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「こうのす」延命計画

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

国際宇宙ステーションISSは、1998年に最初のモジュールが打ち上げられてから、欧州の実験モジュール「コロンバス」及び日本の実験モジュール「きぼう」がドッキングするまでに10年が掛かった。

この間に、モジュール打ち上げで重要な役割を担うスペースシャトルがコロンビア号墜落事故を起こし、2003年から2年半の運用停止をした。

それにしても、一通りの完成までに7年以上を要している。


これに対し日本独自宇宙ステーション「こうのす」は2年経たずに完成を見た。

これには幾つもの要因がある。

まずISSに参画する事で、日本も宇宙ステーションのノウハウを持っていた事が大きい。

1から作り出す事と、人真似をする事では、初動で大きく違って来る。

これはソ連の宇宙ステーションを見て来た中国の「天宮」宇宙ステーションにも言える事だ。

また、「こうのす」にはISSが持っている、背骨とも言えるトラス(基幹構造)が無い。

その意味では「こうのす」はISSの劣化コピーではなく、旧ソ連の「ミール」の発展型と言えよう。

このトラスを打ち上げ、そこに巨大な太陽電池パネルを取り付けたり、ラジエーターを設置したりする手間を省いていた。

ISSではトラスの運搬だけでスペースシャトル10回の打ち上げを必要としたのだから、これが無いのであれば大幅な工期縮小となる。

そして、一番大きいのは元々「こうのす」は2年もすれば運用終了する予定だった事である。

その為、24年に渡って使用されているISSと違って、モジュールの造りが簡素なのだ。

具体的には日本が運用している宇宙ステーション輸送機「こうのとり」及び後継機HTV-X、これは単独でも軌道上に一週間程度は待機出来るし、ある程度の時間は生命維持も可能だ。

これを発展させたものなので、一から開発する手間を省くと同時に、「きぼう」よりも短期間で製作出来た。

最初は「こうのとり」をそのまま簡易宇宙ステーションに改装した「こうのとり改」を運用、次に「こうのとり」ベースのモジュールを複数組み合わせた「こうのす」を運用、それが終わったら「こうのす」をベースにした3号ステーションに切り替える予定であった。

この3号ステーションは、コアモジュールを強化し、使用出来るモジュールは「こうのす」から取り外して移すという、節約仕様だったのだが、状況が大きく変わった事で3号ステーションの計画は無期限延期、ぶっちゃけて言うと中止になってしまった。

世界規模での流行病とか、戦争とか、経済の悪化等で「部品も材料も、工期も工員も確保出来ない」状態になったからである。

それに「こうのす」は思った以上に性能が良かった。

そうなると「わざわざ運用終了にして、次世代機に切り替える必要も無い」と内外から意見が出た為、「こうのす」は延命運用する運びとなった。


「先日までの最大人数での利用結果はこうなりました」

長期滞在隊6人と、短期滞在隊11人での一週間の滞在で、どれだけ負荷が掛かったのかを地上スタッフが纏めている。

数値は予測通り。

許容範囲内ではあるが、二酸化炭素吸着効率が6日目から低下を始める。

許容範囲内ではあるが、室温が日を追うごとに上昇する。

これらの数値は、運用開始から2年が経とうとしている為、性能低下するであろう予測値とほぼほぼ一致した。


「2年目でこれくらいの低下率か。

 やはり5年と運用するつもりが無かった宇宙ステーションだけあって、それなりのものですな」

計画の責任者である秋山が、得られた結果について、そう総括する。

「こうのす」を当初の計画通り、3~4ヶ月滞在の長期隊6人と短期滞在隊3人で運用し続けるなら、5年経っても問題は無いだろう。

そのまま使用し続けても良い。

しかし、長期滞在を半年から10ヶ月程度に延長し、一方で回転率の低下を補う為、短期滞在隊の人数を増やし、回数も増やすとなると、設計以上の負荷が掛かり続ける事になる。


「予定通り、延命措置を行います」

そう、別に泥縄で「こうのす」の延命を決めたのではなく、運用が変わる以前から、少なくとも「こうのす」の実験方針が「可能な限り宇宙で快適な生活を」に変わった辺りで、軌道の再押上げ(再加速)、生命維持装置のリフレッシュ、発電能力の強化、酸素・水タンクの増強を行う方針を策定していた。

故に、今回の短期滞在でのデータ収集は「やはりそうなるか」という確認作業であり、期待値が取れただけでも収穫である。

あとは方法論だ。


「まず、追加ドッキングコネクタを、コア1とコア2の間に挟む。

 これを何時打ち上げるか、ですね」

追加ドッキングコネクタは、2基のドッキングポートを持つリング状の構造体だ。

上下に1基ずつモジュールを接続出来て、左右には追加の太陽電池パネルが展開される。

空きが無い「こうのす」のモジュール追加を可能とし、重心をそれ程変えず、発電量を増大させられるものだが、問題は現在直結されているコア1とコア2の間に挟み込む事だ。

端に追加するのと違い、中間に挟み込むのは中々難しい。

これをどのタイミングで、誰にさせるかが問題となる。

また、現在水処理モジュールにはコア1とコア2両方から配管が繋がっている。

間に2メートル程のリングが挟まる事で、コア2からの配管は再工事が必要となる。

そして結構重要なのが、失敗した場合の行動である。


これらの事を今決めて、明日する訳ではない。

実行するのは半年後以降だろうし、早まったとしても3ヶ月は後になるだろう。

だが、組織改編はほぼ決定事項だ。

だから今の体制で、決められる事は決めておきたい。

引き継いだ者が苦労しないように、初期メンバーでやれる事はやっておき、マニュアルも完備させておく。

数ヶ月以上後を見越しての秋山たちの議論はこれからである。

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