今度の短期滞在はジェミニ改でやって来た
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
宇宙ステーション「こうのす」は長期隊6人の他、短期滞在を受け容れられる仕様である。
短期滞在であれば生命維持装置への許容範囲という事で、大量の人数を宿泊させられる。
しかし、日本にはそのように大量の人数を宇宙に運べる宇宙船が無い。
この場合、最大11人乗りのアメリカ民間宇宙船をチャーターする事になる。
ここまでを計算し、最大17人同時滞在で一週間ならば極端に二酸化炭素濃度が上がったり、水処理が滞ったりしない設計となっている。
最大17人使用時は、許容範囲とはいえ負荷はかかっている為、次の短期滞在までは二週間程の調整期間を設けていた。
打ち上げの方も間隔的に三週間程度は空けたい都合があったが、複数の打ち上げ場を使えば間隔は狭まる為、宇宙ステーション側でも規定を作ってスケジュールを組んでいる。
さて、能力はこのようなものだが、打ち上げは地上の都合によっても変わってくる。
また病気流行の関係で外国人受け入れを停止したりして、予定していた途上国からの短期滞在宇宙飛行士の打ち上げが中止となった。
これは打ち上げよりも前の時点の話で、現在は状況が変わっている。
しかし召集、最終訓練、最終選考、アメリカに渡っての調整という段階を経て打ち上げられる為、打ち上げ時点では問題無くても、だからといってすぐに「やって来て下さい」という訳にはいかないのだ。
それは国内でも同じである。
予定が空いたから急に「今から来ませんか?」と言われても対応出来ない人の方が多い。
外国人飛行士の来日が出来なくなり、予定が空いたから日本人の予約者に連絡を入れたが、急過ぎると言って辞退する人が続出した。
このままゼロだったら、短期滞在は今次は中止となっていた。
それはそれで、予定が後にずれるから問題があるが、行く人が居ないなら仕方がない。
幸いというか、3人調整がついた。
「3人と専属の運用専任飛行士で4人なら、アメリカの民間船チャーターしなくても良いな」
アメリカへの渡航とアメリカが定める待機期間、その後の調整と、場合によっては気象による延期とこちらでは制御出来ない要素が増える。
それくらいなら、日本国内からジェミニ改で打ち上げれば、天気の事は仕方ないにしても、大分スケジュールを短縮出来るし、日程調整もしやすい。
それで準備を開始する。
本来なら、一ヶ月前に
「打ち上げますので。
ロケットを準備して下さい」
と言われても間に合わない。
ロケットだって生産に時間が掛かる。
「半年前には言え!」
とメーカーから文句を言われるだろう。
そうならないように、予備機をストックしてある。
ロケットは大きいから、分解して保管してあるのだが、この組み立てが始まった。
ストックしてあるとはいえ、即組み立てともいかない。
保管中に何らかの理由で破損しているかもしれないのだから。
それは目には見えない。
分解してチェックし、再度組み立てていると一ヶ月なんてあっという間に終わる。
そこで測定器を使って、分解せずに内部の配管やタンクに亀裂等が生じていないかを調べる。
直接目で見ない、職人さんがハンマーで叩いて音の違いを確認しない、という事もあり見落としが無いよう念入りに調べる。
倉庫の中で何度も何度も調べて、やっと組み立て工場に運び込む。
組み立てて、燃料注入を待つばかりとする。
燃料は揮発性が高い極低温のものである為、打ち上げ直前に注入という手順だ。
という一ヶ月の間に、急遽召集された3人とジェミニ改を操縦する飛行士の最終訓練が行われた。
これがテレビ番組関係者の閉鎖環境訓練等と時期が重なった為、JAXAは中々に忙しい。
この他に、ISSに滞在可能な正規の飛行士の募集も行っている。
「こうのす」は軌道も低いし、実験設備も貧弱で、最大の目的が「どれだけ地上と同じように、快適に過ごせるか」の検証なので、ISS滞在可能な飛行士に比べてハードルは低い。
それでも選考は厳しいのだから、正規の飛行士の方はもっと長期間、もっと過酷な条件で選考される事になる。
例えて言うなら、「こうのす」は普通自動車一種免許くらいで、ISSの方は大型自動車二種免許と大型特殊自動車二種免許と牽引二種免許全てを取らなければならない、くらいの違いはある。
「こうのす」のミッションスペシャリストなら、原付免許程度のものだ。
それでも落ちるやつは落ちるが。
そんな訳で、JAXA内の花形・ISS及び宇宙ステーション輸送機部門も活気づき、色々やっているが基本二軍扱いの独自有人宇宙船部門にも
「ちょっとそちらのデータ下さいね」
「ちょっと人貸して貰いたいんだけど」
と要望が来ている。
忙しいのは、良い事です、基本的には……。
そんなこんなで多忙な12~1月を経て、ジェミニ改打ち上げの日を迎えた。
短期滞在隊は基本的にはアメリカ民間機を使う為、今回のジェミニ改に合わせた脱出訓練や生活訓練を施す事になった。
「狭いですねえ」
ミッションスペシャリストとなる3人は、それまで訓練で使っていた訓練機とは違うジェミニ改の内部に驚いたようだった。
「まあその中に居るのは、長くても往復で3日だけです。
それくらいは我慢して下さいね」
職員はそう説明する。
最後の訓練も終了し、4人はジェミニ改に詰め込まれて打ち上げられた。
ジェミニ改は、元々2人乗りのジェミニ宇宙船を再設計して訓練機としたものを、そこから更に最大4人搭乗可能にしたものだから、耐G用宇宙服を着ての打ち上げ時はとくに狭く感じる。
嫌がらせ的な訓練(あえてそういう状況を作る)以外は、4人乗りの場合は最短で「こうのす」にドッキングするよう調整する。
そしてハッチを開け、「こうのす」に乗り移った時、3人のミッションスペシャリストは一様に感想を漏らした。
「広い!
明るい!
空気が美味い!」
JAXAの久々の本物の宇宙飛行士募集、色々と参考にしたいです。
こちらは本文でも書いた通り、「二種免許持ちよりもずっとハードルが低い原付程度」を目指すものなので、本物みたいに厳しいものにはしたくないです。




