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表敬訪問

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「はい、分かりました。

 ではその日に予定を入れておきます」

広報での対応である。

テレビ局、芸能事務所とそのファンクラブ広報誌編集部、番記者が表敬訪問兼取材に来る事になった。

カメラも入るので、その確認もあった。


「こういうのがあるから、あまりテレビ番組とかには関わりたくないんですよね」

カメラや大衆が苦手な秋山がボヤく。

「秋山さん、いい加減慣れて下さい」

部下たちはそれ程カメラに抵抗が無いし、何よりも押し付ける気しか無いので気楽なものだ。

「大体、知らない人じゃないんですから、緊張はしないでしょ?」

「そうは言うけど、やはりテレビの中の人ですし」

「一般人からしたら、秋山さんも同類ですから」

講演会とか、プロジェクトの発表とかで秋山も「見られる側」に座っている。

苦手、嫌いと言いつつ、それなりにこなせているように傍からは見えているし、単に愚痴っているようにしか思われていないのが悲しいところだ。


そしてその日はやって来た。

芸能人とはいえ社長でもあるその人は、ラフな格好ではなく、きちんとスーツ姿での来訪であり、態度もバラエティ用ではなかった。

取材もテレビカメラは最初の挨拶と、後で再度訓練施設を映すのに使うだけで、あとはスチールカメラがたまに使われるくらいである。

挨拶回りの後、対談形式で質問がされる。

そういう気を使われたやり方な事もあって、秋山はホッとしてしまった。

そして、ちょっと色々とぶっちゃけた話を連発する。


「まず、どうしてテレビ番組とタイアップする事にされたんですか?」

「いや、それはそちらから言って来た事でして」

「それでも、やはり夢のある未来を子供たちに見せる良い機会だったと思ったとか?」

「まあ、それはありますね。

 でも一番は、政治家とかの筋からゴリ押しがありまして」

「すいません、今のとこオフレコで!」

「秋山さん、ちょっとそういう生臭い発言は……」

結局編集されて

「まあ、それはありますね」

までが使用される事になる。


「リーダーの訓練ぶりはどうでした?」

「流石だな、と思いました。

 このプロジェクトはそこまでハードルが高くなく、大学院生でも宇宙に行けるようにしています。

 だからロボットアームの操作とか、宇宙船の操縦までは期待していないんです。

 訓練で、いざという時にやれるように教えますが、まずそんな事態にしないのが我々の責任です。

 仮にそんな事態になっても、こちらから指示を送ります。

 だから、パネルを開けて下さいという指示に対し

『パネルってどこですか?』

 といった感じにさえならなければ良かったのです」

「それに比べれば、機械操作も良く出来ていた?」

「そうです。

 訓練だけならロボットアームの操作までやれていました。

 実際に緊急での観測モジュールセットアップにも携わって貰いましたし、かなり優秀でした」

「いやあ、そない言ってもらえると、恥ずかしいですわ」

リップサービス込みでもそう褒めてみた。

というか、実際シミュレーターでは優秀だったのだ。

ただ本物の無重力での操作となると、もっと経験が必要である。

如何に教習所の道路で上手く走れても、標識や信号をしっかり守れる人でも、道の高低とか気象条件とか道の並木で出来る陰とかで状況が変わるように、対象物がどんな状態かは千差万別である。

上手く動かせるのと、どんな場合でも対応出来るのでは、経験値の違いが如実に出る。

たかだか二ヶ月程度の訓練で、ロボットアームを実際に操作させるのは難がある。

そんな用事も無かったし、専任が2人も常駐しているのだから、素人に動かして貰う事はそうそうないだろう。


「訓練の様子はどうでした?」

「彼等は良かったですよ。

 他との関係も良好でしたし。

 言っちゃなんですが、他のテレビ局では色々と酷いのがありまして……」

「あ、ここからオフレコで頼みます」

「秋山さん、ぶっちゃけ過ぎですわ」

実は、カリキュラムをこなすだけなら他番組もそこそこ良かったのだ。

一番点数が低かったのは、同じように宇宙に行った北海道ローカル番組チームであった。

出来る事は出来るのだが、速度が遅い。

だが応用になった時に、一気に逆転する。

今そこに有るものを使って目的を達成しようとする時、注意して見ていないと、そこに有るのに見えていない。

例えばフィルターを修理するという状況。

その時に普通はタオルなり布地を探す。

それでも見つからない場合。

実は布地はすぐそこに有る。

自分が着ているのだ。

それに気づけるか?

気づくとしても、どれくらい時間がかかるか。

更に社会的な強者が

「お前が服を脱げ」

とか高圧的に出たりしないか。

こういうのは率先してするか、適任者がするかである。

飛行機でもそうだが、コクピット内の操作が生死を分けるような場合、人間関係はフラットであった方が良い。

機長が間違った手順を取った場合に、それを指摘出来る副機長や機関士が必要だし、注意を受けて怒るような機長では困る。

そういう機内にする為に、会社内での序列を持ち込んでは困るのだ。


というような話をして、記者はメモを取っている。

「まあ同業者さんなんで、これはオフレコにしておきますね」

記者はそう言った。

そして全員に

「秋山さん、結構毒舌ですね」

と言われた。


ここで読んでいる事も既に編集済みのものであり、実際にはもっと赤裸々に、どこそこの会社ではどれだけ横暴だったのか等を、かなり皮肉たっぷりに話していたのだから。

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