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水処理について

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「こうのす」計画は「可能な限り、地上と同じ生活を」をテーマとしている。

国際宇宙ステーションでは出来ない実験だ。

厳重に管理されているとはいえ、土壌菌やイースト菌等の菌類を持ち込んでいるのもそうだ。

料理や飲み物の水分も、通常の宇宙食より多い。

だから、ISSに滞在する正規の宇宙飛行士は、往路や滞在中に「こうのす」に立ち寄る事は禁止されている。

無重力を使った研究や精密機械や薬品の製造を試すISSで、菌類がいる宇宙船に立ち寄り、利尿作用のある飲料を摂取する、舌を贅沢するのは好ましくない。

「こうのす」の長期隊が、長期といっても3~4ヶ月の連続滞在なのに対し、ISSの場合は約半年、長い場合は10ヶ月連続滞在する。

帰路の寄り道で御褒美の一杯は許されるが、これから長期間の宇宙生活が続く者には訓練で整えた体を乱す事はさせない。


もっとも、「こうのす」はISSに問題が発生した時の避難場所の役割も担う。

その避難訓練で「こうのす」を訪れる事はある。

その場合でも、ドッキングはしてもハッチ開放は許可されない。

少し広い場所で休憩する場合、ISSと同様の無菌処理で隔離されている多目的ドッキングモジュール内の控室までとなる。


ホテル会社と民間宇宙企業が提携した新型居住モジュールを「こうのす」に接続させたのは、正規の宇宙飛行士程訓練されていない民間人の富裕層(セレブ)受け入れを、ISSから「こうのす」に回す為だ。

彼等が吸う酸素、飲む水、食べる食糧もISSの貴重なものではなく、割と頻繁に補給が可能な「こうのす」のものにしたい。


というわけで、「こうのす」は長期隊、短期隊、万が一のISSクルーの避難を合わせると相当数の人数を収容する事になる。

その場合、計画を切り上げて順次地球に送り返すが、数日は大人数が「こうのす」で生活する。

その時はコア1、コア2という普段はどちらかで大丈夫な生命維持装置を、両方動作させる事になる。

数日を凌げれば良い。

その僅かな期間に「こうのす」の方も壊れてしまっては困る。

そこでコア1、コア2の水回りの負担を減らし、非常には酸素発生能力も付与した「水環境・浄水機能実験モジュール」が接続されたのだった。




基本的なパイプや浄化槽の清掃が終わった為、室戸飛行士の次の作業は配管工事となる。

ここからは塩素は使わず、汚れも無い為、コア1の減圧状態を解除する。

久々にコア1の中央を走り、両端のドッキングポート間を繋いでいた回廊が取り外され、他の飛行士たちもコア1を使用可能となった。


「一応筋トレはコア2でしていたけど、本格的な機材はコア1だったからな」

バイク漕ぎや負荷加圧トレーニングの為、運動区画に人が並ぶ。

出入りがしやすくなった土壌農耕モジュール、厨房モジュール、多目的ドッキングモジュールで担当者の出入りが頻繁になる。

以前の生活が戻って来た。


「では、そろそろ船外活動が必要になります。

 サポートをお願いします」

 今まで一人で黙々と作業をこなして来た室戸飛行士が、橋田船長と古関副船長に協力を依頼する。

 流石に船外作業は自分一人では無理だ。

 ミッションスペシャリストではない、運用に関わる飛行士である2人は直ちに準備にかかる。


古くは宇宙船の排水は船外投棄であった。

尿を船外に放出、すると瞬時に凍って氷の結晶が出来る。

その数千の結晶が太陽の光に当たると、キラキラと輝く。

アポロ9号のシュウェイカート宇宙飛行士は、日没時に太陽光を受けて光る尿が、軌道上で見る一番美しい光景だったと述べていた。


宇宙ステーションが出来て、水を再利用するようになってからは船外投棄はしなくなった。

とはいえ、非常時には船外に廃棄する。

その為のパイプが「こうのす」にもある。

これを利用する。

パイプを船外廃棄用と、水処理モジュールへ送る口へのものと分ける。

その部分の外部パネルを外し、取り換え作業を行う。

そして、水処理モジュールに接続してパネルを元に戻す。

これは下水の方だ。

上水用の作業も行う。

これは給水用の口がある為、やはりここに水処理モジュールからのパイプを連結する。

これらの連結において、一部パイプが船外の露出している部分がある。

与圧室内、狭いドッキングポートを通した柔らかいホースを使えばこういう事は起こらないが、人の往復の妨げになる為、船外でコア1と水処理モジュールとの循環パイプを通したのだ。

ゆえにこの部分は、太陽光が当たらなければ凍り付く事が予想される。

そこで、断熱材を巻いて保温する。

グルグル巻きにして固定する。


こうした一連の作業を、一回あたり2時間の船外活動を何度も繰り返して行った。

作業終了までに、2日を要した。

室戸飛行士はこの作業を辛抱強くこなし、2人の正規飛行士もよくサポートした。

これから「こうのす」を利用する宇宙飛行士、ミッションスペシャリストたちは、室戸飛行士に頭が上がらないだろう。


そんな職人肌の室戸飛行士だが、ちょっとした趣味がある。

プロレスである。

ここに来る途中も、メキシコ人飛行士と宇宙(スペース)ルチャをしていたくらいだ。

その室戸飛行士が作業を行ったトイレで、あるものを見つける。


「なんだい、この頭にソフトクリーム(エラード)を乗せ、胴体に日本のトイレをくっつけた人間のフィギアは?」

それは室戸飛行士がトイレ回りの作業をしたという事をさりげなくアピールしたオブジェであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>帰路の寄り道で御褒美の一杯は許されるが、 許されちゃったんですね…
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