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他の淡水生物

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「もっとスカンピ(テナガエビ)が大きかったらなあ……」

宇宙ステーション「こうのす」で厨房を預かるノートン料理長は、実は結構難しい仕事を任されている。

養殖というのは時間がかかる。

それで以前に水棲生物を入れてセットアップした水系モジュールの生物たちが、そろそろ食べごろになったり、数が増えてしまったりで「手入れ」しなければならなくなった。

これまでの第一次から第五次までの料理担当は、基本的にステーション内で収穫された野菜を相手にしていれば良かった。

しかし、今次からは水系モジュールからのものも使用する事になる。


水草(シーウィード)は我々はほとんど食べないんだよなあ」

和食や韓国料理の影響で、ワカメはアメリカでも認知されつつある。

ワカメスープやワカメサラダなんかが知られた。

しかし、ジュンサイ、クワイなんてのはよく分からない。

レンコンは中華料理の食材として理解していた。

ジュンサイもクワイも中華料理の食材ではあるが、知っているのと使いこなせるかは別物。

完全に処理終了した清水に近い真水でワサビも栽培している。

これは知っているが、やはり使いこなせるかは別。

他にセリやミツバといった食用の水生植物も生えているのだが……。


そして貝。

汚水を処理する藻類、これが大量発生し過ぎると所謂「赤潮」になってしまう。

この藻類を増やし過ぎない為に貝類が放されていた。


貝には二枚貝と巻貝がいる。

巻貝にはサザエとかツブ貝、バイ貝なんかが地球上には存在していて、食用にされているが、残念ながら「こうのす」にはいない。

海水環境を維持出来ない事と、サイズ的な問題だ。

そう大きくない水槽である為、小型の汽水から淡水域の貝の方が実験用には合うと考えられた。

そういう貝は食用に適さない為、水槽の掃除役として飼われている。

タニシは食用に出来るが、最近では日本人も「タニシのぬた(酢味噌和え)」なんて食べない。

(某時代小説の、盗賊の親分改め火盗改方密偵の好物だったりするが、最近じゃ迷惑なジャンボタニシじゃない方のタニシの姿を見かけなくなった)


食用になるのは二枚貝の方である。

「こうのす」には複数種の二枚貝が持ち込まれて育てられている。

その中で、シジミ貝は放卵が確認された。

しかし、無重力環境で正常に胚の分裂が起こるかはまだ分からない。

更に稚貝から食用になるまでの成長時間は大体4年。

寿命は10年程度で、8年くらいまでは成長を続ける。

だからまだ、水系モジュールの立ち上げ以降に生まれ、稚貝となったシジミはまだ食用になるまでに成長していない。

アサリやハマグリも同様である。

これらの二枚貝の完全養殖は、まだまだ研究段階である。

では「こうのす」の二枚貝たちは何年も待たないと食べられないのか?

そうではない。

ジェミニ2打ち上げ時に、既にある程度成長した稚貝を持って来て、それを疑似ビオトープに放流していた。

無重力環境では、稚貝の孵化確率がどうなるか疑問であるし、1年ものの成長するか疑問な稚貝に大量の藻類の除去も任せられない。

故に、途中で死ぬ事も考慮した上で稚貝を持ち込み、ある程度成長したらそれを食し、また新しい稚貝を持ち込むようなやり方をしている。

ノートン料理長が一番期待しているのが、汽水で育つ牡蠣であった。

牡蠣ならば、西洋の料理人は色々な料理を知っているからだ。

生牡蠣は、タイ料理のエビの踊り食いが忌避されたのと同じ理由で避けられるだろう。

ノロウィルスは持ち込んでいない筈だが、用心するに越したことはない。

生でなくても、油を使わずとも(まあ、カキフライというのは日本独自の洋食だが)、スープにしたり燻製にしたりグラタンにしたり、蒸したり焼いたりして火を通してからソースと絡めたり、カクテルとしたり。

フレンチでもケイジャン料理でも中華料理でもいける。

品種的に美味いかどうかはともかく、食用ならいくらでも応用が効く。

生牡蠣でない限り、品種的なものはそれ程差が出ないのもありがたい。


そんなアメリカ人の料理人とは違い、日本人の方は更なる水系モジュール活用を考えていた。

「ワサビの目途が立ったというのは大きい。

 土壌農耕モジュールの方ではネギを植えている。

 水系モジュールの方でカツオを飼えれば……」

「無理だ。

 あんな高速回遊魚を飼えると思いますか?」

「カツオ節を作れ、あとは蕎麦を植えれば、必要なもの全部揃う!」

「蕎麦を打つ人が居ないと、食材だけあっても無意味ですな。

 でも、蕎麦を植えるのは良い選択肢かも。

 水系モジュールはあくまでも実験型だから、本格的な湿地系モジュール、土壌農耕でも水耕でも無い第三の食糧生産モジュールを計画するなら、もちろん米を作らないと!

 銀シャリですぞ、皆の衆!

 その(あぜ)に雑穀を植えると、穀物が複数種類生産出来る。

 雑穀の中には蕎麦もアリですな」

「おお、夢が拡がりますな!」

「問題は、蕎麦粉という微細な粉塵をどう生成するか、ですな」

「あれは重力下でもかなり飛び散りますよね」

「湿地型の食糧生産は、ドーナツ型宇宙コロニーの様に遠心力で疑似重力を作ってやった方がいいですな。

 その本体からは離れた場所で、疑似重力が働いているなら、水車を使った石臼を回す事でも蕎麦粉挽きも、その飛び散る粉塵の影響を抑え込めますね」

「うん、夢が膨らみますね、いつの事になるか分からないけど」

「…………」

「どうしました?」

「そこまでして蕎麦を食べたいとは思わないもので。

 どちらかと言ったら、うどんの方を……」


食に関しては、とことんまで自分が食べたい物を原料の段階から追求したい日本人たちであった。

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