のような。
我々は有翼宇宙船を作って運用したいのであり、その目的が単なる宇宙ステーションへの往還であれ、VIPの為の宇宙旅行であれ、金持ちの道楽であれ、どうでも良いのだよ」
「ククククク……」
「フハハハハハ……」
有翼宇宙船運用復活の時まで、彼等は如何なる事でもやってのけるだろう。
祝、スクラムジェットの為の試験成功。
データが色々取れたようで。
現実世界とはあえてリンクさせない部分もありますが、これはリンクさせてみました。