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総理!あなたはそんなに宇宙に行きたいのですか?

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙ステーションを運用するに辺り、「出来るだけ地上に近い生活を」という大テーマの中の小テーマ、どういう方針で第四次隊に宇宙船を運用させるか。

このテーマを決める事にJAXA職員は悩む。

やりたい事は多数あるが、どういう生活テーマにするか、というのは今一つよく分からない。

ちょっと悩んでいるという事を、どうやら総理が聞きつけてしまった。


「なんか皆さん、悩んでいるようですね」

総理がモニターの向こうでニヤニヤしている。

忙しい総理が、わざわざ時間を割いて秋山をテレビ会議に呼び出したのだ。

大体(職員にとって)ろくでもない事を思いついたに違いない。


「アメリカとタイアップして、新型の豪華な居住区をくっつけたと聞きました」

「はい、短期滞在隊の宿泊モジュールです。

 お客様(・・・)だから丁重にもてなすよう、総理が指示されましたよね」

「うむ、そうだ、私がそう言った。

 どうだい、中々役に立ったのではないかね?」

役に立ったかどうかは微妙である。

別に短期滞在隊も、普通の寝袋式個室に押し込んだって構わない。

ある意味「人間をダメにするベッド」であり、短期滞在隊は今ひとつ緊張感の無い感じになる。

出来るだけ地上と同じような生活を求めた結果、確かに大して訓練を受けていないミッションスペシャリストも受け入れ可能となったが、正規の宇宙飛行士に見られる緊張感には欠ける。

それが良い事か、悪い事か。


「あの宿泊室はね、アメリカの富豪とかが宿泊しても良い設計になっている。

 ISSに観光宿泊させるとその分任務が遅れる。

 その肩代わりってのも、日本の宇宙ステーションにはあるからねえ」

それもある。

「こうのす」はISSの補完機なのだ。

ISSではすべき計画が詰まっている。

高度な実験はそちらでやる。

だから、お客様としてISS計画参加国でない国の飛行士や、観光・レジャーで宇宙に来る富豪は「こうのす」の方に回せば、アメリカや欧州宇宙機構も助かるのだ。


「料理も美味しいと聞くよ」

「お陰様で」

「宇宙へ行く敷居も大分低くなった。

 アメリカ大統領も気に入っていますよ」

「はあ……」

そろそろ雲行きが怪しくなって来た。


「ズバリ言っちゃいますね。

 私が行っても大丈夫な宇宙船、それを次のテーマにしませんか」

「は???????????????????」

「いや、だから、政治家で年齢も高い私が行ける宇宙船」

「あの、すみません総理。

 宇宙をナメないで下さい。

 生きて帰れるか、まだ分からないのですよ。

 万が一に備えて、常に気を張っているのです。

 そんな所に一国の首脳を送るなんて無理です」

「でも、先日71歳の老教授を宇宙に送りましたよね?」

「あれは、その必要があったからで……」

「前回は、訓練もそこそこに水道局の人に無理を言って宇宙に行って貰いましたよね」

「あれも、その必要があったからで……」

「まあ、第三次短期隊で私が行く、なんて言いませんよ。

 地上で色々とやる事が有って、それらを放って宇宙に行ったら、マスコミに何を言われるか分かりませんからね」

「はあ……」

「ですが、考えておいて下さい。

 訓練もろくにしていない、技術者でもない、年齢も高い人間が行っても大丈夫な宇宙船。

 快適な生活が出来る宇宙船。

 将来的に観光客受け入れ、商業宿泊を考えているのですから、私のような人間でも大丈夫だ、というのをテーマにしましょうよ」

「確かにそれは良い提案です」

「でしょ!」

「質問してよろしいでしょうか」

「何でしょう?」

「総理は本当に宇宙には行かないのですね?

 あくまでも『総理のような一国のVIP』を受け入れても大丈夫な宇宙船、

 その為にお題目代わりに名前を使う、そういう事でよろしいですね?」

「ああ……えーっと、次の会議の時間だ。

 済まないが、関係各省と協議の上で答弁させていただきます」

「総理!!!!!」

そのまま会議は一方的に切られた。


まあ確かにそれもアリだ。

老教授や水道局員という、非ミッションスペシャリストに短期とはいえ宇宙に行って貰ったのだ。

敷居を更に低くする。

宇宙をもっと身近なものにする。


それに、総理は「日本のロケットで打ち上げる」とは言っていない。

VIPやセレブを乗せても大丈夫な、余裕のある往還機はアメリカのものだろう。

ソユーズやジェミニ改のような狭い機体をわざわざ使う事も無い。

その上で「こうのす」にドッキングした後は、実験機器だらけ、半年分の物資をあちこちに置いているISSに比べ、快適な生活が出来る。

将来的にそういう設備にしていく為に、例えば光合成で酸素を作る事も兼ねて植物プラントを作るとか、浄水と自然を見ての癒しを兼務した干潟を再現するとか、細部(ディテール)を考えられる。

第四次だけでなく、もっと長期のテーマとしても使える。


だが……

「あの口調、絶対本人が宇宙に行く気満々だな……」

総理、もしくは任期終了か辞任して元総理となっても、過去にそういう人間が宇宙に行った事は無い。

行くとなれば注目度的にも大変な事になる。


(昔、NASAの退官職員に散々教えられた。

 失敗が当たり前で、成功が奇跡だと思え、と。

 一万回シミュレーションで飛行士を殺し、失敗を糧にしろ、と。

 それが宇宙なのに、ちょっと甘く見過ぎているよなあ)


そう思う秋山の元に、しばらくしてリストは送られて来た。

数多くの国会及び地方議員、海外の政治家や王族、企業家の名前が記されている。


『【部内秘】

 日本の宇宙ステーション「こうのす」への宿泊、宇宙飛行を希望するかアンケートを取り、

 希望すると答えた人たちのリスト。

 決してマスコミに漏らさないように』

とある。

頭を抱える秋山であった。

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