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政府専用宇宙船?

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「アメリカでは大統領専用の宇宙船を仕立てる気だそうだね?」

「誤解があります。

 彼等はそれをしない、と決めたそうです」

「だとしても、我々がやる事に意味が……」

「無いです!

 アメリカでもしない事を、我々がする必要ありません!」

前総理と秋山の応酬である。

予算的な問題、必要性からの問題をさておき、まず無理なのだ。

火星までの長期飛行すら想定しているオリオンと、元々が訓練用だから1960年代の宇宙船のバージョンアップ版のジェミニ改では、居住区の容積に差があり過ぎる。

大体、オリオン宇宙船の他に、民間宇宙企業の宇宙船に加え、退役したスペースシャトルを復活なんて選択肢も持っているアメリカに対し、元々が訓練用でアメリカから購入して運用中のジェミニ改しか選択肢が無い日本では、

「宇宙船に乗れるだけで特権階級も良いとこだ。

 これ以上贅沢言うな!」

となる。

宇宙ステーションは後から計画されたものだし、他国の飛行士も受け入れる事を想定して生活空間的には余裕がある設計になっている。

そこまで行けば良いのであり、移動手段に凝る必要はない、いや、そんな余裕もない。

移動手段たる宇宙船は、基本的に使い捨てなのだから、そこに金を掛けても仕方ない。


この辺、高速鉄道に対する考え方にも現れているかもしれない。

日本の自慢たる世界最初の高速鉄道である新幹線。

これに対するライバルからの批判の1つに「内装が貧弱」というのがある。

旅行する際の乗り物としての豪華さが無い。

だが日本人の回答は

「これ、移動手段だよ。

 グリーン車とかあるけど、それ以上はあまり気合い入れなくて良いだろ。

 だって、駅弁食って一眠りしたら、もう目的地なんだから」

であろう。

一方で豪華寝台列車を作ろうと思えば、凄い豪華なものを作れる。

これは「そこに泊る」事が目的で、それに乗ってどこかに移動する事が目的ではないからだろう。

宇宙計画に当てはめるなら、豪華寝台列車が宇宙ステーション「こうのす」で、その出発駅までの移動手段がジェミニ改なのだ。


しかしこれは技術者の視点、利用者の視点である。

政治家マターでは話が変わって来る。

見栄を張るというのも、一定の意味を持つ。

それが宣伝効果だ。

日本の技術力を世界に宣伝したい。

しかし、輸入して宇宙船では、見る人が見れば宣伝しても滑稽なだけだ。

どこぞの国が、他国が開発したロケットに、他国から習った管制をしながら、自国が作った人工衛星を軌道に乗せて「世界何番目の自力での衛星打ち上げだ!」と騒ぐようなものである。

前総理もそれは分かっている。

それを踏まえた上で、何か大きくアピール出来るものは無いだろうか?

そして考えついたのが「政府専用宇宙船」というものだ。

どうにかしてそういうものが欲しい。


前総理は政治家としての力量は中々のものだ。

基本的に自分がしたい事は実現させる。

一方で、技術的にどうしても無理であるならば、それはしっかり理解する。

両方を見た上で落としどころを作る。

さらに彼は、この有人宇宙飛行計画の立案者だ。

細かい部分は丸投げしたものの、計画を考えた者として詳細も把握している。

そこで出した考えが

「汎用の輸送船『のすり』があるけど、あれを政府専用版として利用出来ないか?」

であった。


「のすり」はISSに物資を輸送していた「こうのとり」の与圧室だけを改修したものだ。

「こうのとり」はISSにドッキングして飛行士も入る事が出来る与圧室と、宇宙ステーションの船外実験部に取り付ける器材を運ぶ暴露部、そして輸送機として動かす機械モジュールの3部構成であった。

この与圧室だけを使い、簡単な生命維持装置と機械船機能を持たせ、余りにも狭いジェミニ改とドッキングして乗り移れるようにしたのが「のすり」である。

生活室としても使えるし、物資輸送時の置き場としても利用出来る。

その為、内装は実に殺風景である。

そもそも、前後にドッキングポートを持ち、与圧されているだけの円筒でしかない。

これを「政府要人が利用する空間」として改造しようというのだ。


この案を聞いた秋山は

(気づかれてしまった……)

と残念がった。

改造するとしたら、機能的に余計な事は出来ないジェミニ改ではなく、汎用輸送機「のすり」の方になると、彼等も気づいていた。

だが、やりたくはない。

この輸送機は、地球への帰還能力は無い。

役目を終えたら、大気圏に再突入させて焼却処分する。

それだけの為に内装を設えろというのも無駄に思える。


前総理はこの辺、中々曲者であった。

要は見栄えが良ければそれで良い。

それでいて、昨今の風潮である「ゴミを出さない」「無駄遣いをしない」というのも意識している。

だから

「壁紙で豪華に見せればそれで良い。

 あと、一国の前総理大臣ともあろう者が、寝袋に入ってっていうのは外聞が良くない。

 この前のオリンピックでやったみたいに、ダンボールで作ったベットなんかも良いね。

 布団は持って帰るから。

 あと、やはり持って帰るから多数のモニターで日本の様子が逐一表示されるようにして欲しい。

 政府専用機って扱いな以上、情報が何時でも何処でも手に入り、指示を出せる姿は見せておきたい。

 あとはワインとか日本酒とかが入れられるミニ冷蔵庫と、専用の容器棚もね。

 冷蔵庫は持って帰るけど、他のは見栄えさえ良ければ、燃やして捨てられる安物で良いよ。

 それとねえ……」

と、政治的な見た目と世論に配慮した上での、細々した要求を出して来た。


まあ、言う分には楽である。

しかも言っている事は正論だし。

そういう物を用意する側は中々大変なのだ。

かくして、またも現場の方での奮闘が始まる。

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