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いきなり企画を告げられて、有無を言わさず訓練を課せられた男

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

その男は、年末の元国民的番組の司会者を無事勤めあげ、東京の宿泊場所に帰るところであった。

放送局の差し向けたハイヤーに乗り、何の疑いも無くリラックスして後部座席でウトウトしていた。

眠気が覚まされるのは間もなくであった。


「よお」

宿舎に帰って来た彼を出迎えたのは、昔やっていた体当たり型バラエティー番組のディレクターたちであった。

「年明け早々に何なんですか?」

既にいつものカメラが回っている。

もう収録は有無を言わさずに始まっているのだ。

「おめえ、これから宇宙に行くぞ」

「は???????????????????」

思いっきり理解が追いつかない。

何言ってんだ、このヒゲは。

もう一人の出演者も

「すみません、私もですねえ、非常に混乱しております」

とよく分かっていないようだった。

そう言えば、スケジュールが3ヶ月以上抑えられていた。

何か有るとは覚悟はしていた。

だが、


宇宙??


行けるわけないだろ。


そんな彼の心を見透かすように、

「おめえ、日本が宇宙ステーション持ってる知ってるよな」

と押し込んで来る。

「知ってますよ」

「そこに行くぞ。

 許可は取った」

「はあ??

 本人の同意は?」

「同意しますね?

 よし、決定だ」

「いやいや待て待て」

「同意して貰わねえと困るんだ。

 同意書、待って貰ってんだよ。

 今から直接手渡しして来るんだよ」

「ホント、すみません。

 頭が整理出来ていないんで、待って下さい」

「45秒だけ待ってやる」

「…………」

もうツッコム気も起きない。

どうやら、不定期的に放送される、あの番組のようだ。

ああ、俺には拒否権はねえな。

だが、だ。

宇宙なんてそう簡単に行けるものなのか?

今から宇宙船に乗せられるのか?


「何か質問は?」

「とりあえず山ほど有るけどよ。

 宇宙ってそんな簡単に行けるのかよ?

 何かすげえ訓練とか有るんじゃねえのか」

「正解です。

 まずは宇宙飛行士になる為の訓練からです」

「あの、水入ったバケツみたいに、ブンブン振り回されんのかい?」

「ああ、やってみたいですか?」

「やりたかねえよ!

 僕ぁねえ、ああいう事をやる人間じゃないんだよ!」

「残念です。

 じゃあ、普通の訓練です」

「普通の訓練って何ですか?」

「密室で生活して精神に異常を来さないか」

「はいっ!

 来します!

 レンタカーで長旅してた時、僕一回おかしくなったじゃないですか!」

「あれは例外として」

「例外にすんな!」

「飛行機からパラシュートつけて降下訓練をします」

「殺す気ですか?」

「死にゃしねえよ。

 馬鹿かおめえは。

 パラシュートだっつってんだろ!

 そして次の訓練は、パニックにならないかどうかの見極めです」

「パニックになります!」

「いや、お言葉ですが、貴方は非常に冷静ですよ。

 我々が虎が出たってパニックになった時、貴方は極めて冷静だったじゃないですか」

「ほら、おめえんとこの社長もそう言ってるだろ。

 こういう訓練を受けてから宇宙に行くんだよ」

「だから何ヶ月もベターって予定抑えられてたんですね」

「そうだよ」

「もし、訓練でダメだったらどうするんですか?」

「行けないに決まってるじゃないですか」

「あ、行けないんですね。

 それ聞いて安心しました。

 そうか、行けないのか」

「おめえさ、わざと訓練でヘマしようとか考えてるな?」

「ソンナコトナイデスヨー」

「まあさあ、そんな時は代替企画が有るから、そっちやるぞ」

「代わりが有るんですか?」

「企画出して通ったんだからさ、穴空けたら損失だろ」

「代わりは何やるんですか?」

「ジャングル……」

「もういいです!

 宇宙の方がまだマシです。

 本気で訓練します!」

「一応言わせろ。

 3月半ばに地球に帰って来るんだけど、仮に宇宙に行けなかったら、その帰還の日までずっと動物観察小屋での生活だ」

「もしも、1月途中で脱落したら、残り2ヶ月くらいずっと?」

「そう、ずっと」

「嫌ですよ」

「俺だって嫌だよ」

「なんでそんな企画出すんですか!」

「それくらいじゃないと、本気出さないだろ」

「そもそもさ、僕が宇宙に行きたいなんて、一言でも言ったかい?」

「言ったよ」

「は?

 何時さ?」

ディレクターは証拠映像を出す。

それは彼が二十代の若かりし頃のものだった。

海外ロケの冒頭の下りで

『もうねえ、海外は飽きたんだよ。

 どうせなら、宇宙にでも行かせなさいよ!』

そうはっきり言っていた。


「貴方、こんな事言ってたんですか!?

 なにをトンデモない事言ってるんですか!

 僕まで巻き添え食らったじゃないですか!」

「いやいやいやいや、これはシナリオじゃないですか!

 僕に言わせたんじゃないですか!」

「だけど、確かに言ってます」

「言ったとしても時効です!

 こんなの認められません!」

「おめえさぁ、ゴネてるけど分かってんだろ?

 美味しいって」

「そりゃ、まあ……」

「じゃあ、この辺にして具体的な話をしましょうよ。

 まずは、この書類のここの所にサインして。

 皆サインしてるので、貴方だけですよ。

 さ!

 サインして下さい」

「……なんかさ、詐欺師のやり様だよな」

「いいからサインしろよ!」


結局その男は、宇宙に行く事を了承した。

そして家族に電話を入れる。

「俺さあ、また騙されたよ」

「またかい」

それで家族は納得したようだった。

ネタ元は、北海道ローカル局から全国区(海外もか?)に化けた番組です。

限りなく彼等の言動を再現してますが、彼等そのものではありませんので。

あくまでもモデルです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あれっぽい、知らない人もいるかもだけど、ひっじょーーにとある北海道のバラエティ番組っぽい。
[一言] すげーそれっぽくて笑うしかない。
[一言] あー、これは。荷台に括り付ける達磨を持ってゆかねば。
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