第六次隊最後の短期滞在隊受け入れ
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日本独自宇宙ステーション「こうのす」の運用は変更が決まっている。
今までは長期滞在と言っても3~4ヶ月であった。
これが半年から最大10ヶ月と、ISS同様のものに変更となる。
これによって宇宙飛行士の回転率が悪くなる為、短期滞在隊の受け入れ回数を増やす事とする。
日本の有人宇宙飛行計画のそもそもは「貿易黒字云々」だが、それではない理由に
「宇宙飛行士の訓練を行う」
があった。
この目的の為にジェミニ2を大量購入している。
この目的は果たされなければならない。
いくら「宇宙で長期滞在するにあたり、可能な限り快適な生活を」が研究テーマとしてメインとなり、それはアメリカ主体の月恒久基地建設や、火星有人探査へフィードバックされるものであっても、日本の宇宙飛行士育成を阻害してはならない。
また、ISSの寿命も近づいている事もあり、観光旅行で来る者の受け入れも「こうのす」が本格的に引き受ける。
次世代の国際宇宙ステーションも、建造までに数年は掛かる。
国際宇宙ステーションでは科学実験を主に行う為、建造途中のまだモジュールが揃っていない状態で、観光客を受け入れる余裕は無い。
そこで「こうのす」を有効活用する事になった。
このように短期滞在のクルーが増え、かつ基本クルーは半年以上の滞在となると、酸素や水の消費及び循環に支障が出る。
頻繁に補給を受ければ問題は無いが、「こうのす」の長期滞在には「なるべく無補給で、船内で自給自足を行う」というテーマもある為、輸送機を多く飛ばす事はしない。
結果、短期滞在を現状の1~2週間というものから、1週間未満に短縮し、船内の物資消費を抑える事とした。
次回からの短期滞在は、この方針に則った「滞在数日の宇宙飛行士訓練生」もしくは「滞在用の物資を持参して1週間程度滞在する観光客」となるだろう。
そこで今回の短期滞在隊である。
この有人宇宙飛行計画は、前総理大臣の発案で、政治主導で行われていた。
その為、短期滞在で宇宙に送られる飛行士の選抜にも、政治的な思惑が含まれて「いた」。
過去形で書いたのは、現総理にそのような意図は無いからである。
政治的な思惑、それは「宇宙開発における途上国の研究者を多数招待し、日本の施設を使用させる事で外交ポイントを稼ぐ」事であった。
例の世界的伝染病の流行で、来日が延期となったりして最初の数回しか実現していない。
運用の変更によって、そういう招待客の宇宙行きも減るだろう。
なので、滑り込みで以前声を掛けた国の人間を、可能な分宇宙ステーション滞在させる事となった。
この件は、前総理が現総理に頼み込んでいる。
現総理は無駄を省くタイプの政治家だが、一方で継続案件については無理に中止をさせて恨みを残すやり方もしない。
規定の計画は全部遂行させて、その後新規の計画は行わない、ミッションを「終了させる」やり方を採る。
この為、アメリカの民間宇宙船をチャーターしての短期滞在は、過去最大人数となった。
今回の短期滞在隊は、全員で11人にもなる。
日本の肝煎りで、アフリカ諸国から2人、東南アジア諸国から2人、南米から2人、東アジアから3人、そして太平洋の島国から1人が選抜された。
かなり政治的な人選である。
船長としてアメリカ人が任命された。
船長がアメリカ人、かつ打ち上げ宇宙船がアメリカ製、そして訓練もアメリカ国内であり、そうなると反米国の人間は除かれる。
ここにも政治的思惑があった。
この打ち上げに先立ち、日本から輸送機が打ち上げられる。
有人宇宙船の方は、予備席まで作って人員の輸送を行う。
その為、小型衛星とか本来の補給物資を積み込む余裕が無い。
第七次隊、これ以降が半年滞在となるが、その隊用の物資も込みで輸送船がドッキングする。
ロボットアームで把持し、多目的ドッキングモジュールの専用ポートに接続される。
そして、必要物資を船内に取り込み、不要物資を輸送船に詰め込む。
ドッキングポートはそう多くない。
輸送機に1ポートを占有させておく余裕は無い為、用事が済んだらすぐに切り離す。
その時も、打ち上げられる有人宇宙船と衝突しないよう、コースを決めて投下する。
もう数日後には短期滞在隊がやって来る為、スケジュールはタイトであった。
「以前、多国籍の短期滞在隊を受け入れた時は、食事の問題が大変だったと聞いています。
今回はどうなります?」
船長の質問に地上スタッフは
『問題有りません。
全員パン食で十分です。
それも、ライ麦パンとか特殊なのは必要ない。
日本人好みの柔らかいパンではないが、普通に海外で食べられているパンで良いです』
この言葉に、ノートン料理長はガッツポーズをしていた。
普段の日本人は、パンが会心の出来であっても
「ちょっと硬いね」
「もうちょっと、フワフワ、モチモチした方が好み。
まあこれも食べるけど」
「日本人の好みはしっとりした感じかな」
「なんというか、女の子の二の腕のような柔らかさが好み」
と食感にうるさい。
Fuwa-FuwaとかMotti-Mottiとか、Shit-lyとかサッパリ分からん!
だが、今度のゲストなら彼のパンを正当に評価してくれるだろう。
彼はパンを焼きながら、短期滞在隊到着を待つのであった。
おまけ:
女の子の二の腕云々は、とあるアイドルの二の腕が
「五枚切りの食パンを2枚重ねて、その真ん中をつまんだ感じ」
と評されていたので、そこからヒントを得ました。




