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テレビ局は転んでもただでは起きない

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

先日宇宙に行ったのは、東京キー局の番組と北海道のローカル番組の2組である。

しかし選考の訓練を受けていたのは、もっと多数であった。

それらの局も、訓練過程とかは収録していた。

実際に宇宙に行った2番組が放送されるまで、紳士協定でその模様を先行放送はしない事にしていたようだ。

そして2番組とも無事に初回放送がされた為、他局も自分たちのスタッフが挑戦した事を放送し出す。


宇宙に行ったのは2番組ともバラエティー番組であった。

そして落選した方に報道や科学番組がある。

こちらは自然と、タレント起用をせずに局内の人員でどうにかしようとした。

普通はこちらの方が正しい。

現役のアイドルがノリノリで重機を操縦し、空挺降下の特訓を受けるとか例外も例外である。

出演者が何も知らないのに、地球から連れ去るとか、コンプライアンス的に大問題だ。

なのにそちらの方が合格した事に、日本人の(オッサンの)体力低下や柔軟な思考力の低下が見て取れるかもしれない。


その放送は真面目であった。

淡々と過程を放送していく。

まずは社内選抜。

一度健康診断の問題で、全員はねられた事も放送されていた。

そこで、出来るだけ健康な人間を社内でも選んだ。

そうして社内で選ばれた者たちの自主練習風景が放送される。

ジムでのトレーニングで、バイクを漕いだり、水泳をしたりしていた。

秋山たちは見ていて

「既に放送済みのあの番組と比べて、温いですね」

そう感想を漏らしたら、番組の中でも

「既に知っている人も多いと思うのですが、宇宙に行った、他局なんですが、その人たちの訓練に比べて我々の準備は随分足りていなかったと反省しています」

そう感想が述べられていた。


この時、画面上には全く映っていないが、選抜の為に自主練習という名の強制トレーニングを課せられた若手スタッフは

(勘弁して下さい。

 やるのは我々なんですから)

と他人事の反省の言葉を聞いて、心の内で呟いていた。

さっきスタジオで感想を述べた人は、決して自らは宇宙に行く事がない。


そして入所シーン。

「うわ、恥ずかしいな」

秋山は自分が説明しているシーンを見て、思わず目を背ける。

裏方はこういうのに、いつまで経っても慣れない。

人間、自分の内で聞く声と、メディアを通じて外から発せられた自分の声は違って聞こえる。

外から聞いた自分の声は、何か違和感があって聞くに堪えないと感じたりする。

秋山にとって幸いだったのは、自分の説明にナレーションが被せられて、もっと簡略な説明に変えられていた事だった。


スタジオでは司会と、実際に訓練を受けた局員と、アシスタントの女性芸能人がトークをする。

この辺、宇宙に行った方の番組がまだ訓練シーンに入っていないので、そこを詳しくは放送出来ないようだ。


「どんな訓練をしたのですか?」

「主に人間関係を上手く築けるか、というものと、臨機応変に対応出来るか、というものでした」

「我々のイメージでは、ジェットコースターというか高速回転するものでグルグル回されるものがあるのですが」

「それは本職の宇宙飛行士の方ですね。

 我々はかなりハードルを下げて貰いました。

 現在の有人宇宙船は、凄まじいG、つまり加速度ですが、それが有るわけではないです。

 昔はICBM、大陸間弾道ミサイルの先に宇宙船を乗せて打ち上げたのですが、今は人間の打ち上げに合った加速度のロケットになっています」

「スタジオには、訓練で使用された部屋と同じものを再現しました」


そこには3日程の閉鎖訓練を行った部屋が再現されている。

「壁一面真っ白ですね。

 あと、入り口以外に窓も無い。

 生活する為のベッドと冷蔵庫があり、冷蔵庫の中には水と食糧が入っています。

 ディスプレイとコンピューターがあるだけですね。

 ここで何をしたのですか?」

「まずは、こういう殺風景な部屋の中で、心身がおかしくならないかの確認です」

「ああ、閉所恐怖症と言いますか、苦痛に感じる事もありますね」

「他局も含めて、これでパニックになった人はいませんでした。

 しかし、やはりここまで殺風景な部屋だと何かしらの思考障害が出ますね」

「と言いますと?」

「ここでは、このような課題が出されました」


スタッフがテーブルの上にいくつかの物品を持って来る。

「このサイズの合わない物を繋いで、空気清浄フィルターを作るという課題です」

「補足しますと、これは月への移動中に酸素タンク爆発事故を起こしたアポロ13号で実際に行われた、二酸化炭素除去の再現ですね」

アポロ司令船が酸素不足、電力喪失に陥った為、3人の宇宙飛行士は月着陸船に移動して難を逃れた。

しかし月着陸船は2人乗りであり、二酸化炭素の吸着能力は3人に対応していない。

二酸化炭素濃度上昇を防ぐ為、規格が異なる司令船用フィルターを、月着陸船用の二酸化炭素吸収装置に繋げる必要があった。


「全く同じではないのですが、概ねアポロ13号の場合の再現です。

 我々の中には、それと感づいた人も居たのですが、1日この部屋に宿泊した後に出された課題だった為、思考力の低下が起こってどうやったのか思い出せない、応用が効きにくくなったりしました」

こんな感じで、いくつかの訓練を再現し、いかに「疲労する環境で耐久出来るか」「疲労した状態で臨機応変に対応出来るか」「課題クリアに際し、周囲の人と協調出来るか」を見られたかを解説していた。

そして、最終選考で落選。

「合格した2チームは実に素晴らしい成績でした」

そう評していた。

……落選したチームは、極限状態での人間関係に難が有ったという事実は「報道しない自由」によって伝えられていない。

合格したチームを褒め称える事で、その事実を悟らせなかった。


「それで、この訓練を受けてみて、どのように感じましたか?」

「はい。

 我々は本当の宇宙飛行士養成ではなく、大分ハードルを下げて貰った形で宇宙行きの訓練を受けました。

 そこで問われたのは応用力です。

 確かにお金を出して、お客様として宇宙に行く方法はありました。

 しかし、この応用力を試される選考は、兎角詰め込み型と言われた日本の受験等とは違い、もっと科学を発展させる上で有意義なものと思いました」


そのように綺麗事を言って〆ていた。

JAXAの面々は思う。

「応用力もなんだけどさ。

 それよりも、変な上下関係を持ち込んだのが最大の減点だったんだってば!」

と。

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