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ネバーギブアップ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

現役の政治家が宇宙に行く事は無い。

秋山が「行きたがって迷惑していたんです」と告げた事で、新総理は六十歳児や七十歳児たちの好奇心を封じる事を約束してくれた。

実に有り難い。

だが秋山は、いつまで経っても「男の子」の気分を残す者たちの執念を甘く見ていた。

特にある程度権力がある場合、実現可能なだけに厄介なのだ。


宇宙ステーションからテレビチームも帰還し、無事に元の生活に戻る。

次の短期滞在隊の訓練と打ち上げをどうしようか。

第五次長期隊も帰還の日がそう遠くない。

交代の第六次隊の訓練状況の確認を……と堅実な業務の日々を送っていたが、そこに前総理の秘書から連絡が入る。

また食事を一緒にしたいそうだ。


(このご時世で会食とか、私も世間に叩かれないだろうか?)

そういう不安もあるが、相変わらず「誰と会ったかは秘密」の料亭に呼ばれる。

「総理、お久しぶりです。

 退任までお疲れ様でした」

「おお、秋山君、久しぶりですね。

 まあ話したい事もあるから、早く中に入りなさいよ」

さっさと上着を脱いでくつろげと言う前総理。


「まあまあ、一杯」

「いえ、私の方からお酌させて貰います」

「いいんだよ。

 私はもう総理大臣じゃないしさ。

 頼み事があるのだから、こちらから注ぐのが礼儀でしょう」

(頼み事?

 非常に嫌な予感しかしないのだが……)

総理大臣を任期満了で辞めたとはいえ、まだ国会議員である。

権力も残っているし、油断はならない。


「私は今期で議員を引退しようと思っています。

 あと四年、長いですねえ。

 もし途中で解散総選挙があれば、そこまでです」

「はあ……」

「その後は、私は一般人になります」

「いいえ、元総理の肩書は終生残ります」

「まあ、それでも『元』じゃないか。

 それでね、その後私は自由の身になるわけですよ」

「はあ」

「その時に、宇宙に行きたいなあ、と」

秋山は口の中に液体を入れていなくて良かったと思った。

こんな事を聞いたら、吹き出してしまっただろう。

総理を辞めた事で、ついにオブラートに包んでいた本音を出して来たようだ。


「ここ来る前、例のアイドルの記者会見を見て来ましてねえ」

「はあ」

「あれ、カッコイイですよね」

「私どもはセッティングする方なので、特には……」

「アイドルが宇宙に行けて、政治家が行けないのはおかしいと思いませんか?」

「事故が起こったら日本の宇宙開発にストップがかかります!

 政治家が行ってはいけません!」

「あの事務所のアイドルが事故になった方がもっと大変でしょ。

 君、ファンの女の子に殺されかねませんよ。

 それに比べたら、もう任期の終わった私が死んだところでどうって事ないですよ。

 むしろ喜ぶ人もいるくらいです」

「年をお考え下さい!

 その年で一から訓練するのですか?」

「そうやって年だからで全否定するのは良くないですよ。

 働き方改革で、生涯現役でも良いのですから。

 それに私より年上の学者も宇宙に上がりましたよね。

 私なんて若造ですよ」

「現総理から、いい加減自粛するように言われてませんか?」

「現役の内はね。

 どうせその後は民間人に戻るのですから、関係ありません」

「ですが、辞めても元総理は元総理ですよね?

 現総理の言う事を聞いていた方が……」

「元総理と現総理、どちらがエライと思うのですか?」

「現総理ですよね」

「それは表面上の事だよ、君。

 実際の所、彼が私を拘束する事なんて出来ないんですよ」

(ダメだ、ああ言えばこう言うで、全部反論される……)

議論になると、ディベートが得意な政治家に軍配が上がる。


「だったら、宇宙飛行士の選抜を受けて貰い、それに合格したら、ってなりますよ」

「望むところです」

「厳しいですよ?

 多分、年齢的にも体力的にも合格なんてしないと思いますよ」

「そうかな?

 だって、芸能人の彼等は合格したじゃないか」

「彼等はサバイバル能力とか、機械操作能力とか凄いんですよ」

「それは体力的な審査とは関係無い部分ですよね」

「まあ、そうですが」

「体力面での審査は、彼等と同じ基準で頼みますね」

「それ、特別待遇の要求ですよ」

「芸能人だけ特別待遇したら、そっちの方が問題じゃないかね?

 それに、日本の宇宙ステーションは可能な限り誰でも行ける宇宙生活が実験テーマですよね。

 余計に私のような存在が行けるのが好ましいのではないですかね」


結局政治家相手に「持ち帰って前向きに検討し、良い回答が出来るよう善処する」という官僚答弁でこの場を逃れる事にしたのだった。

だが相手は百戦錬磨の政治家。

官僚を動かす術、官僚を動かざるを得なくする手練手管、官僚答弁で逃げさせない方法なんてとうに知り尽くしているのだ。


数日後、今後の有人宇宙飛行計画について科学技術部会に呼ばれた秋山は、目をキラキラさせた政治家先生たちから

「前総理から聞いたのですが、有人宇宙飛行の敷居を下げる為に、私たちのような結構年がいった者でも、安全かつ快適に宇宙に行くのが今後のテーマだそうですね。

 実に素晴らしい。

 その日が来るまで、与野党超党派で計画を支持する事にしました。

 税金の無駄遣いとか騒ぐ人たちが居ても、我々が守りますから安心して下さい。

 それで、現総理は難色を示していますが、絶対に安全ならば現役でも行けますよね?

 いや、引退する政治家より我々の方が若いのですから、そっちの方が良いですな?」

このように詰め寄られた。


……外堀はとっくに埋められていたのであった。

「小説家になろう」の仕様で、100章までしか章を増やせないようです。

なので、この回掲載後に章立てを変更します。

4話構成(起承転結)から、大きく変更しますので、ご了承下さい。

今後もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現在70歳前後とすると、ちょうどティーンエイジャーの頃に米ソ宇宙開発競争とかち合う辺りですか… アツい人はめっちゃアツそうですねぇ…
[良い点] ありそうでなさそうで、やっぱりありそうな展開にニヤニヤが止まりません。 超党派議連は右も左も大きい子供達が目をキラキラさせたいそうです。
[良い点] 前総理、誠に政治家らしいやり方ですね [一言] 100章までなんて制限あったんですね
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