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軟式拡張与圧式の活用

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「いくつか出ているモジュールの中には、ずっとは使わないものがありますよ」

職員がリストを見ながら秋山に言った。

例えば宇宙での放送ブースというのは、その時使ったら後はしばらく予定が無い。

どのテレビ局も、宇宙常駐特派員なんてものは派遣しない。

手当がどえらい高いものとなろう。

(外注に頼むから、人権は余り考えない)

アメリカの映画会社の「撮影用セット」なんていうのも最たるものだ。

宇宙戦艦の艦橋と言っても、エンタープ〇イズ号だってコンスティテューション級とギャラクシー級じゃ作りが違う。

「いや、あの艦は人工重力使ってますから、地上で撮影すりゃいいんですけどね」

無重力の艦といえば、日本のロボットアニメのがあるが、あれも連邦と公国では内装が違う。

それを一回一回別々のを作るのか?

何らかの利用をしたいというのは分かるが、合理的にやりたい。

使い捨てで良ければ、打ち上げ、使用、その後廃棄でも良いだろう。

だが、また利用したいというリクエストも予測される。


「これ、今は倉庫や宇宙スクーターの実験場所として使っている拡張与圧室で何とかなりませんか?」

軟式拡張与圧室は、サイズ的に他の硬式与圧室と変わりが無い。

ビニールや強化ゴムの軟式外郭では強度に不安がある。

しかしアルミボディの硬式では重量が嵩む。

そこで、組み立て式の金属フレームの中に軟式外郭を膨らませ、強度と軽量化の両方をある程度実現させたのが、「こうのす」の軟式拡張与圧室である。

用途に応じて拡げる事も、縮める事も出来る。

現在は空気の循環を考えて、最大ではなく半分以下の3メートルの奥行にしていて、そこには廃棄予定の物や倉庫に入り切らない物資を置いてある。

たまに運動がてら、中で球技をしていたりするくらいで、有効活用とは言い切れない。


「よく思い出してくれました。

 確かにあそこなら色々と融通が利く」

「プレハブ小屋のセットというか、中の機材だけどこかに保管しておき、

 必要な時に持ち出してセッティングする。

 それが良さそうですね」

「その場合、器材をしまっておく倉庫はやっぱり必要ですが、それでも大分合理化は出来る」

顧客からの要望を全部聞いていたら事業は成り立たない。

落とし込めるところは、自分たちの規格に落とし込んで実現すれば良いだろう。


「拡張与圧室で出来ない事となると?」

例えば、貴賓室なんかはそれではいかないだろうが……

「それ、本当に打ち上げるんですか?

 あの合理的なNASAが。

 正直、大統領が代われば、そんな話消えるのでは?」

「忘れてはいけない。

 日本でも表向き反対、裏では私も行けるのか?と聞いて来る議員は結構いるんですよ」

「アメリカも同じ、と?」

「可能性はゼロではないですね」

一同溜息。

イギリスから提案された保険ではないが、とても何か有った時に責任持てない案件となる。

「多分、ですけどね」

秋山が言う。

「アメリカは、自前の宇宙ステーションにそれを接続しますよ。

 我々に求められるのは、そのテストデータの収集。

 だから、新機軸を入れたり、部屋の居住性を試す実験機のドッキング程度でしょう。

 本物を他国の宇宙ステーションに繋げるとは考えにくいです」

「それもそうですね」

となると、ある程度は使い捨てで良い。

実験機としてしばらく「こうのす」で試す。

テスト要員が帰還したら、ポートを空ける為にも切り離し、放棄する。

繰り返しになるが、何でも相手の要望を聞いていたらきりがない。

こちらに合わせて貰わねばならないところは主張するものだ。


「鶏舎も、今のを使う訳ではないですが、軟式モジュールで廃棄しやすい方が良いと思います」

現在の宇宙ステーションでの自給自足で、全く足りていないのが動物性たんぱく質である。

牛、豚、羊、山羊、馬、ワニ、ダチョウなんかはまず宇宙飼育対象外であろう。

鶏、ウズラ、合鴨、食用カエルくらいなら可能か。

七面鳥、ウサギあたりは微妙なところだ。

鶏は、鳥そのものを食べずとも卵を産んでくれる為、重宝するだろう。

だが、生物を飼うという事には問題がつきまとう。

こいつらはまず糞をする。

重力下では垂れるというように、下に落ちる。

しかし無重力では漂うであろう。

悪臭及び光景の汚さは酷いものになる。

それをずっと維持するか?

要が済んだら廃棄したい。

ならば、安上がりで済む軟式が良いだろう。

用が済んだら捨て、新しい軟式の幕を張って中に鳥籠を入れれば良い。


「鶏が突撃して、軟式の外壁を突き破らないかな?」

軍鶏を飼うわけではないので、そこまで気にしなくても良いが、仮に嘴や爪を立てて来ても、それで破れるような軟な素材ではない。

軟式と言っても、強度、柔軟性、弾力ともに十分なものを使う。


温室も軟式の方が良いかもしれない。

そもそも地上でだってビニールハウスというものを使っているのだ。

変に暖房を入れるより、直射日光で温められるようなものの方が省エネとなる。

「では、宇宙サウナも?」

「機械を置くような硬式モジュールより、こっちでやる方が良いかもしれませんね」

「納豆食う部屋も?」

「……まだ諦めて無かったんですか?

 納豆菌は強力過ぎるので、宇宙には持ち込みたくないのですが……」

だが、やるとしたらここだろう。

謎のレポート「無重力・密閉空間でシュールストレミングを食べるなら」の隔離場所も、こういうすぐに設置出来て、すぐに外して廃棄可能なものが良いだろう。


ずっと大した使い方をしていなかった拡張軟式与圧室や軟式モジュールについて、使用のアイデアが出るという思わぬ会議となった。

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