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計画は無難にして欲しいとの事

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

秋山は再び官邸に呼び出された。

ただし、以前のように官邸まで出向いて説明する事ではなく、電話とかオンラインでの話で事足りるようになっている。

前総理のように、直接会って話して、後で食事に誘うような事を好まないようだ。


今回の用件も実務的なものである。

「有人宇宙飛行計画の予算案用の計画書だけど、あれ、何ですか?」

補佐官から質問される。

かつて「こんな計画通るわけないよな」という研究プランも大量に書いて提出したら、それが通ってしまった経緯があった。

以降も「やる事は地道で良いけど、ある程度先を、未来を見据えた計画を」と言われていたのも事実であった。

それを出した後で、実際のものに落とし込む。

要は派手なアドバルーンを上げておいて、「そんなに金が必要ならば、第二案の方がマシだよね」とする意図があったのだ。


「その計画は、官邸(そちら)に言われて策定したものですが」

これに関しては、半分喧嘩売る形でこう言わざるを得ない。

何かと「無駄遣い」と言われがちな科学研究への出費に対し、目を引くようなものが欲しい、それを梃子に案件を継続させる、そう言って来たのは政治側であった。

だから毎回、軌道エレベータ実験とか、新型電気推進装置の開発とか出しては「出来ませんでした」で終わらせている。

考える方だって、無理なの分かっていて、頭を捻って出したのだ。


経緯を知らない新補佐官にレクチャーをして、ようやく仕組みが理解された。

案件についての引継ぎはされていたが、進め方のこういう部分は伝わっていない。

そりゃ何も知らない人が計画書を見て

「超高速飛行実現の為の亜空間発生についての検証」

なんて見たら、SFの話か、それとも知らないだけで恐ろしい研究が進行中なのか疑ってしまうだろう。

経緯を知った上で、今後はきちんとした計画書にして欲しいという要望を出される。

これも総理が代わった事による変化であろう。

多少おかしな事を言っても

「見て分からんかね? 無論ジョークだよ」

と平然と言える人物と、そういうジョークを嫌う人物との違い。


指示を受け、早速今後の計画について再提出する為の会合となった。

「そうは言いましても、別に奇想天外な案は出していませんよね」

「……君ら、大分おかしくなっているよ」

秋山が奇抜な案慣れしてしまった職員にツッコミを入れる。

現在出ている計画は

・宇宙手術室

・スペースドローンの開発

・電気推進式宇宙船の開発

・マイクロ波による送電の実験

である。

継続案件となっているのは

・宇宙で魚や海藻、貝類の養殖(副産物として浄水効果と酸素生成)

・宇宙で養鶏(食糧確保、残飯処理等)

・宇宙で果樹栽培(食糧確保、酸素生成)

・宇宙でサウナ(無重力・閉鎖環境における水蒸気の挙動研究)

・宇宙バイクの開発(進行中)

であった。


「どこがおかしいんでしょう?」

「基本的にうちは、宇宙滞在さえすれば十分なんです。

 思い出して下さい。

 有人宇宙船の運用経験が無いから、その経験を積むのが目的だったんですよ」

一番の理由は貿易不均衡対策だったのだが。


「全部必要と言えば必要、不要と言えば不要ですね」

そういうものばかりを提出して来た。

中には宇宙コーヒーマシーンのように、NASAの方が興味を示す「一見無駄にしか見えない」研究もある為、政治家では判断がしにくい。

「だから、分かりやすい所まで落とし込んで欲しいという事です」

「これ以上ないくらい分かりやすいと思うのですけどね」

「いや、分からないでしょ。

 例えば宇宙サウナなんかは、NASAの方でも、そんなの不要でしょとか言っているものだ。

 一方の宇宙バイク、これは月面バイクもですが、こちらは是非と言われている。

 そういう説明が有れば、それを書いて欲しいという事でした」

「ああ、そうですね。

 この計画は国際案件ですから、中止が出来ないんでした」

もしかしたら、貿易不均衡対策のこの事業を、新総理は止めたかったのかもしれない。

今は他にすべき事もあるわけだし。

そこで「やーめた」と言えばそりゃ計画中止も出来る。

それに伴う反作用、日本は約束を履行しないと言われる事のデメリットを、流石に保守系の総理だけに理解している。

……中には全く理解しないで、自分の判断に世界が合わせるべきだと考えている政治家も居るから、新総理がそういう人でなくて良かったと思う。


「という訳で、いつもの乙案、実際に行う計画についてもう少し丁寧に書き直しましょう。

 今後はこの乙案だけで十分との事です」

これには思わず職員から拍手が起こる。

計画書策定業務は、何だかんだで面倒臭かったからだ。


こうして策定した計画書を持って、官邸に赴く。

閣議で計画が承認されるのだが、何か説明が欲しい場合に備えて控える為だ。

しばらくして閣議が終わり、承認されたという報告を新総理から受ける。

ホッと胸をなでおろす秋山。

「ところで、聞いておきたい事があります」

新総理が問う。

「なんか自分たちが行く事前提で、快適な空間が欲しい、何かあったら治療出来る場所が欲しい、執務室にもなる場所を用意した方が良いとか、そんな事言う先生方がいました。

 あれ、前からですか?」

「前からです!」

「あれ、君たちも賛同していたの?」

「いいえ!

 全力で阻止していました。

 これ以上面倒を増やしたくないので」

「なら良かったです。

 全力でやめるよう嗜めましたので」

秋山はこの瞬間、新総理を支持しようと決めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>なんか自分たちが行く事前提で、快適な空間が欲しい、何かあったら治療出来る場所が欲しい、執務室にもなる場所を用意した方が良いとか、そんな事言う先生方がいました。 どこかの鷲のマークの部屋が…
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