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住環境

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「こうのす」は、NASAも含む国際火星探査計画に先駆けて、如何に宇宙で快適な生活を送れるかを実験している。

ゆえに、そこで生活する事自体に意義がある。

ではあるが、居るだけでは意味がない。

そこで生活する事で取れたデータに評価、次に繋げる必要がある。


秋山はNASAやESA、更に各所の研究機関、企業等とのネット会合でそのデータを開示する。

取得した生データは、既にそれら参加者たち全てに送ってある。

データを出すだけならサーバで十分だ。

担当部門としては、データを出す他に、自分たちなりの分析や、目標とその達成度合いを発表しなければならない。


「では睡眠についての討論から始めます」

これまでに複数の機体で睡眠について調査を行って来た。

訓練用で住環境をほとんど考えていない、1960年代と変わらぬジェミニ改。

とりあえず移動して生活が可能な、ソユーズ宇宙船の居住モジュールの拡大版の「こうのとり改」。

快適な住環境を考え、余裕がある設計の「こうのす」コアモジュール。

そしてアメリカのホテル会社も企画に参加した「豪華なカプセルホテル」である新型居住モジュール「アネックス」。

これらで睡眠を取った飛行士の脳波や脈拍、呼吸から判断する睡眠の質、汗を計測したデータを示す。

当たり前と言えば当たり前だが、

・初日にピークを迎え、以降日数が経過する程、緊張を示す数値は低下する

・緊張についてはどの機体もほぼ同じだが、リラックスを示す脳波は広い方が出ている。

 無重力環境で体重による負担は無くても、やはり狭い寝所はリラックスをさせていない。

・寝所は開閉式になっている場合、前面が開放されている時の方がリラックス度合いが高い。

 閉鎖していても、自分との距離がある程リラックスする。

 逆に言うと、特に顔に近い場所で閉まっている圧迫状態ではストレスを感じる。

・背中部分の硬軟は特に睡眠の質に影響しない

・換気に関しては、有る方がリラックスする。

 無風状態よりは微風状態が良い。

 風が強くなり過ぎると、無意識に顔を背けるように動き、ストレスを感じている

というものをデータとして示した。


その後、アメリカが宇宙飛行士の経歴・宇宙経験・訓練日数等で細分し、それらの分類を元に眠りの質の差を分析したデータを出した。

同じデータでも切り口を変えれば別の見え方をする。

生データを送ったのは、こういう研究機関毎の視点の違いで、多様な角度から研究する為だ。

アメリカは、スペースシャトルやISSでの長期滞在者のデータも持っている。

また、日本のジェミニ改を自国でも訓練用に使用した。

「こうのす」を自分たちで使用したのも、日本任せでなくアメリカ用でもデータを取る為である。


更にアメリカでは、任務の違いによる疲労度合いを調べている。

同じ宇宙ステーションに居ても、例えば農業系モジュール常駐の飛行士と、有翼機投下が仕事の飛行士では拘束時間が異なる。

農業系ミッションスペシャリストは、非常事態でもなければ別段忙しい事は無いが、それでも1日の3分の2はどちらかのモジュールに詰めている。

そこでモニターを見ながらコーヒーを飲んでいるだけであっても、食事・睡眠・休憩・トレーニング以外は大体モジュール勤務だ。

一方、有翼機投下に携わるミッションスペシャリストは、忙しい時は極端に忙しい。

失敗したら宇宙まで来た意味が無いから、極度に緊張もする。

しかし、緊張する時期が過ぎれば、後は気楽である。

ドッキングモジュールの管理も任務だし、倉庫管理も行うが、常に忙しい訳でも、失敗が許されない緊張する仕事でもない。

こういう違いから、疲労・緊張・興奮度合いと睡眠の質を調べる。

「閉鎖空間に居る為か、地上での生活と比べ、ある一定以下にストレスが低くならない。

 あと、宇宙線の被曝との関連で、目に光が走る現象がある時間帯、眠りが浅くなる。

 だが、任務が忙しく、変化がある場合は眠りの質が向上する。

 閉鎖空間に在って、変化とは極めて有効なリフレッシュの方法と言える」

アメリカの研究者は、データからそう読み取った。

この変化は、短期滞在隊が到着した時や、任期終了での交代時で人と会う時にも精神状態の向上として表れる。

地上との交信も、定時交信だけでは次第に慣れて来てしまうが、子供と話すとかテレビ中継に出る等で適度に緊張すると、その後の精神状態が極めて良くなり、その晩の睡眠も質が上がる。


「月基地滞在、火星への飛行は長期間単調な生活になると予測される。

 いくら優れた睡眠環境を用意しても、単調な生活を繰り返していると睡眠の質が低下する。

 何らかの刺激があると、睡眠の質は目に見えて向上する。

 睡眠によって、体力や神経疲労の回復が行われる。

 長期滞在においては、刺激を与えられるような計画を立てるのが重要であろう」

これが現在、月や火星での長期滞在を具体的に考えているアメリカによる、「こうのす」等で得られた「快適な宇宙での生活環境」実験で得られたデータを分析しての考察であった。


「あとは、農業系のミッションスペシャリストは他の飛行士に比べ、リラックスしているようだ。

 緑、つまり植物と接している事にセラピー効果があるのか、

 植物でなくても生物との関わりならば良いのか、

 この辺りはこれからの研究テーマとして興味深いだろう」

という意見も出た。


きっと将来の長期滞在型宇宙施設には、食用や酸素生産も兼ねた農耕、おそらくは水耕とその任務が加えられる事だろう。

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