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合宿審査

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

某アイドルのオーディションには合宿審査というのがある。

基本的にお互いライバル同士のオーディション。

しかし、合格すれば仲間となる。

その際にチームワークを乱さないかどうか、困っている人を助けてやれるかどうか、未知の困難にチームとして取り組めるかどうか、主に協調性について審査が行われる。

……まあ合格者の中には、明らかに「本当に合宿審査で協調性を見たのか?」と首を傾げたくなるメンバーもいるのだが。

それでも、実際に「協調性に問題アリ」として不合格になった人も存在する。


宇宙飛行士の合宿審査には2パターンある。

まずは宇宙生活を想定した訓練である。

これは宇宙ステーションのような真っ白い室内に閉じ込め、基本的には3日の間で課題をこなして貰うものである。

当然だが、外からの助けは一切無い。

チームを組んでの長期閉鎖環境訓練と違い、見知らぬ人同士で組んで、本当の意味でのコミュニケーション能力や協調性と、問題解決能力を確認する。


もう一つは野外訓練である。

これは宇宙船が帰還時に想定のコースを外れ、人里離れた場所に着陸した場合を想定している。

これはチームで訓練を行うが、閉鎖環境訓練以上に過酷だったりする。

閉鎖環境訓練は、閉所に閉じ込められる事でのストレスできついものがある。

しかし野外訓練は、僅かな持ち物と装備品のテントを使い、3日間生き抜くだけでなく、脱出や連絡を取るといった行動から臨機応変さを確認するものだ。

基準は「空挺部隊の敵陣降下」であり、単に日数が短くなったものである。


現在テレビ番組が宇宙に行く為の訓練を行っている。

長期間の閉鎖訓練は行えない。

スケジュールの関係と、短期滞在なのに3ヶ月滞在を想定した訓練は無意味だからである。

そこで、某アイドルグループの如く「シャッフル」した上で合宿審査をやってみた。

そしてここで、同一番組のメンバーでは見られない醜態が色々と露わになっていく。


実は芸能人は案外問題を起こさない。

彼等は他人の奉仕の上で生きている人種である。

驕り高ぶって下っ端をイジメる者もいるが、そういう人たちは宇宙滞在には参加していない。

何人か、番組の代表として行く候補者に挙げられた人もいたが、途中で全て断りを入れたという。

24時間監視されている生活で、イメージを崩す映像を撮られる事を嫌ったという話もある。

24時間、コンディションが良い時も悪い時も、表の顔も裏の顔も記録され続ける。

立場がある人ほどリスクが大きい。

こういう時、いつ撮られても営業スマイルなアイドルは強い。

それが男性であっても。

もう1パターン、こんな人物も大丈夫であろう。

某ギャグ漫画での警察のトップの言葉を借りるなら

「パンツを下げられて人気は落ちるというのなら、最初からパンツを履かなければ良い。

 パンツと人気の順位が連動するのは雑魚だけの話だ。

 何度も恥部を露出し続けて来たから、もう皆見慣れてるんだよ!」

という人物だろう。


……24時間記録される環境に対しては問題無いが、宇宙飛行士の選抜では落選確実であろう。


と言った感じで、いつでもテレビで見せる感じの爽やかさや真剣さを見せる者も居る。

いつもテレビで見て来た、ボヤき、不満、後悔ばかりを晒す者も居る。

この辺は大して問題では無かった。


問題だったのは、テレビ局スタッフであろう。

最初の日はお互い様子見で大人しくしていた。

だが、ここはかなりの格差社会である。

キー局、地方支局、独立ローカル局に製作会社社員と会社間格差もあるし、役付のディレクターに普通のディレクター、アシスタントディレクター、カメラマン、更には外注スタッフと役職格差もある。

自己紹介が済み、統一の課題が出され、その解決に向かう時にこの差が次第に出て来た。

エライ人は下に「やっとけ」と言って来た。

その態度が知らず知らずに出て来るのだ。

そしてADは今が我慢と、言われた事に服従してしまう。

今を耐えればやがて昇級してディレクターになれる。

それまでの辛抱だ。

外注スタッフ、言い方を変えるとフリーランスの人間。

適当に妥協して言われた事はやるが、基本的には自分の技術一本で生きて来た人間だけに、金が発生しない場面では働かない事もある。

彼等は無償労働者ではないのだ。

全部の場面でそうではない。

だがそれぞれの態度が上手い具合に噛み合って、上下の社会が狭い室内で出来てしまった。

実はこれは、課題こそ解決出来ても、望ましい姿ではない。

上に従順に従う下、そして自分の判断で行動する者、空飛ぶ機械を操るクルーとしては良くない。

下は問題を見つけても、上に忖度して指摘しない、しても上が激怒して無視する、そうして事故を起こした航空会社もあるのだ。


そして、同格同士がいがみ合う事も好ましくない。

エリート意識を剥き出しにされても、宇宙飛行士選抜では全員が対等なのだから、意味が無い。


結局テレビ局、報道関係といっても企業なのだ。

企業の上下関係やライバル関係がエゴとして出てしまう。

これまで大学や研究機関という、割とフラットな職場から候補生が来ていた。

生々しい企業人で、社会の常識を持ち込んでいるのを、ある意味で浮世離れした宇宙関係機関の職員たちは、驚きと呆れを持って観察するのであった。

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