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「こうのす」の限界調査

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

今回11人もの短期滞在隊を受け入れたのは、単に前総理の国際公約の為だけではない。

「こうのす」の限界滞在人数での負荷を調べる意味もあった。


「こうのす」には生命維持装置がコア1とコア2の2ヶ所に設置されている。

更に独立系の水処理モジュールや、各モジュールにもある程度単独で動く空気循環機能があったりするが、基本的にはコアモジュール1基につき8人、計16人が処理能力の設計上最大値である。

アメリカ式設計から、若干機能に余裕を持たせているが、それでも17人で上限となっていた。

それ以上を滞在させるとなると、各モジュールの機能をフル稼働させ、更にドッキングしている有人宇宙船も起動させなけばならない。

そうすれば20人くらいはごく短期的に滞在させられるが、こうなると電力がもたない。

ISSよりも少ない太陽光発電パネルなのに、有り余る電力を使えていたのは、日本ならではの省電力機能が効いていたからで、生命維持の為にフル稼働させれば流石に電力不足となってしまう。


現在、持続的に維持可能な装置の稼働状況で、長期隊6人と短期滞在隊11人を生活させ、どれだけ酸素や水の消耗が計算と食い違うかを検証していた。

いつかはやってみたかった、最大負荷での耐久テストってやつだ。

「こうのす」の運用専任である船長、副船長と地上でモニターするスタッフは、この一週間は数値の異常に敏感でなければならない。

17人に増えた事で、負荷は料理主任にもかかるのだが、その話は後にしよう。

今は17人に増えた事の問題を語ろう。


コア1には個室が4室、コア2にも4室、新型居住モジュールには6室ある。

計14室であり、17人に対して3部屋足りない。

そこで、船長と副船長は現在の個室を明け渡して、帰還用のジェミニ改を寝場所にする事とした。

船長・副船長は交代で通称「艦長席」に座って宇宙ステーションの管理・運用を行う。

それぞれ8時間担当し、交代で任務に当たる。

他のミッションスペシャリストも当直になるが、船長・副船長よりも負荷は軽くなるよう調整されていた。

つまり、船長・副船長の担当でない8時間を残り4人が分担する為、1日4時間で交代、当直は2日に1回となる。

そういうスケジュールではあるが、空き時間にトレーニングをしたり、別な任務を担当したりする為、船長と副船長が両方とも睡眠している事は無い。

狭いジェミニ改を寝室代わりに使うが、交代で1人ずつ使用だから、思ったよりは窮屈ではなかった。

同様に、今回多国籍部隊を連れて来たアメリカ人の有人宇宙船船長も、個室は辞退して乗って来た民間宇宙船に居住する。

これで長期隊のミッションスペシャリストと、短期隊のお客さん計14人の個室は確保出来た。


しかし、居住性と快適さに全振りした新型居住モジュール「アネックス」と、他にもトイレだの浴室だの食堂だのトレーニングルームだの、太陽嵐の際の避難場所だのも用意しているコア1、コア2の個室では、条件が違い過ぎていた。

コアモジュールの個室は、良く言って日焼けサロンのボックス、悪く言えば棺桶のようなものだ。

ここで

「偉大なる自分が、狭い上に人の出入りが頻繁な方に寝されられるのは許せない。

 当然良い方の個室を割り当てるべきである!」

等と言うような者は、宇宙に来させていない。

(某国からそういう人が自薦して来たが、秋山が冷然と書類審査で落選させた)

むしろ

「自分は使わせて貰う立場なので、狭い方で良いですよ」

「いやいや、国に金も無い自分の方が自重します」

「そんな、貴殿はあの豪華な方に」

「そこは貴国の方に」

と遠慮し合っているのだ。

「じゃあ、私が行きますね」

「どうぞ、どうぞどうぞ!」

と、どこかのお笑いトリオのようなノリにならず、むしろ船長たちが部屋割りをしなければならない程だった。


続いて船外活動。

……具体的に何か作業する訳ではないので、記念の宇宙遊泳と言って良い。

既にロストテクノロジー化している本格的な宇宙服ではない、30分が限度の簡易宇宙服を多数用意してはいるが、

「いつ、誰が宇宙遊泳のインストラクターとして付き合うか」

のスケジュール調整が面倒であった。

多少の訓練をしたとはいえ、素人飛行士を1人で宇宙に放り出すわけにはいかない。

ミッションスペシャリストではない3人の飛行士が、交代で面倒を見る事になる。


また、折角来た宇宙ステーションから、母国に向けての放送も日程調整が必要だ。

これとて1人で喋らせれば良いものではない。

テレビ局同様、カメラの操作とか回線の確保とか、宇宙ステーション内の機械操作をする人間が必要となる。


「これ、宇宙ステーションという機械の限界負荷テストよりも、

 我々のような、ある意味『受入役(ホスト)』の限界負荷テストになってませんかね?」

副船長がボヤくのも無理はない。

長期滞在隊の4人のミッションスペシャリスト(及び調理主任)にしても、交代で色々と任務をさせる事は可能だが、責任者には据えられない。

10人の客人はほぼ素人だ。

そんな素人でも宇宙に行けるというのを、どうも政治家先生たちが隠しテーマにしているのだが、

「素人が増えれば増える程、世話焼き係の負荷は増大していく。

 だから、素人を増やすなら、玄人の宇宙飛行士も増やすべきだ!

 これでは過重労働だ。

 こんな労働を許してはならない!

 万国の飛行士たちよ、団結せよ!」

と副船長が共産党宣言のような事を言い出すくらいに、彼等は精神的に疲れて来たようであった。

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