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「こうのす」でのお・も・て・な・し

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

観光客としてとある富豪を乗せたロケットが、アメリカから打ち上げられた。

低軌道を周回する「こうのす」には、最短で6時間でのドッキングと10時間以内での乗り移りが可能である。

これはアメリカの低緯度から打ち上げた場合で、日本の種子島宇宙センターからの場合はもう少し軌道修正に時間がかかるが。

宇宙船間の気圧調整、「こうのす」のシステム正常動作を確認し、ハッチが開く。


「ほお! これはこれは!」

某企業CEOを勤める富豪の観光客は、その清潔さに目を見張った。

SF映画で見る白い近未来的な空間。

それに比べたらコンピューターパネルやロッカー、トレーニング機材等で雑然としているものに、十分「これは宇宙船だ」と思うような内部であった。


CEOは早速自撮りで動画撮影を始めていた。

「フォロワーの皆!

 見てくれよ。

 私は本当に宇宙に居るんだぜ!」

携帯端末からライブ配信する程回線速度は速くない。

宇宙からインターネットは可能だが、そういう私用回線はセキュリティの問題から分けてある。

ライブ配信は、本体・コア1のカメラからでないとならない。

こちらは専用回線を使い、JAXAかNASAのサーバにデータを送れる。

そのネットワークセキュリティが確保されたサーバから配信が行える。


まあ、自分で動画編集してアップする分には問題無い。


お客さんがはしゃいでいる間に、日本人飛行士は土壌農耕及び水耕モジュールの状態チェックを行う。

料理人は厨房モジュールに入る。

「へえ~、本当にシミュレータ通りの物が有るんだ」

料理人は驚く。

彼は宇宙酔いを感じ始めていたが、感動と職場に入っての緊張とがそれを吹き飛ばしていた。

「失礼しますよ」

日本人飛行士がノックする。

「大分育ってた葉野菜、使って下さい」

「OK!

 お客さん(ゲスト)草食主義者(ベジタリアン)だから、新鮮な野菜は嬉しいよ」

「収穫期でもあって、割と食べ頃のが多いから、頼みますね」


専門の飛行士2人は、船内各部のチェックを行う。

「後発なだけあって、良いコンピューター使ってるな」

「まあISSは1998年、20世紀から使ってるからなあ。

 更新は色々やってるけど、老朽化は避けられない」

そんな事を言いながら、使用する各部のチェック作業を行う。


「これは、風呂(バスユニット)か」

「前のクルーは使わなかったようだな」

「そりゃ、宇宙飛行士からしたら、風呂なんていう大量に水を使うものは、想像の範囲外だからな」

「水は独立で、循環装置もあって無駄使いにはならないようだが」

「それは分かるが、やはり水を大量に使うという感覚がしてならない。

 日本人はそういう意識が無いのかもしれないが」


感覚的なものがある。

そもそも、日本人と古代ローマ人程に湯浴に拘らない国民の方が多い。

シャワーで十分と考える。

かけ流しなら、シャワーはかえって水の無駄使いじゃないか、と考えるのが日本人だったりする。


……そして、バージョンアップを続けた浴室は、現在

・ドライサウナ

・マイクロウェーブスチーマー型フィンランド式サウナ

・ジャグジー機能付き湯舟カプセル

が備わっている。

そして浴室の横にはマッサージチェア(シートベルト付き)、フットマッサージャーが。

更に四角いケースの中に、牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳の瓶もある。

牛乳瓶のキャップを外すと、中から無重力用の飲み口が現れる。


「……こういう事にエネルギーを消費するのは、何か凄く無駄なような気がするのだが」

「彼等の実験テーマだ。

 我々の基準で考えるな」


アメリカ人の、きちんと宇宙飛行計画に従って訓練をして来た者には違和感だらけである。

快適な生活こそが実験テーマである事と、悪乗りの結果、風呂以外も中々凄くなっていた。

「トレーニングスペースにはスポーツドリンクの保冷機(クーラー)か」

「トイレもシャワー付きなだけでなく、まるで宇宙船のコックピットのようなパネル付き。

 まあ、ここは宇宙ステーションそのものなんだが」

「この、頭にソフトクリームのようなものを乗せたフィギュアは一体何だろう?

 なぜこのフィギュアが誇らしげにトイレに飾ってあるのだろう?」

「これは、ゲーム機か?

 手裏剣を投げるダーツ機のようだな」

「無重力対策された観葉植物もあるぞ」


宇宙飛行士2人は顔を見合わせた。

「一個一個で見れば大した事ないが、こう纏まっていると凄いね」

「日本人は宇宙ステーションに何を求めているのだろう?」

「だから、快適な生活だってさ」

「分かるんだが、分かるんだけどさ、分かるつもりなんだが……」

「君のジレンマはよく分かるよ。

 宇宙ステーションっていうのは、もっと禁欲的(ストイック)な設備な筈だよな」

「そう、それだよ。

 ここは自分が知っている宇宙ステーションとは違い過ぎるんだよ」

「まあ、慣れようか」


ISSにしてもスペースシャトルにしてもオリオン宇宙船にしても、もっと無駄を省いた生活空間である。

それに慣れた二人は違和感を感じまくっていた。


その二人とは違い、今回宇宙行を金で買ったCEOには、実に快適な空間であるようだ。

当然無重力という困難さ、密閉空間の不便さはある。

それを差し引いても、清潔で快適さを追求していて、彼には生活しやすい。


「いやあ、まさにSF映画で見た宇宙船だね。

 これくらいの不便さなら十分我慢出来るよ。

 火星とか月とかの生活も、こんな感じなら私も立候補してみようかな」

新鮮なサラダサンドを食べながら、お客さんが笑う。


宇宙飛行士二人は思う。

(いや、ここだけだから。

 ここだけ異常だから。

 日本人、変なとこに力入れ過ぎだから。

 火星探査基地とか月恒久基地とか、多分ここまで凝らないから!)

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― 新着の感想 ―
[一言] 恒久基地も常時一千人以上滞在するようになったらこれくらい快適になるかもしれませんね。
[一言]  日本人の求める快適性。  ふむ…… 1)風呂 2)トイレ 3)布団 4)食事  ふむ、五番目は何だろう?  ちょっと想像・妄想してみた。  猪脅しがコーーーンと鳴る。  畳にちゃぶ台&座…
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