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次回、男性アイドルがいよいよ宇宙へ(つまりまた引っ張る)

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

秋山は自分の顔を写真や映像で見るのが好きではない。

逆ナルシストというか、何と言うか……。

鏡に映った自分は気にならないし、自分の声も普段は特に嫌だと思わない。

だが鏡像でない、他人の目に映る自分を媒体で見ると違和感を感じるし、内耳からでない自分の音声は

(自分はこんな変な声だったのか?)

と嫌になってしまう。

この日の放送で、訓練を課して来た何局かのテレビ番組に対し

「選抜の結果を発表します」

と言っている姿が映し出され、何とも恥ずかしく感じていた。

だが彼は自分だけの問題で終わるからマシな方である。

この放送をきっかけに、親族から吊し上げを食らうのは、在米スタッフの小野なのだ。


この当選発表を映した後、東京キー局の番組はシーンがアメリカに移る。

相変わらず、しっかりした訓練の様子はダイジェストで流されていた。

「淡々とこなす様子は、今風の言い方をすれば映えないんでしょうね」

若手のスタッフがそう言った。

もう片方の番組は、逆に変わり映えのしない、ホテルの室内で15分、移動の車内で15分とかを放送しているのだから、色々と違うものである。


JAXA施設内での様子や、野外訓練の情報は秋山たちはよく知っていた。

アメリカでの模様は、彼等にしても初めて目にする。

調整的なものではあるが。


秋山のようなオッサン(といってもプロジェクトリーダーとしては適齢か若手な方)より、大学院を出て数年の小野のような若者の方が、テレビ的にも映えるのだろう。

アラフィーのアイドルではなく、ブレイクするならこれからの若手アイドルが、同年代という事でよく話しかけている。

小野は少々コミュ障気味で、そういう芸能人の馴れ馴れしさに対し内心

(面倒臭い! うざったい!)

そう感じていた。

そう感じつつも、本物のコミュ障ならばJAXAにも入所できなければ、アメリカでの仕事も出来ない。

表情は多少強張りながらも、冗談には愛想笑いをしていた。

それを見て、アラフィーのオッサンアイドルの方がダジャレを連発し出す。

この人、オヤジギャグと上手いジョークを行ったり来たりする上に、成功したら畳み掛けて来るから中々対処が難しい。

秋山のように、割と偉い立場の人には遠慮をしていたが、若い小野に対しては本領発揮している。


アメリカでは、流石は東京のテレビ局!という事をやっていた。

博物館に展示している最初期の宇宙船マーキュリーカプセルの実物、その中に当時の実際の宇宙服を着た上で入れて貰ったり、あの強力な加速度がかかる「ブンブン振り回す」タイプの訓練機を見学したりしていた。

番組でも時々作る、こういう実験ではアイドルの身代わりとなる人形「リーダー君」に計測器が付けられ、人間だったら失神ものの加速まで体験させられていた。


そしてチャーターした民間宇宙船の発射場に移動。

打ち上げ24時間前からは宿舎で外との隔離に入る。

その前に

「よし、野球やろうや!」

となった事に、JAXA一同首を傾げてしまった。

そしてナレーションにて

「既に知っているように、今回の宇宙行きはとある有名番組も同行となる」

と説明され、そのメンバーも入れての野球チームが編成された。

そしてアメリカチーム……。

「ちょっと待て!

 君らそんなノリノリな連中だったか?」

JAXA一同からすれば、アメリカの宇宙部門の人間は堅物で

「100%の準備では足りない、1000%の準備をしろ!」

「万が一というものは有り得ない。

 全てはシミュレーションで何度も経験済みとしていろ」

「宇宙飛行士の生命は、地上スタッフの手に握られている。

 宇宙飛行士は何もしなくても無事に地球に戻れるようにする必要がある。

 宇宙飛行士が自ら操縦して危機を乗り越えるのは、地上スタッフと恥と思え!」

と言うような人間だった。

まさか出発前々日に草野球(サンデーリーグ)をするとは想像出来なかった。


もっとも、アメリカに長期放牧されている小野に言わせれば

「オンとオフの切り替えさえ出来れば、直前までリラックスする方が好ましいと考えているぞ」

「切り替えも出来ないのは二流の人材だ」

といった感じになる。


流石に草野球(サンデーリーグ)とはいえ、怪我阻止の為に硬球ではなく、柔らかい部類のテニスボールを使い、オーバースロー禁止、スライディングは禁止、フェアゾーンに落ちたらシングルヒットで、ツーベースやスリーベースを狙った全力走行は禁止という特別ルールとされた。

全力で走ったり、思いっきり投げたり、場合によってはフルスイングですら肉離れというリスクがあるので、野球の名を借りた「バッティングと双六のようなもの」でゲームしている。

なお日本の軟式野球用のボールは、アメリカには存在していないようだ。

こうして3イニングスだけの変則野球は、特にどっちが勝ったとか無く終了する。

コミュ障気味ながら、やるとなったら全力を出してしまう悲しい性格の小野が、彼だけは怪我しても全然問題無い気楽さもあって、ファインプレーを連発する。

そして若手アイドルから

「小野さん、スゲーっすわ」

と言われハグされたり、肩を組まれたりしていた。

その時の小野の表情も仏頂面で、塩対応な様子が全国放送されたのである。




この放送後、アメリカに居て放送を見ていない小野のスマホに、時差を全く考えていない日本の女性(全員親戚)から電話なりメッセージなりが相次いだのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか人生の教訓じみてんなぁ〜。小野くん可哀想に…
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