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農業もテーマ追加

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙での農業は、大分ルーチンワーク化して来た。

水耕の方は特にそうだ。

ほとんど工場である。

液の成分管理、湿度・温度・日照の調整、収穫期の確認とほとんどコンピューター管理している。

レタスなどの葉野菜、ハーブ、そして一部の大根等が収穫され、食用とされる。

宇宙ステーション「こうのす」におけるビタミン源であった。


「これだけではつまらん!」

土壌農耕モジュールでは、これまでの播種からの収穫と自家採種による「完全自給自足への道」や、宇宙における連作障害について実験をして来た。

そこに新しいものが加わる。

それが果樹の育成である。


これは今までとは違う。

果樹は、種を撒いてから果実を成すまでに時間が掛かるから、正直それ以前に「こうのす」の運用は終わるだろう。

だから、既に結実するまでに成長した樹や蔓を、処理済みの土壌ごと鉢植えのようにして持ち込んだ。

レモン、葡萄、オリーブ、ブルーベリーが試験用に「こうのす」で育てられる。


「葡萄は、出来たらワインにしたいとこですね。

 幸い酵母はありますから」

料理長が言い、一部の飛行士も頷くが

「ダメです。

 これは実験と、ビタミン摂取用です!

 それにワイン作る品種じゃないですよ」

と農業部門の責任者である久保田飛行士が断る。

船長もその通りだと言う。

そして、2人とも

(やろうと思えば、生食用の葡萄でもワインは作れる。

 やってやれない事はない。

 パン用のドライイーストでもワインは作れる。

 味や匂いはともかく、作れる。

 隙を見せないことだ!)

と心の中で思っていた。


「まあ、戦国時代の足軽みたいに、勝手に酒を造るなんてしないでしょうけどね」

戦国時代、足軽に三日程度で使う分以上の兵糧米を渡してしまうと、余った分を使って濁酒を造ってしまう者が現れたとか。

統制が効かない臨時雇いの兵士とは違い、きちんと教育を受け、訓練を潜り抜けて来た者たちだから安心出来ると思いたいが

「南極の昭和基地では、ワイン醸造所を造ってしまった越冬隊員が居るからなあ。

 賢くて理性がある者でも油断は禁物だよ」

船長はそう言っている。


実は、補給品としてしっかり倉庫で備蓄管理をしているものに比べ、収穫物は管理が難しい。

日持ちがするから、長期隊が帰る頃まで乾パンやドライフーズ、冷凍食品は食べられる。

故に倉庫にどれくらい在庫が有り、何パック使ったのかは記録している。

そういうギチギチの管理をしているものに対し、生鮮食料品は少し異なる。

消費する一方の補給品に対し、農作物は増えるのだ。

それが定量的なら良いが、一定の量収穫されるとは限らない。

水耕農業の方は管理された栽培だから、収穫量も収穫時期もズレはまず無い。

だが土壌農耕の方は、実験も兼ねている為、収穫量は上下するし、収穫時期も目で見て

「これはまだ早いな」

「これはもう収穫しないと熟れ過ぎる」

とか農業系ミッションスペシャリストが判断する。

その収穫量を重さで計測し、サンプルとして地上に送る物や、分析に回す物を除き、後は食べる。

一応冷凍庫は有るが、冷凍保存にも限度がある。

単に冷やせばいいだけなら船外に持っていけば凍るのだが、冷凍食品とはそういうものではない。

また、野菜は重量そのままを食べる事はほとんど有り得ない。

皮は剥くし、葉は落とすし、根本と先端も捨てる。

栄養価も、サンプルから大体の計測はするが、最初から加工済みのものと違って厳密な計算対象とはなれない。

そして、余り放置し過ぎると腐って、ただ廃棄するしかなくなる。

如何に料理長が

「同じ食材を使い回す癖がある」

と不満を持たれても、ある程度仕方が無い部分があった。

初期はともかく、栽培が軌道に乗って来た今は生産調整をした方が良い品目もある。

更に第四次隊が「こうのす」に来る前の二ヶ月は、アメリカが利用していた。

この時、彼等は日本のモジュールの野菜を、食べはしたが、大量に使って減らすまでの事はしていない。

気を使ったようだ。

その結果、倉庫の中には余った物が目立つようになる。

まあ、以前からインスタントコーヒーは余っていたのだが……。

その結果、スペースを空ける為にも早く消費したい心理が働いたのが、ここのところの食生活に出ている。


この感じで考えると、もしも葡萄が余ったなら?

管理上は廃棄となるし、一方で宇宙ステーション生活としては

「決して捨てず、無駄を無くする」

のが原則だ。

潔く捨てるのでなければ、一番良いのはジュースにして嵩まないようにする事だろう。

そしてブドウジュースは、ワインへの一里塚……。

「酵母を加えて発酵させた後、ガス抜きし、澱を除けばワインの出来上がり。

 味は保証の限りではない。

 ガス抜きせずに発泡(スパークリング)ワインとしたり、砂糖を加えて更に発酵を強めて炭酸ガスをより多く出したら、無重力環境では御法度。

 あと、家庭消費が原則だから、これをISSに持って行ったら違法になりますね」

「……まあ、そもそも宇宙ステーションでの飲酒自体勧められないものだが」

この事が知られてしまったら、警察とかは来ないが、ISSからの帰路のロシア人がまたソユーズに乗ってやって来る可能性がある。


「僕はカブの専門家であって、果物の面倒はともかく、それを使ってワイン作りをする人の監視とか、余計な作業なんですがね」

「まあ、万に一つもおかしな事をする飛行士は居ないと思うけど、一応ね!

 そんな事した飛行士は、船長権限で強制的に地球帰還させるけどね。

 一応気には留めておいて下さい」


これで米も栽培し始めたら、また酒造問題が出て来るのかな?

とか思いつつ、久保田飛行士はカブを育てるのだった。

宇宙で千枚漬けを作るという野望の為に!!

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― 新着の感想 ―
[一言]  葡萄を栽培すると酒にされたり酒造計画として押し切られたりしないよう、久保田さんの眠れない日々が始まりそうです。おいたわしや……。 > 一里塚  もしもジュースにしてしまったら、あとは醸し…
[一言] ほうこうおんち 様 宇宙で千枚漬けを作るという野望の為に!! ぶっ飛びました! おお受けしました!! 楽しそうな野望ですね<(_ _)>(*^-^*) いつも楽しく拝読しています<(…
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