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拡張は与圧室だけではない

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙は過酷である。

宇宙ステーションの船外は、太陽光が当たっていると120度程に温度が上がり、影の面に行くとマイナス150度程に冷える。

これを大体90分に一回繰り返す。

更に太陽からの紫外線や太陽風と呼ばれる荷電粒子が降り注ぐ。

その他に衛星軌道上の微小物質が当たったり、他の恒星からの放射線もやって来る。

故に、船外に設置するものには、そういう劣化要素を防ぐ措置が施されている。


「こうのす」のコア1の周囲には鳥籠(バードケージ)と呼ばれる船外活動を安全に行う為の金網が貼られている。

この金網は、宇宙遊泳の際に宇宙飛行士が船外に投げ出されるのを防ぐだけではなく、そこに機器を設置して、船外から観測をさせる事が出来る。

巨大なプラットフォームの役割も持っている。

ここに設置される機器だが、人工衛星やISSで本格的に運用するものより基準は緩い。

何回か短期滞在の外国人飛行士が持ち込んだのだが、長くても2ヶ月程動作すれば十分な造りであった。

特に総理からの招待で宇宙飛行士を派遣した、宇宙開発の発展途上国は、自分たちの技術実証の意味もあり、まずは短期間でも動作して、地上でそこで取られたデータを受信出来れば良かった。

工科大学や高等専門学校の学生が作ったものでも良い。

短期間のうちに宇宙の過酷な環境で劣化して動作しなくなるが、それは想定済みである。

まずは作ってみようというチャレンジである。


一方、水浄化に使う塩素や、実験機で使う推進剤といった「なるべく船内に持ち込みたくないもの」も船外で保管されている。

これらは温度が上がれば、中の気体が膨張して爆発する危険性がある為、太陽光を遮蔽するシールド、断熱材、中の圧力が上がった時に自動で放出する(バルブ)等を備えている。

船外を自動で補修するロボットも、避難場所があり、活動しない時間はそこに入って直射日光を避け、充電をしていた。


「この船外保管をもっと活用しましょう」

モジュールの接続に限りがある以上、こういう意見が出るのは当然と言えた。


現在、宇宙スクーターの実験を行っている。

基本的に今は船内に収納して、メンテナンス作業を行う。

将来的には船外に係留する。

この際に使うカバーも、実験材料の一つだ。

地上においても、屋外に駐車する際はカバーをかけて雨風を防ぐ。

盗難防止、いたずら対策の意味もあるが、宇宙ではそれは無いだろう。

風雨の代わりに、太陽光や太陽風から中の機体を保護する。


「このカバーの実用性が認められ次第、もっと積極的に船外保管を活用しましょう」

というわけだ。

カバーにも二種類ある。

一つは、ブルーシートというか梱包材というか、そういう上に被せてしまうものである。

もう一つはテントのように建てて、その中に収納させるものである。

両方とも、ワイヤーで設置する場所に固定する。


「だから、このワイヤーを結びつけるフック穴を増設すれば良いという事ですね」

そう言って秋山は「こうのす」の設計図を見る。

場所的、コア2側が空いている為、そちらを使おう。

簡単にフック穴の増設と言うが、簡単なものではない。

木造建築の家のように、ネジで取り付けるようなわけにはいかない。

接着剤で貼り付けるのも強度的に不安がある。

外壁の一部を外し、フック穴を増やした外壁と置き換える事になろう。

この作業が必要になる。


「詳細は設計担当に任せたい。

 どの部分の外壁を交換すれば良いか、検討して欲しい」


拡張は荷物置き場だけではない。

太陽電池パネルも増強及びメンテナンスが必要だろう。

既に述べたように、宇宙では素材を劣化させるものが飛び交っている。

太陽電池パネルも、直接発電部を晒してなく、表面をコーティングしている。

これが経年でガラスのような透明さから、すりガラスのような曇ったものに変わる。

このコーティングを貼り直す作業も必要だ。

「運用1年で約3%の発電量低下。

 まだ許容範囲だが、運用期間が延長されたから、いずれは作業が必要ですね」

そしてモジュール2機と拡張与圧室で何かをするとなると、消費電力の増加が予測される。

正直、「こうのす」はモジュール数に比して発電量は多い。

色々と電気の無駄遣いも可能だが、それは現在の構成と現在の発電量が維持出来た場合の話である。

モジュール数の増加と発電量低下は規定事項だ。


「想定最大消費電力を計算し、どれくらいの太陽電池パネルを増設するか、設計部門よろしく」

秋山は設計部門にかなり丸投げしている。

担当者にしっかり計算してやって貰わないと、これもまた単純に済ませられないものだ。

太陽電池パネルは案外質量がある。

家庭用太陽光発電だって、重さに屋根が耐えられるかを計ってから設置する。

家庭用なら、大体100kgが屋根の上に乗る計算となる。

雪国だと、これに冬場の雪を合算して計算し、家が大丈夫か確認する。

宇宙ステーションの太陽電池は、支柱が回転して太陽光を正面から受けられるよう最適の位置に動かす。

この際、重過ぎる、重心が偏ったりするのは問題だ。

また、配線の問題も起こる。

電気を作っても、送電しなければ意味が無い。

配線もやっつけ仕事ですると、回転時に絡まったりするだろう。


更に船内で使う電力が増えると、それによる熱も増える。

船外への放熱処理も改修が必要となろう。


今すぐではないが、1年以内の拡張に備え、仕様をガチガチに固めて作った宇宙ステーションの改修計画は進められていった。

言うのは簡単「増やすだけでしょ?」。

やる側は大変なのであった。

簡単に言われ、やってみて思った以上に大変、だが言った側は中々理解しない。

技術者はたまに泣きたい……。

作者も詳しくは言いませんが、作る側なので

「出来てから言わないで!」

「それを増やした事で影響出たんですが」

「簡単に出来るでしょ、とか言われると腹立つ」

という客先からの要望を飲みながら生きてます。

まあ、作業費請求しますが。

(たまに最初の見積もり内で収めろとか言われ、やるやらないの問題になりますが)

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