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第七次長期隊着任

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

4月から任務に当たっていた第六次長期隊は地球に帰還する。

入れ替わりに第七次長期隊が、日本独自宇宙ステーション「こうのす」にやって来る。

既に述べたように、この第七次隊から滞在期間が半年に延びる。

便宜上、7.1次隊、7.2次隊と呼ぶが、7.1次隊は半年滞在、つまり来年の正月過ぎまで宇宙ステーションで生活する。

7.2次隊は任期三ヶ月で、10月には地球帰還となる。

この7.2次隊と交代する形で第八次隊がやって来る。

これも8.1次隊、8.2次隊と呼ぶなら、8.1次隊が7.2次隊と交代し、10月から来年3月頭までの滞在。

7.1次隊が来年1月に帰還する時は、8.2次隊が来年1月から6月までに任期で打ち上げられる。

七次隊は、先に帰還する7.2次隊を船長が率い、7.1次隊は副船長が率いる。

船長が任期終了で地球帰還後、副船長が今度は「こうのす」の船長となり、次に着任する8.1次隊の指揮官を副船長として宇宙ステーションを運用する。

7.2次隊が帰還したら、8.1次隊で今まで副船長をしていた者が船長となり、8.2次隊の指揮官を副船長とする……と言った具合で宇宙ステーションの責任者が交代するようなシステムとなる。

最初の船長以外は、宇宙ステーションに滞在期間が長い運用責任飛行士が船長繰り上げとなる。


第七次長期隊の前半組、7.1次隊の3人が「こうのす」に来た事で、現在は9人体制となった。

次の料理担当者は半年滞在な為、7.2次隊でやって来る。

従ってノートン料理長はまだあと一週間くらいは宇宙ステーション内の料理・生活担当として滞在する事になっていた。

「前回の17人の時以来の大人数料理だ。

 まあ前回の経験があるからコツは掴んだ」

彼の経験は、これからアメリカの各種宇宙機関にフィードバックされる。

フランス人で、NASAの顧問である初代「こうのす」料理長・ベルティエ氏は、国籍も違うし、基本的には料理人である為、キャリアの全てを宇宙機関に捧げられない。

彼は店を持つ事が最終目標であり、今は既にレストランの副料理長として就職済みである。

NASAとの顧問契約は結んだままで、フランスから様々な意見を述べているが、それ以上の事はさせられない。

欧州全ての宇宙機関ESAも彼と、三代目の料理長であるイタリア人アントーニオ氏から情報を得て、独自の有人宇宙計画に反映させようとしている。

だからこそ、アメリカ人の料理人が実際に宇宙で料理を作った事、そこから得られた情報をNASAだけでなく空軍や民間宇宙企業にも提供し、時には企画から加わらせる事は有益であった。


ノートン料理長の腕は、宇宙に来て相当に上がった。

元々世界各国の料理を作れはする。

足りなかったのは経験だが、それを積み上げていった。

なにせ、パンであっても風味だ歯ごたえだとうるさい日本人である。

万事整った環境でない中、限られた設備や材料でベストを尽くす。

ある意味、潜水艦で長期任務に就いたコックのようなものだが、贅沢を言わないよう訓練されている軍人と違って、より一般人に近いミッションスペシャリストが来ている「こうのす」では、距離の近さも相まって色々と注文を付けられていた。

しかも、唾液が少ないから「しっとり、もっちり」というパンを好む日本人も、時と場合によっては「カリっとした歯ごたえのある」ものとか「下の具がジューシーだから、あまり柔らか過ぎない」ものとかを求める為、ノートン料理長のパン焼き技術は相当に上がった。

日本人がほとんど食べない、要求して来なかったのは、黒パンくらいだった。


到着したばかりの宇宙飛行士は、まだ宇宙に慣れていない。

場合によっては宇宙酔いをしている。

吐き出す程重篤でなくても、ちょっと胃がむかむかしているとかはあったりする。

そこでノートン料理長は、具が少なく、胃に優しい、ちょっと酸っぱいスープを作る。

スープメインである為、パンは小さめに切って、それをカリっと焼き上げた。

食べたいなら食べれば良い。

そうでないなら、スープだけ飲めば良い。

小さめである為、食材を大量消費したものではないし、余ったら誰かに食べて貰っても一日辺りの栄養摂取量を大きく超えたりはしない。


一方、明日には地球帰還の途に着く飛行士たちには、同じスープながら内容を少々変えた。

酸味を強くし、具も多め、かつ固く素材の味が残るものとする。

スープの温度も変えてみる。

来たばかりの飛行士用がぬるめなのに対し、送り出す方の飛行士用は熱めとして、さっさと胃に流し込むのではなく、ちょっとずつ口に含んで、味と香りを楽しめるようにした。


こうしてスープ主体の食事が終わった。

明日はサンドイッチを弁当として持たせて、ジェミニ改を切り離す事になる。

サンドイッチにはうるさいアメリカ人の誇りにかけて、ゴージャスでボリューム満点、かつ日本人も美味いという味のものを作ってやろう。


そんなノートン料理長は食後の運動を、強敵(とも)・白石飛行士と行う。

水耕モジュール担当の白石飛行士は、7.1次隊の飛行士に引き継ぎを済ませると地球へ帰還する。

その白石飛行士とノートン料理長は、宇宙における最後のバトルを行う。

「激流を制するのは静水。

 剛の拳に対し、柔の拳で対するのだ」

そんな事を言いながら、拡張与圧室という他人に迷惑が掛からない場所で組手をしている2人を、新任の七次隊の飛行士たちが不思議そうに見ていた。


「あれは何をしているんですか?」

「いつもの遊びです。

 彼等には良い運動になっているようで」

「いや、それは分かるんですが、何故に合気道?」

「格闘技好きで、アメリカ映画好きな白石君が

『アメリカ人で、こういう施設の料理人と言ったら、やはり合気道の使い手じゃないと!』

 と、なんて言って教えてるんですよ」

ノートン料理長は、料理の腕だけでなく、合気道の腕も上がったようだ。


合気道の組手を嬉々として行うアメリカ人を見て、

「……アメリカでは宇宙船のハイジャックも起こるのか?

 沈黙の宇宙船とかいう事態になったら、料理人が制圧する為に、あの技が使われるのだろうか?」

と思う七次隊の面々であった。

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