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日米共通で好きなものといえば

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「最近、ジャパンにはベースボールの優秀な投手が出て来ますね」

ノートン料理長が食事時に語る。

彼はニューヨークのアメリカ料理研究所(CIA)を出ているが、生まれはデトロイトで、そこの球団のファンである。

「……その話をしたいから、今日のメニューがホットドッグなんですか?

 まあ、美味いから文句無いですけど」

「イエース。

 デトロイトのコニードッグって言いマース。

 無重力でこぼしたりしないよう、私がアレンジしました」

「球場でもこういうの売ってるんですか?」

「そうですね。

 屋台(ストール)で売ってますが、スタジアムで食べるとベリーグッドです。

 父親(ファーザー)はビールも買って飲んでいました」

「ですよねー!

 球場で飲むビールは美味しい」

先日ノートン料理長と決闘(と言えるのか?)をした白石飛行士が応じる。

「僕は神宮と横浜(ハマスタ)はたまに行ってますんで」

「白石さんは横浜の大学卒で、東京の会社ですよね。

 てことは、やはり……」

「違いますよ!

 僕はタイガースのファンです!」

そう、神宮球場でホームのファンより数多く集まる事もある関西老舗球団のファンであった。

だが「タイガース」という名にノートン料理長が反応する。

「タイガースは素晴らしい!」

「タイガース最高!」

「弱いけど、それでも最高!」

「うちのタイガースは強いよ、春先はね。

 今年はさて、どうなるかな?」

(タイガースって言っても、日米で違うだろ!)

周囲の内心のツッコミを他所に、野球談議というか、推し球団の話で盛り上がる2人。


「早く、デトロイトもジャパンの良いピッチャーを獲得して欲しいデス。

 完全試合したピッチャーとか良いですけど、多分ニューヨークとかロサンゼルスとかが取るでしょう。

 手頃な良い選手いませんか?」

「そんな投手、うちが欲しいよ……」

「そちらのタイガースから、メジャーに来たピッチャーはいますか?」

「……まあ、いるにはいるよ……」

日本時代は実に素晴らしい投手だったが、渡米後は全員合わせても(以下略)。


周囲はまた変な事でもめないかハラハラして見ている。

だが今回は特にもめる事は無かった。

代わりに投球問答が始まる。

「速球は凄いバックスピンが掛かっているから、浮いて来るように見えるって言いますよね」

「ホップするとか聞きマスね」

「無重力だとどうなるんだろ?

 やってみない?」

「実験してみましょうか」

「待て!

 まさかこの精密機械の中で、野球のボールを投げるとか言いませんよね?」

ストップをかける船長に対し

「ピンポン球でやりますよ」

「流石にベースボールのボールは持って来ていまセーン」

そう返していたが、ノートン料理長の持ち物の中にはアメリカンフットボールのボールも有った為、船長が不安に思ったのは仕方が無いだろう。


食後、2人同時に休憩になっている時間に、ピンポン球でキャッチボールをし始めた。

「じゃあ、ストレートを」

「????」

「ああ、そうか。

 ファーストボールを投げてみて」

「フォーシームで良いデスか?」

微妙に単語で食い違いがある。

「うわ!

 浮いて来た!」

重力が無い為、バックスピンによるマグナス効果で逆に「上に曲がる」変化球となっていた。

「次、ツーシームかな?」

「……このピンポン球に縫い目(シーム)は有りマセン」

じゃあフォーシームと言うなよ、とギャラリーが思ったのは言うまでもない。

「カーブ」

これは大体予想通りの軌道であった。

大体なのは、地球に比べて重力が無い分縦よりも横方向への変化の方が大きかったからだが、その違いはよく分からない。

「スライダー」

これは落ちずに、見事に横滑りしていく。

「シュート」

「それ、何ですか?」

説明をする白石飛行士。

「オー! それはツーシームですね」

(さっき、縫い目(シーム)無いって言ってただろ!)

要は利き腕の方に曲がる回転を持つ変化球である。

アメリカではツーシーム、シンカー、スクリューボールと呼ばれる。

これも予想通り、横滑りする変化を見せた。


「さて、フォークボールを」

「スプリッターですネ」

(どっちでもいいわ!)

だが、どちらでも良いわけではなかった。

ノートン料理長が投じたのは、ボールを挟んで投げるが、それなりに回転があるスプリット・フィンガード・ファーストボールである。

重力が無いから落ちず、むしろ上に曲がるストレートよりも、普通にストレートの軌道で飛んで来る。

その投げ方に不満を持った白石飛行士が

「これは、唯一投げられる変化球なんだよね」

と言いながら、ボールを挟んだ後で無回転で「抜く」投球のフォークボールを投じる。

「オー!

 それ、ナックルです」

「ナックルじゃないよ。

 フォークボールだってば」

「ムーブしながら飛んで来ましたよ」

(まあ無回転ならそうなるだろうなあ)

指で弾いて投げようが、回転を掛けないように指の間から抜く投球をしようが、同じような挙動をするだろう。

フォークボールの投球動作の方が、ナックルよりは速い球を投げられるようだが。


そんなこんなで、宇宙での変化球実験は終わった。

実験というか遊びである。

だが一応、報告書(レポート)にして地上に送ってみた。

するとNASAから思いもかけない返信が来る。


「ジャイロボールの軌道について確認せよ」


「投げられん」

「えーと、フットボールのように、スパイラルで投げる……。

 あ、ちょっと出来ない……」


新種の魔球の研究は、まだ進まないようだった。

おまけ:ジャイロボールは実は存在しないという話もありますね。

ジャイロ回転の投球はあっても、ジャイロボールという剛速球も変化球も無いとか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無重力状態なんだから、宙に浮かせて回転してる球を軸方向から叩けばいい
[一言] 今度から募集要項のひとつに、ジャイロボールを投げられるかどうかが加わったりするんだろうか…
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