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いよいよ長距離飛行実験

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

女性飛行士だけの短期滞在隊は、予定日数を消化して地球に帰還していった。

宇宙スクーターに乗った後、3人は交代で簡易サウナを展開して、そこで汗をかく。

「ツーリング後はサウナだよね~」

とテント状のサウナ室でスチームサウナ、カプセル状のサウナ室でドライサウナ、更に宇宙湯舟(バスタブ)で水風呂にして、思う存分堪能していった。


ツーリングしてキャッキャする女子とは違い、男性陣は肩を自分で揉みほぐしながら、グターっと寝室に倒れ込む。

無重力だから倒れるという事も無いが、要は休息態勢に入る。

肩、首、こめかみ、目頭の辺りをグリグリと揉んだり、硬い物で押したりする。

肩甲骨の裏側の張りをほぐす。

「肩こりと無重力は関係ないようだな」

「まあ、筋肉の緊張だから、強張る姿勢だったら重力の有無は関係ないですね」

普通の姿勢なら、無重力だと頭の重さが負担にならない為、肩こりは減る。

その分、肩の筋肉も減少してしまうが。


「さて、そろそろ長距離飛行? 走行? のテストになります」

栗山技師が告げた。

だが、だからと言ってテストライダーの新沼船長、岸田副船長が何かをする訳ではない。

まずは無人で、宇宙ステーションから離れた場所を並走させるのだ。


看護士でもある松本飛行士は、DISAMA(爺様)と呼ばれた等身大人形を使って実験を行った。

それと同様、宇宙スクーターも等身大の大人サイズ及び重量の人形を座らせて、飛行実験を行う。

この人形には、DISAMAみたいな内部機能は入っていない。

基本、衝突実験の人形と同じで、関節が動くくらいである。

周囲にはセンサーが貼られ、衝撃等を記録する。

ヘルメットにはレコーダーが取り付けられている。

このレコーダーは、飛行を記録するだけでなく、モニターに「視線」として映し出し、遠隔操縦の際の目とする。

どんなにベテランだろうと、愛好者だろうと、まだ機械に信頼が置けない以上、救出が困難な距離に行かせる事は出来ない。


「最初は自動操縦でいきます。

 相対距離で10km程離れた位置まで行って、1時間程並走させてから戻します。

 衝突回避に、ロボットアームで万が一の時はガードするよう待機をお願いします」

まずはコンピュータ完全自動制御で、決められた軌道を通って戻るテストである。

本来は自動で宇宙ステーションまで戻したいが、自動操縦は衝突の危険性を排除出来ない為、「こうのす」周囲を守る金網・鳥籠(バードケージ)の位置で静止させて、人力で収納する。

この時、もしも制御が効かなくなって衝突コースに入った場合、そこが鳥籠(バードケージ)なら金網で防御するが、それ以外の場所ならロボットアームを叩きつけて弾き飛ばす。

操縦しないからといって、新沼船長、岸田副船長は休んではいられない。


この実験で、燃料消費の度合いと搭乗者に掛かる加速度を計測する。

同じ高度で、軌道を変えて離れ、そして戻って来るだけの簡単な楕円運動から始める。

その内に、大体同じ高度で速度を速めて前に出たり、後ろに行ったりする。

(速度を増やすと軌道は外側にずれる為、厳密には同じ高度はあり得ない)

やがて、高度を上げたり下げたりして、前後左右上下全ての機動を確認してから、本格的な自由な移動を試すという手順であった。


エアロックを通り、スクーターが船外に運ばれる。

そのままロボットアームを使い、鳥籠(バードケージ)の外まで持っていく。

実験開始。

主エンジンから噴射剤が出て、スクーターは宇宙ステーションから遠ざかっていく。

最初の実験では、それ程の速度は出さない。

ゆっくりと進める。

「ちょっと怖いものがありますね」

ロボットアームの操縦桿を握りながら、岸田副船長が言った。

モニターにはヘルメットのカメラからの映像が映し出されていた。

行く先には何も見えない。

地上と違い、風景が変わらない。

一応、下方には地球が見えるし、ミラーにも遠ざかる宇宙ステーションが見えている。

だが、虚空に吸い込まれるように進むのは、ちょっと恐怖を感じさせるものだった。


これまで宇宙スクーターは、拡張与圧室内や、宇宙ステーションのすぐ近くでテストを行っていた。

動けば、風景も変化した。

だが宇宙ステーションから離れてしまうと、自分がどこに居るのか分からなくなる。

これが地球すら見えない位置だと、なおさら怖いだろう。

星や月は遠くて進んでもほとんど見える位置が変わらないし、それを使った位置計測(スターナビゲーション)では大体どの辺にいるか、しか分からない。

地上では時々煩わしく感じる道路標識や標示、反射板等が懐かしく感じる。

「これ、バイク並のメーターじゃダメですね。

 飛行機並に位置情報表示ディスプレイを用意しないと」


最近、バイクでもスマホを取り付け、その地図機能を使ってカーナビ的に使う人もいる。

その程度で十分かと思われたが、想像以上に離れた位置に置かれると不安になる。

飛行機も船も、太平洋上やシベリア上空を飛行していると、目や感覚では位置情報なんか分からない。

GPSや地上基地局からの電波で、自分の位置、近くを飛行したり航行する他者の存在をディスプレイ上に表示する。

数値でも、どのくらいの高度なのか、座標はどこなのかを示す。

こういった感じで、もっと位置情報を大量に表示させないと不安になる。

不安になり、パニックになると、帰れる宇宙ステーションにも帰れなくなる。

正規の宇宙飛行士はこういう時にパニックを起こさないよう徹底訓練されるが、このスクーターは正規の宇宙飛行士のみを想定してはいない。


「ちょっと、目で見える位置まで行って戻って来る」

という感覚で設計されたし、宇宙ステーション内外で使っている内は気づかなかったが、宇宙ステーションが見えていても遠くにいると相当に不安になりそうだ。

「大量に表示があっても、かえって操縦者が混乱するかもしれない」

そういう意見も開発段階では出たが、やはり宇宙に来ないと実際の見え方と、感じ方が違う。

シミュレーターでの画像とも違う。

吸い込まれそうな宇宙の深みは、訓練されたパイロットでも怖い。

如何にシミュレーターで高い場所を再現してみせても、実際に高いとこに立たせれば高所恐怖症が出てしまうようなものだ。

こればっかりは、来てみなければ分からなかった。

モニターごしですら怖いのだ。


これはこれで貴重な意見として、今後の開発に反映されるだろう。

その為の有人飛行である。

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