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女性飛行士無重力下訓練

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

折笠飛行士は、宇宙は3回目である。

1回目、2回目共にジェミニ改での飛行で、最初は訓練生として3番目の席に座り、2回目は操縦士を勤めた。

一週間以内の短期滞在を2回だが、それでも宇宙には慣れているようだ。

宇宙酔いも

「有りますが、気合で克服出来るもんですよ」

と豪快に抑え込んでいる。

為末飛行士は今回が初の宇宙である。

本当は2回目になる筈だったが、打ち上げ順延と、その待機中に同僚(バディ)が風邪を引いてしまい、病人との接触が有った事で中止となった。

その為、今回初飛行でありながらジェミニ改の操縦桿を握る。

操縦は特に難しい事は無く、普通に飛行し、ドッキングの際は緊張するが、それでも隣に自動車学校の教官のように折笠飛行士が、ブレーキ(逆噴射レバー)に触りながら座っていた為、万が一は起こらなかっただろう。

為末飛行士も、「こうのす」移乗後に宇宙酔いが出ているようで、気持ち悪いと訴えている。

それでも

(かなり元気な方だ。

 宇宙酔い酷いと吐き戻すし、1日や2日は動けなくなる人もいるからなあ)

と新沼船長が思うくらいには、見た目の症状は軽い感じだ。


折笠、為末両名とも元自衛官である。

しかし、航空自衛隊で女性パイロットは極めて少ない。

現役の女性パイロットは50人程度。

戦闘機パイロットに至っては2018年に最初の一人が出た、それ程希少である。

為末飛行士の方が空中勤務で航法士をしていた。

折笠飛行士は地上勤務の整備員であった。

折笠飛行士の方が先任で、宇宙経験が長かった為、往復の宇宙船船長に抜擢された。

「だから私たちはエリートではない」

そのように言っている。


では宇宙飛行士の方が空自パイロットより門戸が広いのか?

それは何とも言えない。

いつ募集しているのか分からない部分がある。

つまり、応募人数が空自の方が遥かに多い為、倍率で見れば高い事になる。

しかし宇宙飛行士の方は、技量の高さとは異なる資質も求められる。

少人数で長期間閉鎖空間で生活し、和を乱さず、恐怖症等を発症せず、その生活に耐えられる資質。

また、如何に宇宙ステーション運用や往復の宇宙船操縦が主な仕事とはいえ、人数が限られている以上、研究補助、生活管理、自身を研究材料とする宇宙生活のモニターも行う事になる。

そういった事への柔軟性。

柔軟性といえば、例えば宇宙で機械の故障が起きた時、戦闘機パイロットは一瞬の判断ミスで命を落とす可能性が高い為、即座の行動が求められるが、宇宙船はそうなる前までの猶予がある上、脱出の方が危険である為、ギリギリまで自力で修復を出来る能力と粘り強さの方が求められる。

その一方で、打ち上げ時の事故は戦闘機以上の俊敏さでの脱出判断も求められる。

故にどちらがどうと優劣つけてはならない。


ただ、彼女たちが言うには

「女性優遇枠があったので、それで入れたのもあると思いますよ」

との事だった。

この有人宇宙船計画は総理案件である。

総理は女性の社会での活動支援を政策として掲げている。

こういう目立つ仕事に女性抜擢は、まさに「狙い通り!」といったとこだろう。

実際、本邦マスコミは注目しなかったが、海外メディアは大々的に報道したわけだし。


「だからというか、自分たちはおまけ合格と呼ばれないだけの技術を身につけたい」

そう気合が入っていた。

無論彼女たちは、男性と同じ訓練課程を全てクリアして来たのだから、おまけ合格とかゲタを履かせた合格なのではない。

彼女たちの気分の問題であろう。

船外活動の訓練、ロボットアームの実際の操作、訓練機であるジェミニ改の操縦を今回の飛行でしっかりと行う。

訓練が仕事である為、新型居住モジュール「アネックス」は使用しない。

この「アネックス」をロボットアームで取り外す。

それを自動操縦で、「こうのす」と並走する軌道に置き、乗ってきたジェミニ改を離脱させて、その標的として切り離した「アネックス」とランデブー飛行をしたり、ドッキングを行ったりする。

それが終わったら、再び「こうのす」に戻り、ロボットアーム操作で「アネックス」を元の位置に結合する。

ランデブー軌道に「アネックス」を遠隔操作して置き、そこからロボットアーム操作で元に戻すは3時間がかりで行う為、緊張もするし疲労もする。

船外活動は、命綱をつけ宇宙銃を持った「宇宙遊泳」、ロボットアームに乗って所定の場所に移動して機器設置を行う「船外作業」、命綱を付けず移動噴射や姿勢制御ができるセルフレスキュー用推進補助装置 (SAFER)を装着した「緊急時訓練」の三過程を行った。

彼女たちは熱心に、訓練を行っている。


「あー、腹減りましたね」

「結構体力消耗しますね」

「体力以上に精神削られた感じがしませんか?」

「ですねえ。

 このまま一杯飲んで、ベッドで寝ていたい気分です」

しかし、それは許されない。

一杯酒を飲むのはもっての外だが、彼女たちには「こうのす」当直の仕事も待っている。

正規の飛行士である以上、お客様扱いはされない。

「なんか飲み物有ります?」

「水かコーヒーかお茶か」

「コーヒーにします」

グイっと飲んで

「ああー、なんか癖になる!」

「甘いのはありますか?」

「熱いの用なら砂糖とノンカロリーシュガーが。

 アイス用ならガムシロップとメープルシロップがあります。

 あとコンデンスミルク」

「コンデンスミルク?

 どうしてそんなのが?」

「ベトナムコーヒー用に持ち込まれたのですが、結構大量に来てまして。

 結構使ったんですが、使い切る前に皆から『飽きた!』と苦情を言われましてね。

 まだ残ってます」

「じゃあ、それでベトナムコーヒー淹れてくれます?」


かくして脳まで疲労して甘いもの(糖分)を欲する上に、他の飲み物の選択肢が少ない状況で、ベトナムコーヒーにはまる女子2人が生まれてしまった。

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